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5/6

石眼の剣士

■1


石眼将ガルザの城。


最上階。


荒野を一望できる露天の広場に、ガルザは立っていた。


その前には、小さな魔法陣。


淡い光の向こうから、低い声が響く。


「――報告を」


ガルザが片膝をつく。


「はっ」


「勇者レオンと同じ剣技を使う人間が現れたとの報告を受け、確認いたしました」


「…………」


「ですが――」


ガルザは静かに言う。


「勇者の血族ではありません」


魔法陣の向こうから声が返る。


「そうか」


「はい」


ガルザは少しだけ目を細めた。


「ただ……」


「無関係とも思えません」


その時。


下の階から――。


ダダダダダッ!


階段を駆け上がる足音が響いた。


ガルザが振り返る。


次の瞬間。


黒いマントの少年が、最上階へ姿を現した。


ガルザは再び魔法陣へ向き直る。


「どうやら、ゴルドも敗れたようです」


「続きは後ほど」


魔法陣の光が消える。


ガルザはゆっくりと立ち上がった。


カイルが剣を抜く。


ガルザも腰の剣へ手をかける。


荒野の風が、二人の間を吹き抜けた。


「来たか」


■2


「ガルザ!」


カイルが床を蹴った。


――ドンッ!


一気に間合いを詰める。


剣を振り下ろした。


――ガキン!


ガルザが剣を抜き、その一撃を受け止める。


「……!」


刃と刃がぶつかり合う。


ガルザが、カイルの剣筋を見つめた。


「この剣技……」


一瞬、勇者レオンの姿が脳裏をよぎる。


「レオン――」


だが。


すぐに否定する。


「いや、違う」


ガルザの目が細くなった。


剣を通して伝わってくる、カイルの魔力。


その波形に――覚えがあった。


「……この魔力」


七年前。


勇者の傍らで戦っていた、一人の少女。


「セリア……?」


カイルの目が鋭くなる。


ガルザが何かに気づいた。


「そうか」


「貴様――」


「聖女セリアの……!」


「弟だ」


カイルが剣を押し込む。


「姉さんをどこへやった!」


ガルザはカイルの剣を弾いた。


――ガキン!


二人が間合いを取る。


「さあな」


「知らん」


「だったら――」


カイルが再び剣を構える。


その時。


ガルザの眼が、妖しく光った。


石化魔眼――《ゴルゴン・アイ》。


「!?」


次の瞬間――。


この眼を見続ければ、石にされる。


そんな予感が、カイルの全身を駆け巡った。


■3


カイルは、とっさに後ろへ跳んだ。


ガルザとの間合いを取る。


そして――。


目を閉じた。


「ほう」


ガルザが剣を構える。


「そうだ」


「七年前、勇者レオンも同じことをした」


カイルが床を蹴る。


――ドンッ!


目を閉じたまま、一気に間合いを詰めた。


――ガキン!


ガルザが剣を受ける。


続けて、二撃。


三撃。


――ガキン!


――ガキン!


「……!」


ガルザの表情がわずかに変わった。


カイルには何も見えていない。


それでも。


風の音。


足音。


剣が空気を切る気配。


それだけを頼りに、正確に剣を振るってくる。


――ガキン!


ガルザが一歩下がった。


カイルの剣先が、その頬をかすめる。


「くっ……!」


ガルザが目を細める。


(こいつ――)


再び剣が迫る。


――ガキン!


(目を閉じているというのに……)


さらに一撃。


(剣技は――)


ガルザの顔から、笑みが消えた。


(勇者レオンより上か……!?)


その時だった。


「ガルザ様!」


階段の方から声が響く。


ガルザとカイルが動きを止める。


一本角の魔族兵が、最上階へ駆け上がってきた。


その後ろには――。


両腕を押さえられたミレア。


「カイルさん!」


「ミレア!?」


魔族兵が叫ぶ。


「侵入者と行動を共にしていた人間を捕らえました!」


ガルザが、ミレアを見る。


一瞬。


その目に、七年前の光景がよぎる。


そして。


ゆっくりと笑った。


「……七年前と同じか」


「どうやら――」


ガルザは剣を下ろす。


「神……いや」


口元を吊り上げた。


「悪魔は、私に味方するらしい」


■4


「カイルさん!」


「ご、ごめんなさい……!」


カイルは連撃を止めた。


大きく後ろへ跳ぶ。


――ダンッ!


そのままミレアの方へ向かおうとする。


「ミレア!」


その時。


ガルザが、ミレアへ視線を向けた。


「おい、女」


「え?」


ミレアが反射的にガルザを見る。


視線が交わった。


ガルザの眼が、妖しく光る。


「――!」


次の瞬間。


ミレアの姿が消えた。


「えっ!?」


そして――。


パッ!


「きゃっ!」


ミレアが、ガルザの目前に現れる。


ガルザはその身体を片腕で捕らえた。


剣を抜き、その刃をミレアの喉元へ添える。


「ミレア!」


ガルザは、ミレアを連れてきた魔族兵へ目を向けた。


「もういい」


「下がれ」


「はっ!」


一本角の魔族兵は頭を下げ、階段を降りていった。


屋上に残ったのは――。


カイル。


ミレア。


そして、ガルザ。


■5


ガルザは、ミレアの喉元に剣を添えたまま笑った。


「剣を捨てろ」


「…………」


カイルは、ゆっくりと剣を下ろした。


カラン。


剣が床に落ちる。


「そのまま、こちらへ来い」


カイルが一歩踏み出す。


だが――。


目は閉じたままだった。


ガルザの剣先が、わずかにミレアの喉へ食い込む。


「目を開けろ」


カイルの足が止まる。


「聞こえなかったか?」


「目を開けたまま、こちらへ来い」


「さもなければ――」


ガルザがミレアを引き寄せる。


「この女を殺す」


「カイルさん……!」


「ごめんなさい……」


カイルは何も答えない。


やがて。


ゆっくりと目を開いた。


ガルザと視線が交わる。


その眼が、妖しく光った。


カイルの指先、足先に、灰色の石化が広がり始める。


「そうだ……」


ガルザが笑う。


「七年前も同じだった」


カイルが一歩進む。


石化は手、足、体の先端から。


少しずつ体の中心に広がっていく。


「勇者レオンも、聖女を守るために私の眼を見た」


また一歩。


「愛情」


また一歩。


「友情」


石化が右腕を覆っていく。


「絆――」


ガルザは吐き捨てるように言った。


「くだらん」


カイルは止まらない。


「自分の命以上に大切なものがあるなどと考えるから――」


右手が完全に石へ変わる。


「人間は弱い!」


カイルは、もうガルザの目前まで来ていた。


その石の拳を、ゆっくりと握りしめる。


「……いいのかよ?」


ガルザが眉をひそめた。


「何?」


カイルが石の拳を構える。


「もう俺の間合いだぜ!」


■6


「もう俺の間合いだぜ!」


「!?」


カイルが石の拳を振り抜いた。


「オラァ!」


――ドゴォッ!


「ぶべらっ!」


ガルザの顔面に、石の拳がめり込んだ。


その身体が大きく吹き飛ぶ。


「きゃっ!」


解放されたミレアが、その場に倒れ込んだ。


カイルの身体を覆っていた石化が、一瞬で戻る


ガルザは屋上を転がる。


「ぐ……!」


起き上がろうとした、その瞬間。


カイルが飛びかかった。


「なっ――!」


ドンッ!


ガルザを仰向けに押し倒す。


そのまま馬乗りになった。


「貴様っ!」


カイルはガルザを押さえつけたまま言った。


「ミレアさん」


「は、はい!」


「屋上の扉に、カンヌキをかけてください」


「え?」


「誰も入ってこられないように」


ミレアはすぐに意味を理解した。


「は、はいっ!」


階段へ駆けていく。


ガルザが身をよじる。


「貴様……何を――」


カイルは答えない。


ただ、拳を握った。


■7


――ドゴッ!


「ぐはっ!」


カイルの拳が、ガルザの顔面に叩き込まれる。


――ドゴッ!


「がっ……!」


どれほど殴り続けただろうか。


ガルザの顔は腫れ上がり、両の瞼も大きく塞がっていた。


もはや――。


石眼を使える状態ではない。


カイルが、もう一度拳を振り上げる。


「カ、カイルさん!」


ミレアが駆け寄った。


「それ以上殴ったら、本当に死んじゃいます!」


カイルの拳が止まる。


「それに――」


ミレアは息を切らしながら続ける。


「死んじゃったら、お姉さんのことを聞けなくなります!」


「…………」


カイルは、ゆっくりと拳を下ろした。


ガルザの胸ぐらをつかむ。


「そうだったな」


ガルザを引き起こす。


「聞かせてもらうぞ」


「姉さんたちは――」


カイルの目が鋭くなる。


「どこにいる?」


■8


カイルは、ガルザの胸ぐらをつかんだ。


「七年前――」


「姉さんを石にしたのは、貴様だな」


「…………」


ガルザは答えない。


「姉さんたちを、どこへやった?」


「…………」


「答えろ!」


カイルが胸ぐらを強く締め上げる。


ガルザは苦しそうに顔を歪めた。


やがて。


「……フン」


「いい気になるなよ、人間……!」


「何?」


ガルザが歯をむき出して笑う。


「俺を倒したくらいで――」


「貴様ら人間に、勝ち目などない!」


カイルが眉をひそめる。


「あの石像の力で――」


ガルザが叫ぶ。


「あのお方が復活すれば!」


「…………」


カイルの手が止まった。


ガルザも、そこで言葉を止める。


「……?」


カイルの表情が変わる。


「そうか」


「何?」


「石像は――」


ガルザをまっすぐ見下ろす。


「まだ、破壊されてないんだな」


「――っ!」


ガルザの顔が強張った。


「くっ……!」


「さあ、言え」


カイルが再び胸ぐらを締め上げる。


「どこにある?」


「…………」


ガルザが、ふっと笑った。


「……誰が言うかよ」


その時。


三本の角が、赤く光り始めた。


「……?」


赤い光が、次第に強くなっていく。


ミレアの顔色が変わった。


「カイルさん!」


「離れてください!」


「自爆します!」


カイルがガルザから飛び退く。


ガルザが歯をむき出して笑った。


「道連れだ!」


三本の角が、真紅に輝く。


「死ねぇぇぇぇっ!」


――ドォォォォン!


凄まじい爆発が、城の屋上を包み込んだ。



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