旅立ち
■1
――ドォォォォン!
城全体を揺らす爆音が響いた。
「な、なんだ!?」
「最上階だ!」
城内に残っていた一本角の魔族兵たちが、天井を見上げる。
その時。
一人の魔族兵が、自分の胸を押さえた。
「……あれ?」
「どうした?」
「消えた……」
「何が?」
魔族兵は呆然とする。
「ガルザ様の――服従の盟約が……」
周囲の魔族たちの顔色が変わる。
それぞれが、自分の身体を確かめる。
「俺もだ……!」
「消えてる!」
「まさか……」
誰かが、最上階を見上げた。
「盟約が消えたってことは――」
沈黙。
「ガルザ様が……死んだ?」
その瞬間。
魔族兵たちの顔から血の気が引いた。
「…………」
「やべえ」
一人が呟く。
「ここにいたら、俺たちも殺されるぞ!」
「に、逃げろ!」
「走竜を出せ!」
「俺が先だ!」
「どけ!」
魔族兵たちは我先に城から飛び出していく。
もはや命令する者はいない。
戦う理由もない。
そして何より――。
石眼のガルザを殺した何者かが、まだ城の中にいる。
逃げない理由など、どこにもなかった。
■2
修道院の前。
荷物をまとめたミレアが、心配そうにユラを見る。
「ユラ院長。本当に一人で大丈夫なんですか?」
「大丈夫です」
ユラは静かに答えた。
「患者もいますし、薬草の研究も途中です」
「でも……魔王軍が戻ってきたら」
「その時は、その時です」
「…………」
「私は何も知りません」
ユラは、少しだけ笑った。
「ゼイルがここへ来た」
「その後、何者かに殺された」
「あなたは怖くなって逃げ出した」
「私が知っているのは、それだけです」
「院長……」
「何を聞かれても、しらばっくれます」
ミレアは少し困ったように笑った。
「それで通りますかね……」
「通すんです」
「…………はい」
ユラは、ミレアの肩に手を置いた。
「それより、あなたにはやることがあるでしょう」
「え?」
「最後に一つ、宿題を出します」
「宿題?」
「石化を解く魔法を覚えなさい」
ミレアが目を見開く。
「石化を……?」
「聖女セリア様たちを見つけても、石のままでは助けられません」
「でも、そんな魔法……」
「今は知らない」
ユラは微笑んだ。
「だから、探すんです」
「…………」
「治療魔法を学ぶ者なら、治せないものをそのままにしてはいけません」
ミレアは、しばらくユラを見つめた。
そして。
「はい!」
力強くうなずく。
「必ず覚えてきます!」
■3
修道院から少し離れた荒野。
カイルは、一人でミレアを待っていた。
「カイルさーん!」
声に振り返る。
荷物を背負ったミレアが、こちらへ駆けてくる。
「お待たせしました!」
「いえ」
ミレアはカイルの前で立ち止まった。
そして、ぺこりと頭を下げる。
「これから、よろしくお願いします」
カイルも小さく頭を下げた。
「はい。こちらこそ」
二人は並んで歩き始める。
しばらくして。
ミレアが首をかしげた。
「あの……」
「はい?」
「これから、どこへ行くんですか?」
カイルは足を止めた。
そして――。
北の空を見る。
「北です」
「北?」
「ガルザが言っていました」
カイルの脳裏に、あの時の光景がよみがえる。
――あの石像の力で。
――あのお方が復活すれば!
そう叫んだ、その一瞬。
ガルザの視線は――。
北を向いていた。
「ガルザが、『あのお方』と話した時」
「一瞬だけ、北の方を見ました」
「…………」
ミレアも北を見る。
「それだけ……ですか?」
「はい」
カイルは歩き出した。
「でも、他に手掛かりはありません」
「なら――」
北へ続く荒野を見据える。
「行ってみます」
ミレアは少し驚いたあと。
「……はい!」
カイルの隣へ駆け寄った。
二人は、北へ向かって歩き始めた。
魔斬の勇者 完




