土の巨人
■1
城壁を越えたカイルは、そのまま城内へと進んだ。
風将ラギの風の便り――《ウィンドコール》は、すでに届いている。
ならば――。
ガルザは、自分が来ることを知っている。
カイルは迷わず、城の中央へ向かった。
やがて。
巨大な扉の前にたどり着く。
ギィィィ……。
カイルが扉を押し開けた。
その先には、広大な大広間が広がっていた。
そして。
中央に、一人の大男が立っている。
異様なほど盛り上がった筋肉。
額には、二本の角。
さらに、その奥。
玉座の前に、一人の剣士が立っていた。
腰には長剣。
鋭い眼差し。
そして――。
額から伸びる、三本の角。
カイルの目が細くなる。
「……三本角」
剣士は何も言わない。
ただ静かに、カイルを見つめていた。
カイルは剣の柄に手をかける。
「こいつが――」
「石眼将ガルザ……」
■2
「ガルザ!」
カイルが声を上げた。
三本角の剣士は、静かにカイルを見つめる。
「勇者レオンに似た剣技を使う者が現れたと聞いてな」
「もしやと思い、わざわざ待っていたが――」
ガルザはカイルの姿を眺めた。
「どうやら杞憂だったようだ」
一瞬。
その目が細くなる。
「……いや」
「杞憂でもない、か」
カイルが眉をひそめる。
「何?」
「まあいい」
ガルザは、大男へ視線を向けた。
「ゴルド」
「はっ」
「こいつを片づけろ」
「了解しました」
ガルザは踵を返した。
大広間の奥。
上階へと続く階段へ向かう。
「待て!」
カイルが床を蹴った。
――ドンッ!
一気に間合いを詰める。
ガルザの背へ向かって、剣を振り抜いた。
その瞬間――。
ズンッ!
巨大な身体が割って入る。
――ガキン!
「!?」
カイルの剣が止まった。
ゴルドの太い腕。
剣を受けたその腕には――傷ひとつない。
カイルが目を見開く。
「……硬い?」
ゴルドが、にやりと笑った。
「待ちな」
カイルの剣を腕で押し返す。
「お前の相手は――」
巨大な拳を握りしめる。
「俺だぜ」
■3
カイルは一度、大きく後ろへ跳んだ。
ゴルドとの間合いを取り直す。
「ほう?」
ゴルドが笑う。
カイルの視線が、ゴルドの全身を走る。
腕。
胸。
脚――。
そして。
カイルが床を蹴った。
――ドンッ!
低い姿勢で、一気にゴルドの足元へ潜り込む。
剣が走る。
狙うは――。
アキレス腱。
――ガキン!
「!?」
剣が弾かれた。
ゴルドの足には、傷ひとつついていない。
「無駄だ」
ゴルドが笑う。
「俺は魔力を外には放たん」
巨大な身体に力を込める。
全身の筋肉が、さらに膨れ上がった。
「この身体を巡る魔力が――」
ゴルドが両腕を広げる。
「金剛魔身――《ダイヤモンドボディ》!」
「皮膚も!」
「筋肉も!」
「骨も!」
拳を握りしめる。
「全身くまなく覆っている!」
「この金剛魔身――《ダイヤモンドボディ》に――隙はない!」
カイルは剣を構え直す。
ゴルドが一歩、前へ出た。
ズン。
「剣技は達者なようだが――」
また一歩。
ズン。
「所詮は人間」
カイルがじり、と後ろへ下がる。
ゴルドが両腕を広げた。
「一度この腕に捕まれば――」
巨大な手を握りしめる。
「その細い身体など、絞め殺すのはたやすい!」
ズン。
ズン。
ゴルドが、じりじりと間合いを詰めてくる。
カイルは何も答えない。
ただ――。
迫ってくるゴルドを、じっと見つめていた。
■4
「ハハハハハッ!」
突然。
カイルが笑った。
ゴルドが足を止める。
「……何がおかしい?」
カイルは剣を構えたまま、口元を上げる。
「あんたの倒し方――」
「分かっちまったぜ」
ゴルドの眉が動く。
「何?」
その瞬間。
カイルが床を蹴った。
――ドンッ!
「!?」
一気に懐へ飛び込む。
剣先が閃いた。
――グサッ!
「ぐっ!?」
カイルの剣が、開いたゴルドの口へ突き刺さっていた。
ゴルドの目が見開かれる。
カイルが静かに言う。
「驚く時は――」
剣をさらに押し込む。
「口を閉じといた方がいいぜ」
「ぐ……が……!」
ゴルドの巨体が、ぐらりと揺れた。
やがて、その身体が黒い煙となって崩れていく。
カイルが剣を引き抜く。
黒い煙は大広間に広がり――。
やがて消えた。
カラン。
カラン。
あとには、二本の角だけが残った。




