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倒産寸前な天界に中途採用された件 〜ポンコツ女神様の代わりにCOOになって異世界の再建始めます〜  作者: MAOOU
第一章 神界コーポレーションのCOO就任と、三大不良債権の強制償却
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第八話 有能なる秘書の覚悟

「さて、秘書。確認だが、俺たちが最優先で解決すべき『未解決の重要課題』をタスク化してくれ」


神界のオフィスに、ユウキ主任の冷徹で、けれど心地よく響く声が通る。


私はバインダーを胸に抱き直し、きっちりとアップにまとめた髪と、新調した黒のタイトなビジネススーツの襟を正した。知的なオーラを演出するためにかけた黒縁メガネを、人差し指でクイッと押し上げる。


形から入るタイプだと思われても構わない。私は今、最高にモチベーションが上がっているのだ。


「ハッ、主任! 未解決の問題はいくつかありますが、最優先に解決すべきなのは以下の二つです!」


私はよどみない声で報告を始めた。

これまでは、あのルミナリア様の「チート勇者召喚ガチャ」の調整や、仕様書の誤字脱字チェックという不毛な業務ばかりさせられていた。しかし、今こうして新しい上司であるユウキ主任の部下として、重要タスクのプレゼンを任されている。

この働きがい、感無量である。


「まず一つ目は、10年前の転移者キョウスケ・カザマの【絶対切断】によるインフラ崩壊です。彼が空間そのものを切り裂いたままフリーズ(応答なし)したことで、大交易路が物理的に寸断され、物流が完全停止。さらには周辺エリアの信者の通信網まで大障害を起こしています!」


「ふむ。もう一つは?」


ユウキ主任が腕を組み、私の報告を真剣な目で見つめてくれる。それだけで私の処理能力スペックは跳ね上がる。


「はい! 二つ目は、3年前の転移者ツカサ・イチジョウの【無限魔力】による、魔力発動中空間の発生とツカサ本人の回収です。半径50メートルが爆発する『大爆発空間』を形成しながら、今も世界の中心へと直進しています!」


報告を終えると、ユウキ主任は感心したように深く頷いてくれた。


「……有能だな。今までお前がまともな成果を出せなかったのは、あのポンコツ上司の下で働いていたせいで、能力を発揮できる指示を受けてこなかっただけか」


私の胸が高鳴った。分かってくれる。この人は、私の真の価値を正しく査定してくれている!


「あー、いまさらだけど、秘書くん。君の名前は何だったっけ?」


「ハッ! 神聖真名登録コード404――『エルフィ』と申します、ユウキ主任! これからは主任の忠実な右腕として、このブラック神界の業務改善に骨を埋める覚悟です!」


「エルフィ、か。いい名前だ。今日からお前が俺の専属秘書だ。その有能さ、期待しているぞ」


「ありがとうございます、主任!」


嬉しさのあまり、スーツの背中で小さな羽がパタパタと震えてしまうのを止められなかった。


「ちょっとぉ! 二人だけで盛り上がって、あたしのこと無視しないでよ! 最高神ルミナリアを空気みたいに扱うなぁぁ!」


その時、プレジデントチェアの上で膝を抱えていたルミナリア大女神が、完全に蚊帳の外に置かれた寂しさから涙目で口を尖らせてきた。世襲のワンマン社長の哀れな姿だ。以前の私ならオロオロと同情していただろうが、今の私はコンプライアンス意識に目覚めたエリート秘書である。


「静かにしろ、パンダ。お前の名前は忘れてないし、そのやらかしの数々も脳内のブラックリストに永久保存してある」


主任が冷酷に切り捨てる。さすが主任、素晴らしいトップマネジメントだ。


ユウキ主任はホワイトボードに向き直り、私がまとめた二つの「重大案件」を書き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【最優先デバッグタスク】

① キョウスケ・カザマ案件:『絶対切断』のフリーズバグによる、インフラ崩壊(大交易路の寸断・通信障害)の復旧。


② ツカサ・イチジョウ案件:『無限魔力』の出力暴走。『強制セーフモード起動』と逃走中のツカサの身柄確保。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よし、エルフィ。課題の整理は完璧だ。世界システムの回線を物理的にブチ切っている『カザマのフリーズタスク』を先に落としにいくか、それともリアルタイムで世界の地形を削りまくっている『ツカサの大爆発』を止めにいくか……」


ユウキ主任は不敵に口元を吊り上げ、懐の【神界全権承認印】を手のひらで転がした。


「ポンコツ女神が垂れ流したバグの仕様を徹底的にデバックしてやるだけだ。……さて、エルフィ。まずはどちらの現場へ向かうべきか、お前の見解を聞こうか」


メガネの奥の私の瞳が、知的な歓喜で燃え上がる。


「ハッ! ユウキ主任、私からお勧めする次なる出張先ですが――」


私はメガネを指先でクイと押し上げ、バインダーの資料を力強くめくりました。


「まずは『① キョウスケ・カザマ案件』のデバッグを優先すべきだと愚考します!」


「ほう、理由は?」


ユウキ主任が面白そうに目を細めます。私は待ってましたとばかりに、論理的な経営判断の根拠を突きつけました。


「ツカサ・イチジョウの暴走(大爆発)もリアルタイムの損害を出していますが、カザマの『応答なしフリーズ』こそが、世界サーバー全体の処理速度の30%を常に無駄喰いしています。

つまり、全社のシステムが重いままでは、他のどんなデバッグをしようにもシステムエラーが起きるリスクが高まります! まずはサーバーのメモリを解放し、経営インフラの通信網を完全復旧させてから、最大のリスクに挑むのがコンプライアンス的に最も安全です!」


「……完璧だ、エルフィ。素晴らしい費用対効果の計算だな。幽霊タスクを放置したまま新規の案件を回すの効率の面から見て、悪手だ」


ユウキ主任は不敵に口元を吊り上げ、私の進言を100%採用してくれました。


「おい、無能A。すぐにノースエンドのギルド地下倉庫へいくぞ。お前のやらかした10年物の不良資産、今すぐ強制終了シャットダウンさせてやる」


「うう、無能Aって呼ばないでよぉ! それに地下倉庫は埃っぽいし、なんか時空がグニャグニャしてて気持ち悪いからあたし嫌なんだけど!」


プレジデントチェアの上でジタバタと暴れるルミナリア社長の襟首を、ユウキ主任はまるでゴミ袋でも掴むかのように容赦なくひったくりました。


「嫌がる権利は無能にはない。エルフィ、ポータル起動を」


「了解です、主任! 座標固定、システムエントリー!」


私がコンソールを叩くと、オフィスの中央に、時空の歪んだ不気味な漆黒のゲートが展開されました。

いよいよ、10年間誰も触れられなかった「神界最大の隠蔽バグ」へと切り込む時が来ました。

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