第二十一話 バカンスの終焉と、リソースの奪い合い
(……まあ、たまにはこういう福利厚生も、悪くはないか)
左右で楽しそうに海水を跳ね上げている金髪のルミナリアとエルフィを見ながら、俺がそんな風に少しばかり張り込みの緊張を緩めた、その刹那だった。
ピピピピピピピピピピピピ!!!
穏やかな波の音を完全にぶち壊す、極めて不快でけたたましい電子警告音が、砂浜の上に置いてあったエルフィのバインダーから鳴り響いた。
「ハッ……!? このアラートは……!」
エルフィは感情を表さない程度に緩めていた表情を一瞬でビジネスモードへと切り替え、ミッドナイトブルーの水着のまま、濡れた砂を厭わずにバインダーへとスライディング気味に飛びついた。素早く画面をスワイプする彼女の黒縁メガネが、真っ赤な警告灯の光で激しく明滅する。
「報告します、ユウキ主任! 監査システムが、世界サーバーに甚大な過負荷を与えている重大なシステムエラーを検知しました! 例の最優先タスクの一つ……『② 案件番号005:【無限蘇生】の死亡ループ案件』です!」
「何だと? なぜ今になって急にアラームが鳴り響くほどの高負荷になった?」
俺は海からがり、濡れた髪をかき上げながらエルフィの画面を冷徹に覗き込んだ。
「ハッ、原因が判明しました! 該当の勇者が魔王軍の『落とし穴の罠』に落ちて死亡するループをそのまま放置していたためです。穴の底に落ちて『死亡⇒数秒前の位置(穴の上空)に即時蘇生⇒再び落下⇒死亡』を繰り返する際、落下中の空気抵抗や風の物理演算が加わったせいで、蘇生する位置座標(X・Y・Z軸)の浮動小数点データが数ミクロンずつズレ続けていました。今まではサーバーの空き領域でその莫大な計算を処理できていたのですが、今まさに、目の前のホテルにいるアキラの奴が、横領の隠蔽か何かのために世界の根源へでかい負荷をかけるハッキング(バッチ処理)を始めました!」
「……あ。ハッカーのアプデと、落とし穴の再帰処理で、CPUの奪い合い(リソース競合)が発生したのか」
「その通りです主任! アキラの重いハッキング処理にサーバーの芯を奪われたせいで、放置されていた落とし穴の『ズレた三次元座標の軌道予測計算』のキュー(処理待ち)が一気に詰まり、システム全体がマルチタスクの限界を迎えて熱暴走を始めました! 現在、サーバーのCPU使用率が再び98%まで跳ね上がっています!」
『ひ、ひえぇぇぇぇ!? 死亡ループってなによそれ、怖すぎるわよぅ! なんでそんなホラー映画みたいなバグが起きてるのよぅ!』
波打ち際でアホ全開の顔を恐怖に歪ませ、金髪を振り乱して悲鳴を上げたのはルミナリアだ。やはり自分の仕込んだ初期設定ミスの重大さを1ミリも自覚していない。
「お前が『死んでも勝手に生き返れば超便利でしょ!』とアホの直感で実装して、終了条件の例外処理を完全に書き忘れたせいだろうが、無能A。お前が仕様の穴を放置したせいで、現場の勇者が今この瞬間もマッハの速度でミンチになり続け、アキラのハッキングと噛み合って世界システムをパンクさせているんだよ」
『ええっ!? あたしのせいなのぅ!? 綺麗に自動で復活するハッピーな神チートをあげたよ? わたしのせいじゃないわよぉ!』
ルミナリアは涙目でプンスカと怒りながら、責任転嫁全開で言い返してきた。反省の色など微塵も見られない、空っぽな頭の極みだ。
エルフィは手元のバインダーへ「無限蘇生バグ、ハッカーとのリソース競合により熱暴走を検知。社長の責任転嫁ログを記録」と、水着姿のまま素早くメモを書き進めた。どんな緊急事態でも即座に上司の言葉とログを取る有能な習性が完全に染み付いている。
「チッ、ハッカーの外出待ちの間に、隣のラインで特大のシステム障害が起きるとはな。これだけ激重の無限ループを回されては、アキラの監視システム自体が処理落ちして見失うリスクがある」
俺は濡れたワイシャツのボタンを締め直しながら、懐から【神界全権承認印】を取り出した。
「バカンスはここまでだ。エルフィ、水着のままで構わん。今すぐその落とし穴の座標へ最短ルートのアクセス権を構築しろ。会社のサーバーを熱暴走させている幽霊ゾンビタスクを、現代日本のロジックで強引にタスクキルしてやる」
「ハッ! 了解です、ユウキ主任! システムエントリー、現場へ直結します!」
エリート秘書エルフィが水着の胸元を正し、空中にシステムキーボードを展開して神速のタイピングを開始した。
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