表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/85

『寄り道の理由』

次の日。


いつも通りの教室。

いつも通りの朝。


……のはずだった。


「おはよ、レン」


「……おう」


隣の席。


ユイは何事もなかったみたいに座っている。


昨日のことなんて、

最初から存在してなかったみたいに。


「今日も寄り道する?」


「まだ朝だろ」


「じゃあ放課後ね」


「勝手に決めんなって」


「でも来るでしょ?」


「……たぶんな」


即答してしまってから、

少しだけ後悔する。


ユイは、嬉しそうでもなく、

ただ当然みたいに頷いた。


「じゃあ決定」


「お前の中ではな」


「うん」


……会話が噛み合ってるようで噛み合ってない。


なのに、変な居心地の良さがある。



放課後。


校門を出た瞬間、

もうそこにユイはいた。


「早くない?」


「待ってた」


「どれくらい」


「秘密」


「それ便利だな」


「でしょ」


いつも通りのやりとり。


なのに今日は、

昨日より少しだけ違って見える。


歩き出す。


またあの道。


またあの公園――かと思ったが。


「今日は違うとこ」


「またかよ」


「飽きた?」


「別に」


「じゃあいいね」


そう言って、ユイは前を向く。


今度は少し遠回りの道だった。


川沿いの遊歩道。


夕方の光が水に反射して、

やけに眩しい。


「ここ、好きなんだ」


「そうなのか」


「うん。静かで」


「お前にしては珍しいな」


「どういう意味」


「騒がしいイメージ」


「失礼」


軽く笑って、

ユイは歩く速度を少し落とした。


それに合わせるように、

俺も少しだけ歩幅を変える。


気づけば、

並んで歩いていた。



「レンさ」


「なんだよ」


「昨日のこと、覚えてる?」


「忘れるわけねえだろ」


「そっか」


少しだけ沈黙。


川の音が近くなる。


「私さ」


ユイがぽつりと言う。


「ちゃんと“来る人”が好き」


「……急に何だよ」


「ちゃんと約束守る人」


「それなら普通だろ」


「でも、普通じゃない人も多いよ」


「……」


言い返せない。


風が少し強くなる。


ユイの髪が揺れる。


「だからね」


「うん」


「昨日の確認、ちゃんと意味あった」


「まだ言うのかそれ」


「うん」


即答。


そして、少しだけこっちを見る。


「レンは、来る人」


「……まあな」


「じゃあ安心」


「何にだよ」


「いろいろ」


曖昧すぎる答え。


でも、聞き返す前にユイは続けた。


「ねえ」


「なんだよ」


「次の寄り道、もっと遠くでもいい?」


「は?」


「電車とか乗るやつ」


「急にスケール上げんな」


「ダメ?」


「……ダメじゃねえけど」


「じゃあ決まり」


また勝手に決まる。


でも、不思議と嫌じゃない。



駅の方へ向かう道。


夕日が少しずつ沈んでいく。


「レン」


「今度は何だよ」


「今日も秘密ね」


「またそれかよ」


「うん」


「別に誰にも言わねえって」


「知ってる」


じゃあなんで言うんだよ。


そう思った瞬間――


ユイが少しだけ近づいた。


「でもさ」


「……」


「秘密があるのって、ちょっといいでしょ」


「……まあな」


否定できなかった。


夕方の風が、

少しだけ強く吹く。


並んだ影が、

ゆっくり長く伸びていく。


その中で、


たった一つだけ確かなことがあった。


“寄り道”はもう、

ただの寄り道じゃなくなり始めている。


そしてそれはきっと――


まだ、誰にも言葉になっていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ