「寄り道の、その先にあるもの」
次の日。
少しだけ早く目が覚めた。
理由は――たぶん分かってる。
「……はあ」
ため息をつきながら、
スマホを確認する。
特に連絡はない。
……当たり前か。
なのに、少しだけ期待してた自分がいる。
◇
教室。
「おはよ、レン」
「……おう」
いつも通り。
昨日と同じ。
ユイはもう席に座っていた。
「今日は早いね」
「たまたまだよ」
「ふーん」
興味なさそうに頷く。
でも、ほんの少しだけ――
口元が緩んでる気がした。
「今日どうする?」
「何がだよ」
「寄り道」
「毎日確定みたいに言うな」
「ダメ?」
「……ダメじゃねえけど」
「じゃあ決まり」
まただ。
勝手に決めて、
勝手に進む。
でも――
それがもう、
当たり前になり始めてる。
◇
放課後。
今日はユイの方が少し遅かった。
校門の近くで待つ。
「……」
なんとなく、
落ち着かない。
待たされてるだけなのに。
数分後。
「お待たせ」
「遅えよ」
「ごめんごめん」
軽く笑って、
いつもの距離に立つ。
「待ってた?」
「まあな」
「どれくらい」
「秘密」
「それ便利だね」
「だろ」
ちょっとだけ仕返し。
ユイは少しだけ目を細めて――
「真似した」
「悪いかよ」
「ううん。ちょっと嬉しい」
「……なんでだよ」
「秘密」
……またそれか。
◇
歩き出す。
今日は駅とは逆方向。
住宅街の細い道。
「今日は近場なんだな」
「うん。ちょっとだけ」
「ちょっと?」
「うん」
珍しく曖昧な言い方。
少し進むと――
小さなベンチがある場所に出た。
「ここ」
「……何もないな」
「そういうとこがいいの」
座る。
ユイも隣に座る。
距離は――昨日より少し近い。
「レンさ」
「なんだよ」
「さっき待ってたでしょ」
「……まあな」
「やっぱり」
「なんだよ」
「ちょっとだけ嬉しい」
「だからなんでだよ」
「だってさ」
ユイは前を向いたまま言う。
「待ってくれる人って、減ってくるから」
「……」
その言い方が、
少しだけ引っかかる。
「別に、大したことじゃねえだろ」
「うん。でも大事」
静かに言い切る。
風が通る。
夕方の空気が少し冷たい。
「レンはさ」
「なんだよ」
「ちゃんと来るし、ちゃんと待つ」
「普通だろ」
「うん。でも、それがいい」
――またそれだ。
“普通がいい”ってやつ。
でも、
その“普通”をこんなふうに言われると、
少しだけ――特別に聞こえる。
◇
「ねえ」
「なんだよ」
「今度さ」
「またそれか」
「うん」
少しだけ笑う。
「電車のやつ、やろ」
「ほんとに行く気かよ」
「うん」
「どこ行くんだよ」
「まだ決めてない」
「おい」
「でもさ」
ユイがこっちを見る。
「レンとなら、どこでもいいかなって」
「……」
一瞬、言葉が詰まる。
視線を逸らす。
「適当なこと言うなよ」
「適当じゃないよ」
即答。
少しだけ真面目な声。
「……そうかよ」
それ以上は何も言えなかった。
◇
帰り道。
さっきより少しだけ暗い。
「レン」
「なんだよ」
「今日さ」
「うん」
「昨日より、ちょっといい日だった」
「……そうか」
「うん」
満足そうに頷く。
「なんでだと思う?」
「知らねえよ」
「じゃあいいや」
「おい」
「そのうち分かるよ」
またそれだ。
全部説明しない。
でも――
全部隠してるわけでもない。
その距離感が、
なんとなく心地いい。
◇
別れ道。
「じゃあまた明日」
「おう」
少し歩いて、
ふと振り返る。
ユイはまだそこにいた。
「なんだよ」
「ううん」
手を軽く振る。
「ちゃんと来てね」
「……当たり前だろ」
「うん」
満足そうに笑う。
そして今度こそ、背を向けた。
◇
帰り道。
一人で歩きながら思う。
寄り道は――
確実に増えている。
距離も、
時間も、
たぶん気持ちも。
でもそれは、
重くなるわけじゃなくて。
むしろ少しずつ、
自然に、
当たり前みたいに増えていく。
だからきっと――
これはまだ、
名前をつけるには早い。
けど、
確実に何かが変わり始めている。
その変化を、
俺はもう――
嫌じゃないと思っている。




