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「寄り道の、その先にあるもの」

次の日。


少しだけ早く目が覚めた。


理由は――たぶん分かってる。


「……はあ」


ため息をつきながら、

スマホを確認する。


特に連絡はない。


……当たり前か。


なのに、少しだけ期待してた自分がいる。



教室。


「おはよ、レン」


「……おう」


いつも通り。


昨日と同じ。


ユイはもう席に座っていた。


「今日は早いね」


「たまたまだよ」


「ふーん」


興味なさそうに頷く。


でも、ほんの少しだけ――


口元が緩んでる気がした。


「今日どうする?」


「何がだよ」


「寄り道」


「毎日確定みたいに言うな」


「ダメ?」


「……ダメじゃねえけど」


「じゃあ決まり」


まただ。


勝手に決めて、

勝手に進む。


でも――


それがもう、

当たり前になり始めてる。



放課後。


今日はユイの方が少し遅かった。


校門の近くで待つ。


「……」


なんとなく、

落ち着かない。


待たされてるだけなのに。


数分後。


「お待たせ」


「遅えよ」


「ごめんごめん」


軽く笑って、

いつもの距離に立つ。


「待ってた?」


「まあな」


「どれくらい」


「秘密」


「それ便利だね」


「だろ」


ちょっとだけ仕返し。


ユイは少しだけ目を細めて――


「真似した」


「悪いかよ」


「ううん。ちょっと嬉しい」


「……なんでだよ」


「秘密」


……またそれか。



歩き出す。


今日は駅とは逆方向。


住宅街の細い道。


「今日は近場なんだな」


「うん。ちょっとだけ」


「ちょっと?」


「うん」


珍しく曖昧な言い方。


少し進むと――


小さなベンチがある場所に出た。


「ここ」


「……何もないな」


「そういうとこがいいの」


座る。


ユイも隣に座る。


距離は――昨日より少し近い。


「レンさ」


「なんだよ」


「さっき待ってたでしょ」


「……まあな」


「やっぱり」


「なんだよ」


「ちょっとだけ嬉しい」


「だからなんでだよ」


「だってさ」


ユイは前を向いたまま言う。


「待ってくれる人って、減ってくるから」


「……」


その言い方が、

少しだけ引っかかる。


「別に、大したことじゃねえだろ」


「うん。でも大事」


静かに言い切る。


風が通る。


夕方の空気が少し冷たい。


「レンはさ」


「なんだよ」


「ちゃんと来るし、ちゃんと待つ」


「普通だろ」


「うん。でも、それがいい」


――またそれだ。


“普通がいい”ってやつ。


でも、


その“普通”をこんなふうに言われると、


少しだけ――特別に聞こえる。



「ねえ」


「なんだよ」


「今度さ」


「またそれか」


「うん」


少しだけ笑う。


「電車のやつ、やろ」


「ほんとに行く気かよ」


「うん」


「どこ行くんだよ」


「まだ決めてない」


「おい」


「でもさ」


ユイがこっちを見る。


「レンとなら、どこでもいいかなって」


「……」


一瞬、言葉が詰まる。


視線を逸らす。


「適当なこと言うなよ」


「適当じゃないよ」


即答。


少しだけ真面目な声。


「……そうかよ」


それ以上は何も言えなかった。



帰り道。


さっきより少しだけ暗い。


「レン」


「なんだよ」


「今日さ」


「うん」


「昨日より、ちょっといい日だった」


「……そうか」


「うん」


満足そうに頷く。


「なんでだと思う?」


「知らねえよ」


「じゃあいいや」


「おい」


「そのうち分かるよ」


またそれだ。


全部説明しない。


でも――


全部隠してるわけでもない。


その距離感が、


なんとなく心地いい。



別れ道。


「じゃあまた明日」


「おう」


少し歩いて、


ふと振り返る。


ユイはまだそこにいた。


「なんだよ」


「ううん」


手を軽く振る。


「ちゃんと来てね」


「……当たり前だろ」


「うん」


満足そうに笑う。


そして今度こそ、背を向けた。



帰り道。


一人で歩きながら思う。


寄り道は――


確実に増えている。


距離も、


時間も、


たぶん気持ちも。


でもそれは、


重くなるわけじゃなくて。


むしろ少しずつ、


自然に、


当たり前みたいに増えていく。


だからきっと――


これはまだ、


名前をつけるには早い。


けど、


確実に何かが変わり始めている。


その変化を、


俺はもう――


嫌じゃないと思っている。

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― 新着の感想 ―
じ、じりじりしますね…焦らされているのに、なぜかちょっと緊張もして……ユイはどうしてレンを選んだのかしら。
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