表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/85

まだ名前のない距離(3)――少しだけ、触れた日

次の日。


目が覚めた瞬間――


「あー……」


昨日よりも先に、ユイのことを思い出した。


理由なんて分かってる。


考えないようにしても、


勝手に浮かぶ。


「……めんどくせえな」


小さく呟く。


でも、


その“めんどくささ”が、


少しだけ嫌じゃない。



教室。


「おはよ、レン」


「……おう」


今日も同じ。


でも、


ほんの少しだけ違う気がする。


何が、とは言えないけど。


「なんか眠そう」


「ちょっとな」


「昨日遅かった?」


「普通だよ」


「ふーん」


じっと見てくる。


「……なんだよ」


「別に」


そう言いながら、


少しだけ笑う。


……なんだそれ。



授業中。


珍しく、


ユイが静かだった。


寝てるわけじゃない。


でも、


いつもより話しかけてこない。


(……なんだ?)


気になる。


でも聞くほどでもない。


そんな微妙な距離。



昼休み。


「レン」


「おう」


「ちょっと付き合って」


「どこだよ」


「いいから」


またそれだ。


でも今回は――


いつもより少しだけ強引だった。



校舎裏。


人気のない場所。


「……どうした」


「ん」


ユイは少しだけ間を置いてから、


「ちょっとね」


曖昧に答える。


そして、


隣に立つ。


近い。


昨日より、


確実に近い。


「……なんかあったのか」


「別に」


即答。


でも、


少しだけ声が柔らかい。


「ただ」


「ただ?」


「こうしたかっただけ」


「は?」


意味が分からない。


そのまま数秒。


風の音だけが通る。



「レンさ」


「なんだよ」


「手、冷たい?」


「は?」


唐突すぎる。


「いや、普通じゃねえの」


「ふーん」


そう言って――


ユイが、


ほんの少しだけ手を伸ばした。


「ちょ――」


触れる。


一瞬だけ。


指先が、


軽く触れた。


「……」


「……」


すぐに離れる。


でも、


その一瞬で十分だった。


「……何してんだよ」


「確認」


「何のだよ」


「秘密」


またそれか。


でも――


今のは、


ちょっと反則だろ。



「レン」


「……なんだよ」


「びっくりした?」


「してねえよ」


「嘘」


即答。


「顔に出てる」


「出てねえ」


「出てる」


少しだけ笑う。


いつものユイに戻ってる。


でも、


さっきの一瞬だけは――


違った。



「ごめん」


「……は?」


珍しく謝る。


「ちょっとだけ、試した」


「何をだよ」


「レンの反応」


「やめろそういうの」


「でもさ」


ユイは少しだけ目を細める。


「ちゃんと嫌がらなかった」


「……」


言葉に詰まる。


否定できない。


「それで分かった」


「何がだよ」


「ううん」


首を振る。


「やっぱりまだ秘密」



チャイムが鳴る。


「戻るか」


「うん」


歩き出す。


さっきより、


少しだけ距離が近い。


気のせいじゃない。


でも、


さっきみたいに触れてはこない。



放課後。


「今日はどうする」


「寄り道」


「即答かよ」


「うん」


当たり前みたいに言う。


でも今日は――


「昨日のとこじゃないよ」


「じゃあどこだよ」


「歩きながら決めよ」


「適当だな」


「いいでしょ」



並んで歩く。


ふと、


さっきの感触がよみがえる。


一瞬だけの、


あの触れ方。


(……なんなんだよ)


気になる。


でも、


聞いたら終わりな気がする。



「レン」


「なんだよ」


「さっきのこと」


「……」


先に来た。


「忘れていいよ」


「は?」


「なんとなくだから」


「……お前な」


軽すぎる。


でも――


「でも」


ユイが少しだけこっちを見る。


「嫌じゃなかったなら、それでいい」


「……」


また、


言葉が詰まる。



「レンってさ」


「なんだよ」


「ちゃんと受け止めるよね」


「意味分かんねえ」


「分かんなくていいよ」


少しだけ笑う。


「そういうとこ、好き」


「……は?」


心臓が一瞬止まる。


「言い方軽すぎるだろ」


「そう?」


「そうだろ」


「じゃあ訂正」


一歩だけ前に出て、


振り返る。


「ちょっと好き」


「変わってねえよ」


「そう?」


笑う。


いつも通り。


でも――


さっきより少しだけ、


逃げ場がない。



帰り道。


今日も別れ際。


「じゃあね」


「おう」


少しだけ間。


「レン」


「なんだよ」


「明日も来る?」


「……行くに決まってんだろ」


「うん」


安心したように頷く。


「じゃあいいや」



背中を向けるユイ。


少し歩いてから、


また振り返る。


「なんだよ」


「今日はね」


「うん」


「昨日より、もっといい日だった」


「……そうかよ」


「うん」


満足そうに笑う。


そして今度こそ去っていく。



一人になる。


ふと、


右手を見る。


さっき触れられた場所。


何も変わってないはずなのに――


少しだけ、


熱が残ってる気がした。



まだ、


名前はない。


でも――


確実に、


昨日より近い。


ほんの少しだけ、


踏み込んだ距離。


それを、


嫌じゃないと思ってる自分がいる。


むしろ――


もう少しだけ、


進んでもいいかもしれないと、


そう思い始めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ