『寄り道の理由』
「で、どこ行くんだよ」
「着いてからのお楽しみ」
「またそれか」
放課後の帰り道。
いつもならまっすぐ帰るはずなのに、
今日はユイが前を歩いている。
しかも、少しだけ早足で。
「迷ったら置いてくよ」
「迷わねえよ」
「どうだか」
振り返って笑う。
……なんか楽しそうだな、こいつ。
(ほんと、何なんだよ)
理由は教えないくせに、
来る前提で話を進めてくる。
でも――
「ほら、ここ」
立ち止まった場所は、
学校から少し離れた小さな公園だった。
「公園?」
「うん」
「なんでまた」
「いいから」
ベンチに座れ、とでも言うように
手で軽く示される。
「……命令かよ」
「お願い」
「変わってねえよ」
文句を言いながらも座る。
その隣に、ユイも腰を下ろした。
沈黙。
風が少しだけ吹いて、
木の葉が揺れる音だけがする。
「……で?」
「うん」
「何の用だよ」
「別に」
「は?」
「来てほしかっただけ」
「……」
さらっと言うな。
「理由になってねえだろ」
「なるよ」
即答。
「レン、来たじゃん」
「……まあ」
「それで十分」
そう言って、少しだけ笑う。
……ずるいな。
「お前さ」
「なに?」
「昨日のやつ、関係あるだろ」
「あると思う?」
「あるだろ」
少しだけ間が空く。
ユイは、前を向いたまま言った。
「もしさ」
「……」
「昨日、私が本当に来なかったら」
またその話だ。
でも今度は、逃げなかった。
「……探しに行く」
「え?」
「連絡つかなかったら、
普通に家くらい行くだろ」
「……へえ」
「なんだよ」
「思ってたより重い」
「うるせえ」
言ったあとで、少しだけ恥ずかしくなる。
「でもさ」
ユイが少しだけこっちに寄る。
「それ聞けてよかった」
「……なんでだよ」
「安心したから」
「何が」
「ちゃんと来る人なんだなって」
「……」
それ、どういう意味だ。
聞き返そうとした瞬間――
「レン」
「なんだよ」
「手、出して」
「は?」
意味が分からない。
でも、なぜか断れなくて、
言われた通りに手を出す。
ユイはその手を見て、
少しだけ考えてから――
軽く、触れた。
ほんの一瞬。
指先が、触れるだけ。
「……なにしてんだよ」
「確認」
「何の」
「来るかどうか」
「意味わかんねえ」
「でしょ」
くすっと笑う。
でも――
手を離すのが、少しだけ遅かった。
「……帰るか」
「うん」
立ち上がる。
いつも通りの距離に戻るはずなのに、
さっきのせいで――
ほんの少しだけ、
距離の感覚がズレている気がした。
「レン」
「なんだよ」
「また寄り道する?」
「……たまにならな」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあ次も決まり」
「勝手に決めんな」
「来るでしょ?」
「……行くけど」
「ほらね」
またそれだ。
でも――
今度は、少しだけ違った。
「ね、レン」
「なんだよ」
「今日のこれ、秘密ね」
「……誰に言うんだよ」
「言わないでしょ?」
「言わねえよ」
「じゃあいいや」
満足そうに笑う。
その横顔を見て、
ふと思う。
(……こいつ)
(最初からこれが目的だったんじゃねえのか?)
◇
“ただの寄り道”のはずだった。
でも――
その距離は、
確実に少しだけ変わっていた。
それに気づいているのは、
たぶんまだ、
どちらも同じくらいだ。




