表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
83/85

まだ名前のない距離 71 触れないまま選んだ距離が、少しずつ輪郭を持ちはじめる昼

昼休みは、



思ったよりも、



あっさり始まった。




周りの席が動いて、



椅子の音が重なる。




レンは机に突っ伏す。




レン「……眠い」




ユイ「絶対それ嘘でしょ」




レン「半分本当」




ユイ「半分は?」




レン「……考えすぎ」




ユイ「やっぱりじゃん」




少しだけ笑う。




ユイ「はい、パン」




机の上に、



コンビニの袋が置かれる。




レン「サンキュ」




レンは起き上がって、



袋を開ける。




ユイはその様子を、



なんとなく見ている。




レン「……なに」




ユイ「別に」




ユイ「ちゃんと食べるなーって」




レン「食うだろ普通」




ユイ「昨日は?」




レン「……あー」




一瞬だけ止まる。




ユイ「ほら」




レン「……昨日は例外」




ユイ「なにそれ」





少しだけ沈黙。




でも、



気まずさは、



どこかやわらいでいる。




レン「……なあ」




ユイ「ん?」




レン「さっきの続きだけど」




ユイ「どれ」




レン「帰りのやつ」




ユイ「うん」




レン「普通ってさ」




レン「どこまで普通?」




ユイ「え、なにそれ」




ユイ「哲学?」




レン「ちげぇよ」




レン「例えば」




少しだけ言葉を探す。




レン「……距離、とか」




ユイ「距離?」




レン「うん」




ユイは一瞬だけ、



昨日のことを思い出す。




ユイ「……あー」




ユイ「そこね」





少しだけ視線を逸らす。




ユイ「普通はさ」




ユイ「触らない距離じゃない?」




レン「……だよな」




ユイ「でも」




レン「でも?」




ユイ「昨日やっちゃったから」




レン「言い方」




ユイ「だってそうじゃん」





ユイは少しだけ笑う。




ユイ「戻すの、ちょっと変じゃない?」




レン「……まあ」




レン「急に離れるのもな」





また少しだけ沈黙。




ユイ「……じゃあさ」




レン「ん」




ユイ「その中間にしよ」




レン「中間?」




ユイ「触れないけど」




ユイ「近いまま」




レン「……なんだそれ」




ユイ「名前のないやつ」





レンは少しだけ笑う。




レン「雑だな」




ユイ「いいじゃん」




ユイ「今それしかないし」





レンはパンを一口かじる。




少しだけ考えて、



小さくうなずく。




レン「……じゃあそれで」




ユイ「決まりね」





その瞬間、



誰かの声が割り込む。




友達「ユイー、一緒に食べよー」




ユイ「んー、ごめん今ここ」




友達「え、珍し」




ちらっとレンを見る。




友達「へー」




意味ありげな笑い。




レン「……なんだよ」




ユイ「気にしないで」




ユイ「こういうのすぐ察するから」




レン「察すなよ」




ユイ「無理」





またふたりで小さく笑う。





昼休みの終わりが近づく。




ざわめきが少しずつ戻ってくる。




ユイ「……ねえ」




レン「ん」




ユイ「今日さ」




ユイ「ほんとに“普通”でいけると思う?」




レンは少しだけ考える。




レン「……無理じゃね」




ユイ「だよね」




ユイ「私も思った」





ふたりは同時に、



少しだけ息を吐く。




ユイ「でもさ」




レン「ん?」




ユイ「無理って分かってる普通って」




ユイ「ちょっとだけ楽しくない?」




レン「……それは」




レン「ちょっと分かる」





チャイムが鳴る。




次の時間が始まる。




ユイは立ち上がって、



少しだけ離れる。




でも、



ほんの一瞬だけ、



レンの机に指先を置く。




触れるか触れないかの、



ぎりぎり。




レン「……おい」




ユイ「なに」




レン「それ」




ユイ「中間距離」





悪びれもなく笑う。




レン「ずるいだろ」




ユイ「いいの」




ユイ「名前ないから」





そう言って、



ユイは自分の席に戻る。





触れていないのに、



確かに残る感触。




“普通”にしようとするほど、



少しだけ逸れていく距離。




でもそのズレが、



ふたりを同じ方向に引いていた。




名前のない距離は、



少しだけ形を持ち始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ