まだ名前のない距離 69 触れたことの意味を、まだ言葉にできないまま朝が近づいてくる夜の続き
夜は、
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終わりかけているはずなのに、
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まだ完全にはほどけていなかった。
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レンの部屋、
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薄いカーテンの隙間から、
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朝になりきれない光が落ちる。
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レン「……寝れた気がしない」
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呟いて、
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天井を見たまま動かない。
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レン「なんでだよ」
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小さく笑う。
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レン「別に、何も変わってないのに」
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でも指先は、
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昨日と同じ場所を探してしまう。
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一方その頃、
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ユイの部屋。
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ユイ「……最悪」
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布団に沈んだまま、
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天井を見ている。
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ユイ「普通に寝れないとか、なに」
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ユイ「意味わかんない」
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少しだけ間。
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ユイ「ただ手繋いだだけじゃん」
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でも、
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その“だけ”が一番やっかいだった。
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ユイ「……あれ」
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自分の手を見る。
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ユイ「まだ残ってる気がするの、なんで」
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時計の音。
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いつもより大きく聞こえる。
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登校の時間が近づく。
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レンは制服を着る。
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ユイも制服に袖を通す。
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同じ“いつも”のはずなのに、
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少しだけ違って見える。
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レン「……行くか」
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レンは靴を履く。
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ユイ「……行こ」
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ユイも玄関で立ち止まる。
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ドアを開けた瞬間、
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空気が少しだけ冷たい。
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そして、
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ふたりはそれぞれ歩き出す。
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まだ会っていないのに、
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なぜか“会う前の空気”がある。
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レン「……変な感じだな」
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ユイ「……なにこの緊張」
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同じ時間、
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同じ街、
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違う道。
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でも、
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少しずつ近づいていく。
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そして、
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いつもの角。
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先に見えたのは、
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相手の影だった。
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レン「……お」
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ユイ「……あ」
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一瞬だけ止まる。
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レン「おはよ」
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ユイ「……おはよ」
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いつもと同じ言葉。
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でも、
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少しだけ間が長い。
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ユイ「普通に来たね」
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レン「まぁな」
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レン「普通って言われたし」
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ユイ「ちゃんとできたじゃん」
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レン「できたっていうか……」
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少し視線をそらす。
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レン「……意外とむずいな」
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ユイ「でしょ」
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少しだけ笑う。
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ユイ「普通って、難しいの」
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レン「お前のせいだろ」
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ユイ「は?」
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軽い沈黙。
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でもその沈黙は、
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昨日より重くない。
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歩き出す。
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並んで。
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少しだけ距離を空けて。
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レン「……なぁ」
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ユイ「ん?」
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レン「昨日さ」
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ユイ「うん」
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レン「別に意味とか考えてなかったけど」
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レン「なんか……変だった」
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ユイ「変ってなに」
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レン「説明できないやつ」
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ユイ「ふーん」
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少しだけ笑って、
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ユイ「それ、私も」
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また沈黙。
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でも今度は、
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気まずくない。
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ユイ「ねえ」
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レン「ん」
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ユイ「普通ってさ」
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ユイ「明日もあるってこと?」
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レンは少し考える。
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レン「たぶん」
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レン「何もなかったみたいに続くこと」
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ユイ「それってさ」
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ユイ「ほんとに何もないってことじゃないよね」
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レン「……だろうな」
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また歩く。
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肩が少しだけ近い。
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でもまだ触れない。
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その距離が、
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昨日よりも少しだけ“意識されている”。
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そして、
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学校の門が見えてくる。
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ユイ「じゃあさ」
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レン「ん」
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ユイ「普通、続けよ」
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レン「……ああ」
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レン「続けるか」
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その言葉の意味は、
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まだ誰にもわからないまま。
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でもふたりは、
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同じタイミングで門をくぐった。
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名前のない距離は、
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まだそこにあって、
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少しだけ形を変えていた。




