↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/85

まだ名前のない距離 68 ほどけたあとに残る温度だけが少し遅れてついてくる夜

夜の風は、


◇


さっきよりも、


◇


少しだけ冷たくなっていた。


◇


◇


レン「……」


◇


◇


歩き出したはずの足が、


◇


一度だけ止まる。


◇


◇


レン「……変だな」


◇


◇


小さく、


◇


誰にも届かない声。


◇


◇


レン「離れたのに」


◇


レン「まだ残ってる」


◇


◇


ポケットに手を入れる。


◇


◇


そこにはもう、


◇


繋いだ感触はないはずなのに。


◇


◇


それでも、


◇


指先だけが少し落ち着かない。


◇


◇


レン「……はぁ」


◇


◇


ため息が白くなるほどではない夜。


◇


◇


そのまま歩き出す。


◇


◇


◇


一方その頃、


◇


ユイの足音もまた、


◇


同じようにゆっくりだった。


◇


◇


ユイ「……なにあれ」


◇


◇


小さく笑って、


◇


でもすぐに消える。


◇


◇


ユイ「手、あったかすぎでしょ」


◇


◇


誰に言うでもなく、


◇


空に投げるみたいに。


◇


◇


ユイ「ずるいじゃん」


◇


◇


少しだけ、


◇


目を伏せる。


◇


◇


ユイ「普通に帰れなくなるやつ」


◇


◇


◇


街灯の下で、


◇


影がゆっくり伸びていく。


◇


◇


ユイ「……明日」


◇


◇


立ち止まる。


◇


◇


ユイ「普通に来いって言ってたな」


◇


◇


少しだけ間。


◇


◇


ユイ「普通ってなに」


◇


◇


◇


その問いに、


◇


答える人はいない。


◇


◇


◇


レンの家の前、


◇


ユイの家の前、


◇


それぞれの“いつもの場所”が近づいていく。


◇


◇


でも今日は、


◇


いつもと少しだけ違う。


◇


◇


戻っているのに、


◇


戻りきらない感覚。


◇


◇


◇


レン「……明日」


◇


◇


レンは小さく呟く。


◇


◇


レン「普通に、か」


◇


◇


少しだけ笑う。


◇


◇


レン「無理言うなよ」


◇


◇


でも、


◇


その声は嫌じゃなかった。


◇


◇


◇


ユイの部屋の明かりがつく。


◇


◇


レンの部屋のカーテンが閉まる。


◇


◇


同じ夜なのに、


◇


別々の静けさ。


◇


◇


◇


ユイ「……おかしいな」


◇


◇


ベッドに座って、


◇


天井を見上げる。


◇


◇


ユイ「ただ手繋いだだけなのに」


◇


◇


ユイ「なんでこんな残るの」


◇


◇


◇


レンもまた、


◇


同じように天井を見ている。


◇


◇


レン「……あいつ」


◇


◇


レン「笑い方、下手だったな」


◇


◇


少しだけ、


◇


口元が緩む。


◇


◇


レン「でも、まぁ」


◇


◇


レン「悪くなかった」


◇


◇


◇


時計の針が進む音だけが、


◇


部屋に残る。


◇


◇


◇


そして、


◇


同じ頃。


◇


◇


ユイ「明日さ」


◇


◇


小さく声に出す。


◇


◇


ユイ「ちゃんと普通にできるかな」


◇


◇


◇


レン「……できるだろ」


◇


◇


誰もいないのに、


◇


そう答えるみたいに。


◇


◇


◇


でもふたりとも、


◇


わかっている。


◇


◇


“普通”は、


◇


たぶん今日より少しだけ難しい。


◇


◇


◇


それでも、


◇


明日は来る。


◇


◇


同じように歩いて、


◇


同じように会って、


◇


同じように笑うための明日。


◇


◇


◇


名前のないままの距離は、


◇


消えずに、


◇


ただ形だけを変えて、


◇


ふたりの中に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。