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79/85

まだ名前のない距離 67 触れたまま、ほどける瞬間を先延ばしにする夜

夜の道は、


◇


もうほとんど、


◇


見慣れた景色に戻っていた。


◇


◇


ユイ「……着くね」


◇


レン「うん」


◇


◇


言葉は短くなっていくのに、


◇


繋いだ手だけが、


◇


逆に離れなくなっていく。


◇


◇


ユイ「ねえ」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「ほんとに笑える?」


◇


◇


レン、少しだけ考える。


◇


◇


レン「たぶん無理」


◇


ユイ「え」


◇


レン「でもやる」


◇


◇


ユイ、少しだけ吹き出す。


◇


◇


ユイ「なにそれ」


◇


レン「約束だろ」


◇


ユイ「……そうだけど」


◇


◇


少しだけ、


◇


立ち止まる。


◇


◇


目の前には、


◇


それぞれの帰る場所へ続く分かれ道。


◇


◇


ユイ「ここだね」


◇


レン「だな」


◇


◇


手はまだ、


◇


離れていない。


◇


◇


ユイ「ねえレン」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「最後さ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「カウントしていい?」


◇


◇


レン、少しだけ笑う。


◇


◇


レン「なんで」


◇


ユイ「そのほうが」


◇


ユイ「ちゃんと終われそう」


◇


◇


レン、少しだけ頷く。


◇


◇


レン「いいよ」


◇


◇


ユイ、小さく息を吸う。


◇


◇


ユイ「……いくよ」


◇


レン「うん」


◇


◇


ユイ「さん」


◇


◇


まだ、


◇


手はそのまま。


◇


◇


ユイ「に」


◇


◇


指先に、


◇


少しだけ力がこもる。


◇


◇


ユイ「いち」


◇


◇


ほんの一瞬、


◇


時間が止まったみたいになる。


◇


◇


ユイ「……ゼロ」


◇


◇


――でも、


◇


離れない。


◇


◇


ユイ「……あれ」


◇


レン「だな」


◇


◇


ふたり、少しだけ笑う。


◇


◇


ユイ「無理じゃん」


◇


レン「無理だな」


◇


◇


それでも、


◇


どこかほっとした空気。


◇


◇


ユイ「もう一回いく?」


◇


レン「いる?」


◇


ユイ「わかんない」


◇


◇


少しだけ沈黙。


◇


◇


レン「……ユイ」


◇


ユイ「ん」


◇


レン「明日さ」


◇


ユイ「うん」


◇


レン「普通に来いよ」


◇


ユイ「行くよ」


◇


レン「今日みたいじゃなくていいから」


◇


ユイ「……それちょっと寂しい」


◇


レン「でも」


◇


レン「そのほうが続く」


◇


◇


ユイ、ゆっくり頷く。


◇


◇


ユイ「……うん」


◇


ユイ「じゃあ」


◇


ユイ「ちょっとだけ混ぜる」


◇


レン「なにを」


◇


ユイ「今日のやつ」


◇


◇


レン、少しだけ笑う。


◇


◇


レン「バランスか」


◇


ユイ「そう」


◇


◇


また少し、


◇


静かになる。


◇


◇


ユイ「ねえレン」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「そろそろほんとに」


◇


レン「うん」


◇


◇


ゆっくりと、


◇


指先がほどけていく。


◇


◇


触れていた温度が、


◇


空気に溶けていく。


◇


◇


ユイ「……笑って」


◇


◇


レン、ほんの少しだけ間を置いて、


◇


◇


ぎこちなく、


◇


でもちゃんと、


◇


笑う。


◇


◇


ユイ、それを見て、


◇


少しだけ目を細める。


◇


◇


ユイ「へた」


◇


レン「うるさい」


◇


◇


でも、


◇


そのやりとりが、


◇


いつも通りで。


◇


◇


ユイ「じゃあね」


◇


レン「おう」


◇


◇


ユイ「また明日」


◇


レン「また明日」


◇


◇


ユイは、


◇


少しだけ振り返ってから、


◇


歩き出す。


◇


◇


レンは、


◇


その背中を、


◇


少しだけ長く見送る。


◇


◇


さっきまであった距離が、


◇


ゆっくりと広がっていく。


◇


◇


でも、


◇


完全には離れきらないまま、


◇


どこかに残っている。


◇


◇


レン「……」


◇


◇


小さく息を吐く。


◇


◇


レン「区切り、か」


◇


◇


さっき言った言葉を、


◇


自分でなぞるように。


◇


◇


そのあと、


◇


レンも歩き出す。


◇


◇


それぞれの方向へ、


◇


それぞれの明日へ。


◇


◇


でもきっと、


◇


同じ“続き”の中へ。


◇


◇


触れていた時間は終わっても、


◇


消えたわけじゃない距離。


◇


◇


名前のないまま、


◇


それでも確かに残るものを抱えて、


◇


ふたりはまた、


◇


同じ日常に戻っていく。

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