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まだ名前のない距離 67 触れたまま、ほどける瞬間を先延ばしにする夜

夜の道は、



もうほとんど、



見慣れた景色に戻っていた。




ユイ「……着くね」



レン「うん」




言葉は短くなっていくのに、



繋いだ手だけが、



逆に離れなくなっていく。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「ほんとに笑える?」




レン、少しだけ考える。




レン「たぶん無理」



ユイ「え」



レン「でもやる」




ユイ、少しだけ吹き出す。




ユイ「なにそれ」



レン「約束だろ」



ユイ「……そうだけど」




少しだけ、



立ち止まる。




目の前には、



それぞれの帰る場所へ続く分かれ道。




ユイ「ここだね」



レン「だな」




手はまだ、



離れていない。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「最後さ」



レン「うん」



ユイ「カウントしていい?」




レン、少しだけ笑う。




レン「なんで」



ユイ「そのほうが」



ユイ「ちゃんと終われそう」




レン、少しだけ頷く。




レン「いいよ」




ユイ、小さく息を吸う。




ユイ「……いくよ」



レン「うん」




ユイ「さん」




まだ、



手はそのまま。




ユイ「に」




指先に、



少しだけ力がこもる。




ユイ「いち」




ほんの一瞬、



時間が止まったみたいになる。




ユイ「……ゼロ」




――でも、



離れない。




ユイ「……あれ」



レン「だな」




ふたり、少しだけ笑う。




ユイ「無理じゃん」



レン「無理だな」




それでも、



どこかほっとした空気。




ユイ「もう一回いく?」



レン「いる?」



ユイ「わかんない」




少しだけ沈黙。




レン「……ユイ」



ユイ「ん」



レン「明日さ」



ユイ「うん」



レン「普通に来いよ」



ユイ「行くよ」



レン「今日みたいじゃなくていいから」



ユイ「……それちょっと寂しい」



レン「でも」



レン「そのほうが続く」




ユイ、ゆっくり頷く。




ユイ「……うん」



ユイ「じゃあ」



ユイ「ちょっとだけ混ぜる」



レン「なにを」



ユイ「今日のやつ」




レン、少しだけ笑う。




レン「バランスか」



ユイ「そう」




また少し、



静かになる。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「そろそろほんとに」



レン「うん」




ゆっくりと、



指先がほどけていく。




触れていた温度が、



空気に溶けていく。




ユイ「……笑って」




レン、ほんの少しだけ間を置いて、




ぎこちなく、



でもちゃんと、



笑う。




ユイ、それを見て、



少しだけ目を細める。




ユイ「へた」



レン「うるさい」




でも、



そのやりとりが、



いつも通りで。




ユイ「じゃあね」



レン「おう」




ユイ「また明日」



レン「また明日」




ユイは、



少しだけ振り返ってから、



歩き出す。




レンは、



その背中を、



少しだけ長く見送る。




さっきまであった距離が、



ゆっくりと広がっていく。




でも、



完全には離れきらないまま、



どこかに残っている。




レン「……」




小さく息を吐く。




レン「区切り、か」




さっき言った言葉を、



自分でなぞるように。




そのあと、



レンも歩き出す。




それぞれの方向へ、



それぞれの明日へ。




でもきっと、



同じ“続き”の中へ。




触れていた時間は終わっても、



消えたわけじゃない距離。




名前のないまま、



それでも確かに残るものを抱えて、



ふたりはまた、



同じ日常に戻っていく。

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