まだ名前のない距離 67 触れたまま、ほどける瞬間を先延ばしにする夜
夜の道は、
◇
もうほとんど、
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見慣れた景色に戻っていた。
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◇
ユイ「……着くね」
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レン「うん」
◇
◇
言葉は短くなっていくのに、
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繋いだ手だけが、
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逆に離れなくなっていく。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「ほんとに笑える?」
◇
◇
レン、少しだけ考える。
◇
◇
レン「たぶん無理」
◇
ユイ「え」
◇
レン「でもやる」
◇
◇
ユイ、少しだけ吹き出す。
◇
◇
ユイ「なにそれ」
◇
レン「約束だろ」
◇
ユイ「……そうだけど」
◇
◇
少しだけ、
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立ち止まる。
◇
◇
目の前には、
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それぞれの帰る場所へ続く分かれ道。
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◇
ユイ「ここだね」
◇
レン「だな」
◇
◇
手はまだ、
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離れていない。
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◇
ユイ「ねえレン」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「最後さ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「カウントしていい?」
◇
◇
レン、少しだけ笑う。
◇
◇
レン「なんで」
◇
ユイ「そのほうが」
◇
ユイ「ちゃんと終われそう」
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◇
レン、少しだけ頷く。
◇
◇
レン「いいよ」
◇
◇
ユイ、小さく息を吸う。
◇
◇
ユイ「……いくよ」
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レン「うん」
◇
◇
ユイ「さん」
◇
◇
まだ、
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手はそのまま。
◇
◇
ユイ「に」
◇
◇
指先に、
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少しだけ力がこもる。
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◇
ユイ「いち」
◇
◇
ほんの一瞬、
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時間が止まったみたいになる。
◇
◇
ユイ「……ゼロ」
◇
◇
――でも、
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離れない。
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◇
ユイ「……あれ」
◇
レン「だな」
◇
◇
ふたり、少しだけ笑う。
◇
◇
ユイ「無理じゃん」
◇
レン「無理だな」
◇
◇
それでも、
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どこかほっとした空気。
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◇
ユイ「もう一回いく?」
◇
レン「いる?」
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ユイ「わかんない」
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◇
少しだけ沈黙。
◇
◇
レン「……ユイ」
◇
ユイ「ん」
◇
レン「明日さ」
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ユイ「うん」
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レン「普通に来いよ」
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ユイ「行くよ」
◇
レン「今日みたいじゃなくていいから」
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ユイ「……それちょっと寂しい」
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レン「でも」
◇
レン「そのほうが続く」
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◇
ユイ、ゆっくり頷く。
◇
◇
ユイ「……うん」
◇
ユイ「じゃあ」
◇
ユイ「ちょっとだけ混ぜる」
◇
レン「なにを」
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ユイ「今日のやつ」
◇
◇
レン、少しだけ笑う。
◇
◇
レン「バランスか」
◇
ユイ「そう」
◇
◇
また少し、
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静かになる。
◇
◇
ユイ「ねえレン」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「そろそろほんとに」
◇
レン「うん」
◇
◇
ゆっくりと、
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指先がほどけていく。
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◇
触れていた温度が、
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空気に溶けていく。
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◇
ユイ「……笑って」
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◇
レン、ほんの少しだけ間を置いて、
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◇
ぎこちなく、
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でもちゃんと、
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笑う。
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◇
ユイ、それを見て、
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少しだけ目を細める。
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◇
ユイ「へた」
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レン「うるさい」
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◇
でも、
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そのやりとりが、
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いつも通りで。
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◇
ユイ「じゃあね」
◇
レン「おう」
◇
◇
ユイ「また明日」
◇
レン「また明日」
◇
◇
ユイは、
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少しだけ振り返ってから、
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歩き出す。
◇
◇
レンは、
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その背中を、
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少しだけ長く見送る。
◇
◇
さっきまであった距離が、
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ゆっくりと広がっていく。
◇
◇
でも、
◇
完全には離れきらないまま、
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どこかに残っている。
◇
◇
レン「……」
◇
◇
小さく息を吐く。
◇
◇
レン「区切り、か」
◇
◇
さっき言った言葉を、
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自分でなぞるように。
◇
◇
そのあと、
◇
レンも歩き出す。
◇
◇
それぞれの方向へ、
◇
それぞれの明日へ。
◇
◇
でもきっと、
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同じ“続き”の中へ。
◇
◇
触れていた時間は終わっても、
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消えたわけじゃない距離。
◇
◇
名前のないまま、
◇
それでも確かに残るものを抱えて、
◇
ふたりはまた、
◇
同じ日常に戻っていく。




