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まだ名前のない距離 66 触れたまま、終わりに近づくほど離れたくなくなる夜

夜の道は、


◇


さっきよりも、


◇


少しだけ静かで、


◇


少しだけ現実に近づいていた。


◇


◇


ユイ「ねえ」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「今さ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「“やるか”って言ったけど」


◇


ユイ「ちゃんとわかってる?」


◇


◇


レン「なにが」


◇


ユイ「明日も“今”のままってやつ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「結構むずいよ?」


◇


◇


レン、少しだけ笑う。


◇


◇


レン「さっきも聞いたな、それ」


◇


ユイ「大事だから」


◇


レン「わかってる」


◇


◇


少しだけ、


◇


足音が揃う。


◇


◇


レン「でもさ」


◇


ユイ「うん」


◇


レン「むずいくらいでちょうどいいだろ」


◇


ユイ「なんで」


◇


レン「簡単だったら」


◇


レン「たぶん、こんなふうになってない」


◇


◇


ユイ、少しだけ目を細める。


◇


◇


ユイ「……それはそうかも」


◇


ユイ「こんなふうってどんなふう?」


◇


レン「今みたいな」


◇


ユイ「雑」


◇


◇


レン、小さく笑う。


◇


◇


レン「言葉にしたら崩れそうなやつ」


◇


◇


ユイ、少しだけ黙る。


◇


◇


ユイ「……それ」


◇


ユイ「ちょっとわかる」


◇


◇


ふたりの間に、


◇


やわらかい沈黙。


◇


◇


ユイ「ねえレン」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「もしさ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「明日、普通に会って」


◇


ユイ「普通に話して」


◇


ユイ「なんか今日みたいじゃなかったら」


◇


◇


レン「うん」


◇


ユイ「どうする?」


◇


◇


レン、少しだけ考える。


◇


◇


レン「また歩けばいい」


◇


ユイ「……またそれ」


◇


レン「だってそうだろ」


◇


レン「今日がこうなったのも」


◇


レン「歩いてたからだし」


◇


◇


ユイ、少しだけ笑う。


◇


◇


ユイ「原因それなの?」


◇


レン「たぶん半分くらい」


◇


ユイ「残り半分は?」


◇


レン「ユイ」


◇


◇


ユイ、一瞬だけ言葉を止める。


◇


◇


ユイ「……なにそれ」


◇


レン「事実だろ」


◇


ユイ「そういうの急に言うのやめて」


◇


レン「なんで」


◇


ユイ「困る」


◇


◇


レン、少しだけ視線を前に戻す。


◇


◇


レン「じゃあ言わないほうがいいか」


◇


ユイ「……」


◇


◇


ほんの少しの間。


◇


◇


ユイ「……たまには言って」


◇


レン「どっちだよ」


◇


ユイ「バランス」


◇


レン「難しいな」


◇


ユイ「でしょ」


◇


◇


ふたり、小さく笑う。


◇


◇


夜の空気が、


◇


少しずつ薄くなっていく。


◇


◇


ユイ「ねえ」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「ちょっとだけさ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「終わり見えてきてない?」


◇


◇


レン、少しだけ前を見る。


◇


遠くに、


◇


見慣れた明かり。


◇


◇


レン「……見えてるな」


◇


ユイ「だよね」


◇


◇


ユイの指が、


◇


ほんの少しだけ強くなる。


◇


◇


ユイ「やだな」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「終わるの」


◇


◇


レン、少しだけ息を吐く。


◇


◇


レン「終わるっていうか」


◇


レン「区切りだろ」


◇


ユイ「それ同じじゃん」


◇


レン「違うだろ」


◇


ユイ「どこが」


◇


◇


レン、少しだけ考えてから答える。


◇


◇


レン「終わりはそこで終わるけど」


◇


レン「区切りは、続きがある前提」


◇


◇


ユイ、ゆっくりとその言葉を受け取る。


◇


◇


ユイ「……そっか」


◇


ユイ「じゃあ今日のこれは?」


◇


レン「区切りの前」


◇


ユイ「なにそれ」


◇


レン「途中」


◇


ユイ「結局そこなんだ」


◇


◇


でも、


◇


その答えに少しだけ安心する。


◇


◇


ユイ「ねえレン」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「じゃあさ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「このあと別れるとき」


◇


ユイ「変な空気にしないでね」


◇


◇


レン「変な空気って」


◇


ユイ「気まずいやつ」


◇


レン「ああ」


◇


◇


レン、少しだけ笑う。


◇


◇


レン「無理だろ」


◇


ユイ「え」


◇


レン「絶対ちょっとはなる」


◇


ユイ「やだ」


◇


レン「俺もやだ」


◇


◇


ユイ、少しだけむくれる。


◇


◇


ユイ「なんとかしてよ」


◇


レン「なんとかって」


◇


ユイ「いつも通りにするの」


◇


レン「今がいつも通りじゃないだろ」


◇


◇


ユイ、言葉に詰まる。


◇


◇


ユイ「……それ言わないで」


◇


レン「事実」


◇


ユイ「わかってるけど」


◇


◇


少しだけ、


◇


足がゆっくりになる。


◇


◇


ユイ「ねえ」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「じゃあさ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「気まずくなったら」


◇


ユイ「最後、笑って」


◇


◇


レン「笑う?」


◇


ユイ「うん」


◇


ユイ「無理やりでもいいから」


◇


◇


レン、少しだけ頷く。


◇


◇


レン「了解」


◇


◇


ユイ、少しだけ安心したように息を吐く。


◇


◇


ユイ「……それなら大丈夫かも」


◇


◇


ふたりの歩幅は、


◇


最後まで揃ったまま。


◇


◇


近づいてくる終わりと、


◇


まだ続いてほしい今と、


◇


その間で揺れながら。


◇


◇


ユイ「ねえレン」


◇


レン「ん」


◇


ユイ「あと少しだけ」


◇


レン「うん」


◇


ユイ「ゆっくり歩こ」


◇


◇


レン、少しだけ笑う。


◇


◇


レン「もう十分ゆっくりだろ」


◇


ユイ「それでも」


◇


ユイ「もうちょっとだけ」


◇


◇


レン「……了解」


◇


◇


その“了解”は、


◇


さっきよりも少しだけ重くて、


◇


でもやっぱりやさしかった。


◇


◇


終わりに近づくほど、


◇


離れたくなくなる距離。


◇


それでも、


◇


ちゃんと進んでしまう時間の中で、


◇


ふたりはまだ、


◇


手を離さずに歩いている。

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