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まだ名前のない距離 66 触れたまま、終わりに近づくほど離れたくなくなる夜

夜の道は、



さっきよりも、



少しだけ静かで、



少しだけ現実に近づいていた。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「今さ」



レン「うん」



ユイ「“やるか”って言ったけど」



ユイ「ちゃんとわかってる?」




レン「なにが」



ユイ「明日も“今”のままってやつ」



レン「うん」



ユイ「結構むずいよ?」




レン、少しだけ笑う。




レン「さっきも聞いたな、それ」



ユイ「大事だから」



レン「わかってる」




少しだけ、



足音が揃う。




レン「でもさ」



ユイ「うん」



レン「むずいくらいでちょうどいいだろ」



ユイ「なんで」



レン「簡単だったら」



レン「たぶん、こんなふうになってない」




ユイ、少しだけ目を細める。




ユイ「……それはそうかも」



ユイ「こんなふうってどんなふう?」



レン「今みたいな」



ユイ「雑」




レン、小さく笑う。




レン「言葉にしたら崩れそうなやつ」




ユイ、少しだけ黙る。




ユイ「……それ」



ユイ「ちょっとわかる」




ふたりの間に、



やわらかい沈黙。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「もしさ」



レン「うん」



ユイ「明日、普通に会って」



ユイ「普通に話して」



ユイ「なんか今日みたいじゃなかったら」




レン「うん」



ユイ「どうする?」




レン、少しだけ考える。




レン「また歩けばいい」



ユイ「……またそれ」



レン「だってそうだろ」



レン「今日がこうなったのも」



レン「歩いてたからだし」




ユイ、少しだけ笑う。




ユイ「原因それなの?」



レン「たぶん半分くらい」



ユイ「残り半分は?」



レン「ユイ」




ユイ、一瞬だけ言葉を止める。




ユイ「……なにそれ」



レン「事実だろ」



ユイ「そういうの急に言うのやめて」



レン「なんで」



ユイ「困る」




レン、少しだけ視線を前に戻す。




レン「じゃあ言わないほうがいいか」



ユイ「……」




ほんの少しの間。




ユイ「……たまには言って」



レン「どっちだよ」



ユイ「バランス」



レン「難しいな」



ユイ「でしょ」




ふたり、小さく笑う。




夜の空気が、



少しずつ薄くなっていく。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「ちょっとだけさ」



レン「うん」



ユイ「終わり見えてきてない?」




レン、少しだけ前を見る。



遠くに、



見慣れた明かり。




レン「……見えてるな」



ユイ「だよね」




ユイの指が、



ほんの少しだけ強くなる。




ユイ「やだな」



レン「うん」



ユイ「終わるの」




レン、少しだけ息を吐く。




レン「終わるっていうか」



レン「区切りだろ」



ユイ「それ同じじゃん」



レン「違うだろ」



ユイ「どこが」




レン、少しだけ考えてから答える。




レン「終わりはそこで終わるけど」



レン「区切りは、続きがある前提」




ユイ、ゆっくりとその言葉を受け取る。




ユイ「……そっか」



ユイ「じゃあ今日のこれは?」



レン「区切りの前」



ユイ「なにそれ」



レン「途中」



ユイ「結局そこなんだ」




でも、



その答えに少しだけ安心する。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「じゃあさ」



レン「うん」



ユイ「このあと別れるとき」



ユイ「変な空気にしないでね」




レン「変な空気って」



ユイ「気まずいやつ」



レン「ああ」




レン、少しだけ笑う。




レン「無理だろ」



ユイ「え」



レン「絶対ちょっとはなる」



ユイ「やだ」



レン「俺もやだ」




ユイ、少しだけむくれる。




ユイ「なんとかしてよ」



レン「なんとかって」



ユイ「いつも通りにするの」



レン「今がいつも通りじゃないだろ」




ユイ、言葉に詰まる。




ユイ「……それ言わないで」



レン「事実」



ユイ「わかってるけど」




少しだけ、



足がゆっくりになる。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「じゃあさ」



レン「うん」



ユイ「気まずくなったら」



ユイ「最後、笑って」




レン「笑う?」



ユイ「うん」



ユイ「無理やりでもいいから」




レン、少しだけ頷く。




レン「了解」




ユイ、少しだけ安心したように息を吐く。




ユイ「……それなら大丈夫かも」




ふたりの歩幅は、



最後まで揃ったまま。




近づいてくる終わりと、



まだ続いてほしい今と、



その間で揺れながら。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「あと少しだけ」



レン「うん」



ユイ「ゆっくり歩こ」




レン、少しだけ笑う。




レン「もう十分ゆっくりだろ」



ユイ「それでも」



ユイ「もうちょっとだけ」




レン「……了解」




その“了解”は、



さっきよりも少しだけ重くて、



でもやっぱりやさしかった。




終わりに近づくほど、



離れたくなくなる距離。



それでも、



ちゃんと進んでしまう時間の中で、



ふたりはまだ、



手を離さずに歩いている。

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