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まだ名前のない距離 65 触れたまま、言葉にしないほうが近くなる夜の続き

夜の道は、



さっきよりも、



少しだけ、



やさしくなっていた。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきの“了解”ってさ」



レン「うん」



ユイ「軽く言ったでしょ」



レン「いや、ちゃんと考えて言ったけど」



ユイ「ほんとに?」



レン「ほんとに」




ユイ、少しだけ疑うように見上げる。




ユイ「だってさ」



ユイ「絶対離さないでって言って」



ユイ「でも離してって言って」



ユイ「意味わかんないじゃん」



レン「わかってるよ」



ユイ「じゃあなんで“了解”なの」




レン、少しだけ考えて、



静かに答える。




レン「その時のユイに合わせるってことだよ」



ユイ「……なにそれ」



レン「今は離さない」



レン「でも、その時が来たら無理に繋がない」




ユイ、少しだけ言葉を失う。




ユイ「それさ」



ユイ「優しいのか残酷なのか分かんない」



レン「どっちでもいいんじゃないか」



ユイ「よくない」



ユイ「ちゃんと決めたい」




レン「決められるならな」



ユイ「……決めたいの」



レン「なんで」



ユイ「安心したいから」




少しだけ、



風が吹く。




レン「安心ってさ」



ユイ「うん」



レン「決めたら手に入るもんじゃないだろ」




ユイ、少しだけ視線を逸らす。




ユイ「そうだけど」



ユイ「でも欲しいじゃん」



レン「欲しいな」



ユイ「でしょ」




レン、少しだけ笑う。




レン「じゃあさ」



ユイ「うん」



レン「今だけはあるってことでいいだろ」




ユイ、少しだけ立ち止まりそうになって、



でも止まらない。




ユイ「今だけって」



ユイ「ずるい言い方ばっかり」



レン「でも本当だろ」



ユイ「……うん」




ユイの手が、



また少しだけ強くなる。




ユイ「今はある」



レン「ある」



ユイ「じゃあそれでいい」




レン「いいのか」



ユイ「うん」



ユイ「今はね」




少しだけ、



ふたりの距離が近づく。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「さっきさ」



レン「うん」



ユイ「どこでも行けるって言ったじゃん」



レン「言ったな」



ユイ「あれ」



ユイ「嘘じゃないよね」



レン「嘘つく理由あるか?」



ユイ「ないけど」




ユイ、少しだけ笑って、



少しだけ不安そうに続ける。




ユイ「でもさ」



ユイ「ほんとに行けちゃったら」



ユイ「戻れないよ?」



レン「戻る気あるのか?」



ユイ「……少しは」



レン「じゃあ大丈夫だろ」



ユイ「なにが」



レン「戻りたくなったら戻ればいい」



ユイ「そんな簡単じゃないよ」



レン「簡単じゃないな」




少しだけ間。




レン「でも」



ユイ「うん」



レン「一人じゃないなら、ちょっとは簡単になる」




ユイ、ゆっくりと息を吐く。




ユイ「……ほんとさ」



ユイ「そういうことばっかり言う」



レン「嫌か?」



ユイ「嫌じゃない」



ユイ「むしろ困る」



レン「なんで」



ユイ「離れにくくなるから」




レン、少しだけ黙る。




レン「じゃあ離れる前提なんだな」



ユイ「……未来の話ね」



レン「今は?」




ユイ、少しだけ笑って、



レンの手を引く。




ユイ「今は」



ユイ「離れる理由ない」




レン「だな」




また歩き出すリズムが、



ぴったり揃う。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「このままさ」



レン「うん」



ユイ「ほんとに朝まで歩いたらどうする?」



レン「学校遅刻だな」



ユイ「現実的」



レン「大事だろ」



ユイ「ロマンない」



レン「あるだろ」



ユイ「どこに」



レン「一緒に遅刻するところ」




ユイ、吹き出す。




ユイ「それロマンなの?」



レン「たぶんな」



ユイ「基準おかしい」




でも、



笑いながら、



少しだけ寄りかかる。




ユイ「……でも」



レン「ん」



ユイ「それも悪くないかも」



レン「だろ」




夜はまだ、



終わらない。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「もしさ」



レン「うん」



ユイ「この夜が終わったら」




レン「うん」



ユイ「ちゃんと続くかな」




レン、少しだけ考えて、




レン「続けるだろ」



ユイ「どうやって」



レン「今みたいに」



ユイ「今って」



レン「決めないまま」




ユイ、静かに頷く。




ユイ「……そっか」




そして、



ほんの少しだけ、



声を落とす。




ユイ「じゃあさ」



レン「ん」



ユイ「明日も」



ユイ「“今”のままでいよ」




レン、少しだけ笑う。




レン「難しいな」



ユイ「でしょ」



レン「でも」




手を、



もう一度しっかり握る。




レン「やるか」




ユイ「うん」




その約束も、



名前はない。



でも、



確かに交わされている。




夜の中で、



ふたりだけが知っている形で。




変わっていくことも、



変わらないことも、



どちらも否定しないまま、



ただ隣にいることを選び続ける。




まだ名前のない距離は、



少しずつ、



でも確実に、



深くなっていく。

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