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まだ名前のない距離 64 触れたまま、言葉より先に進んでしまう夜

夜の道は、



さっきよりも、



わずかに長く感じられた。




終わりが遠いのか、



それとも、



終わらせたくないだけなのか。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「今さ」



レン「うん」



ユイ「帰ってるはずなのに」



ユイ「全然帰ってる感じしない」




レン、少しだけ周りを見る。




レン「まあ」



レン「遠回りしてるしな」



ユイ「それだけじゃない」




ユイ、少しだけ握る力を強くする。




ユイ「なんか」



ユイ「このまま、どこでも行けそうな感じ」




レン「どこでもって」



ユイ「わかんないけど」



ユイ「帰る以外のどこか」




少しだけ、



静かな間。




レン「……行くか?」



ユイ「え」



レン「どこでも」




ユイ、驚いたように笑う。




ユイ「軽いなあ」



レン「今さらだろ」



ユイ「そうだけどさ」




ユイ、少しだけ視線を落とす。




ユイ「でも」



ユイ「ほんとに行けるって言われると」



ユイ「ちょっと怖い」




レン「怖いか」



ユイ「うん」



ユイ「だってさ」



ユイ「戻る場所なくなるじゃん」




レン「……今も、半分くらいはそうだろ」



ユイ「うん」



ユイ「だから余計に」




足音が、



ほんの少しだけゆっくりになる。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「もしさ」



レン「うん」



ユイ「どこにも行かないで」



ユイ「このままずっと歩いてたら」




レン「うん」



ユイ「どうなると思う?」




レン、少しだけ考える。




レン「そのうち」



レン「どっかに着く」



ユイ「雑すぎ」




ふたり、小さく笑う。




レン「でもさ」



ユイ「うん」



レン「どこに着くかより」



レン「誰と歩いてるかのほうが大事じゃないか」




ユイ、少しだけ息を止める。




ユイ「……それ」



ユイ「ずるい言い方」



レン「なんで」



ユイ「それ言われたら」



ユイ「もういいって思っちゃうじゃん」




レン「いいだろ」



ユイ「よくない」



ユイ「ちゃんと悩みたいのに」




レン「悩めばいい」



ユイ「隣で?」



レン「うん」




ユイ、少しだけ笑って、



ほんの少しだけ肩を預ける。




ユイ「……じゃあ悩む」



レン「どうぞ」



ユイ「うるさい」




また少し、



間。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきさ」



レン「うん」



ユイ「“終わらせないようにする”って言ったじゃん」




レン「言ったな」



ユイ「あれさ」



ユイ「具体的にどうするの?」




レン、少しだけ困ったように笑う。




レン「……難しいな」



ユイ「でしょ」



レン「でも」




レンの指が、



ゆっくりと握り返す。




レン「離さないことじゃないか」




ユイ、少しだけ目を細める。




ユイ「シンプルだね」



レン「それくらいしかできないだろ」



ユイ「うん」



ユイ「でも」



ユイ「それが一番かも」




ふたりの手は、



もう自然に重なっている。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「もしさ」



レン「うん」



ユイ「どっかでほんとに離さなきゃいけなくなったら」




レン「うん」



ユイ「その時は」



ユイ「ちゃんと離してね」




レン、少しだけ眉を寄せる。




レン「なんで」



ユイ「無理して繋いでるのは」



ユイ「違う気がするから」




静かに、



言い切る。




レン「……そっか」




でも、



その直後。




ユイ「でもね」



レン「ん」



ユイ「今は」




ユイの指が、



少しだけ強く絡む。




ユイ「絶対離さないで」




レン、少しだけ息を止めて、



そして、



小さく笑う。




レン「矛盾してるな」



ユイ「してるよ」



ユイ「でもそれが今」




レン「……了解」




その答えは、



短いけれど、



迷いはなかった。




夜の空気が、



少しだけやわらぐ。




終わらせないための約束は、



言葉になりきらないまま、



確かにそこに残る。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「この感じ」



レン「うん」



ユイ「名前なくてよかったかもね」




レン「だな」



ユイ「まだ」



ユイ「変わっていけるから」




レン「変わる前提なんだな」



ユイ「だって」



ユイ「もう変わってるし」




レン、少しだけ笑う。




レン「否定できないな」




ふたりの歩幅は、



もう迷わず揃っている。




夜は続く。



終わりを決めないまま、



形だけが、



少しずつ輪郭を持っていく。




名前のないままでも、



確かに深まっていく距離。




離さないと決めた手と、



いつか離すかもしれない未来を、



同時に抱えながら、



それでも今を選び続けるふたり。

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