まだ名前のない距離 64 触れたまま、言葉より先に進んでしまう夜
夜の道は、
◇
さっきよりも、
◇
わずかに長く感じられた。
◇
◇
終わりが遠いのか、
◇
それとも、
◇
終わらせたくないだけなのか。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「今さ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「帰ってるはずなのに」
◇
ユイ「全然帰ってる感じしない」
◇
◇
レン、少しだけ周りを見る。
◇
◇
レン「まあ」
◇
レン「遠回りしてるしな」
◇
ユイ「それだけじゃない」
◇
◇
ユイ、少しだけ握る力を強くする。
◇
◇
ユイ「なんか」
◇
ユイ「このまま、どこでも行けそうな感じ」
◇
◇
レン「どこでもって」
◇
ユイ「わかんないけど」
◇
ユイ「帰る以外のどこか」
◇
◇
少しだけ、
◇
静かな間。
◇
◇
レン「……行くか?」
◇
ユイ「え」
◇
レン「どこでも」
◇
◇
ユイ、驚いたように笑う。
◇
◇
ユイ「軽いなあ」
◇
レン「今さらだろ」
◇
ユイ「そうだけどさ」
◇
◇
ユイ、少しだけ視線を落とす。
◇
◇
ユイ「でも」
◇
ユイ「ほんとに行けるって言われると」
◇
ユイ「ちょっと怖い」
◇
◇
レン「怖いか」
◇
ユイ「うん」
◇
ユイ「だってさ」
◇
ユイ「戻る場所なくなるじゃん」
◇
◇
レン「……今も、半分くらいはそうだろ」
◇
ユイ「うん」
◇
ユイ「だから余計に」
◇
◇
足音が、
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ほんの少しだけゆっくりになる。
◇
◇
ユイ「ねえレン」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「もしさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「どこにも行かないで」
◇
ユイ「このままずっと歩いてたら」
◇
◇
レン「うん」
◇
ユイ「どうなると思う?」
◇
◇
レン、少しだけ考える。
◇
◇
レン「そのうち」
◇
レン「どっかに着く」
◇
ユイ「雑すぎ」
◇
◇
ふたり、小さく笑う。
◇
◇
レン「でもさ」
◇
ユイ「うん」
◇
レン「どこに着くかより」
◇
レン「誰と歩いてるかのほうが大事じゃないか」
◇
◇
ユイ、少しだけ息を止める。
◇
◇
ユイ「……それ」
◇
ユイ「ずるい言い方」
◇
レン「なんで」
◇
ユイ「それ言われたら」
◇
ユイ「もういいって思っちゃうじゃん」
◇
◇
レン「いいだろ」
◇
ユイ「よくない」
◇
ユイ「ちゃんと悩みたいのに」
◇
◇
レン「悩めばいい」
◇
ユイ「隣で?」
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ、少しだけ笑って、
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ほんの少しだけ肩を預ける。
◇
◇
ユイ「……じゃあ悩む」
◇
レン「どうぞ」
◇
ユイ「うるさい」
◇
◇
また少し、
◇
間。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「さっきさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「“終わらせないようにする”って言ったじゃん」
◇
◇
レン「言ったな」
◇
ユイ「あれさ」
◇
ユイ「具体的にどうするの?」
◇
◇
レン、少しだけ困ったように笑う。
◇
◇
レン「……難しいな」
◇
ユイ「でしょ」
◇
レン「でも」
◇
◇
レンの指が、
◇
ゆっくりと握り返す。
◇
◇
レン「離さないことじゃないか」
◇
◇
ユイ、少しだけ目を細める。
◇
◇
ユイ「シンプルだね」
◇
レン「それくらいしかできないだろ」
◇
ユイ「うん」
◇
ユイ「でも」
◇
ユイ「それが一番かも」
◇
◇
ふたりの手は、
◇
もう自然に重なっている。
◇
◇
ユイ「ねえレン」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「もしさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「どっかでほんとに離さなきゃいけなくなったら」
◇
◇
レン「うん」
◇
ユイ「その時は」
◇
ユイ「ちゃんと離してね」
◇
◇
レン、少しだけ眉を寄せる。
◇
◇
レン「なんで」
◇
ユイ「無理して繋いでるのは」
◇
ユイ「違う気がするから」
◇
◇
静かに、
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言い切る。
◇
◇
レン「……そっか」
◇
◇
でも、
◇
その直後。
◇
◇
ユイ「でもね」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「今は」
◇
◇
ユイの指が、
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少しだけ強く絡む。
◇
◇
ユイ「絶対離さないで」
◇
◇
レン、少しだけ息を止めて、
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そして、
◇
小さく笑う。
◇
◇
レン「矛盾してるな」
◇
ユイ「してるよ」
◇
ユイ「でもそれが今」
◇
◇
レン「……了解」
◇
◇
その答えは、
◇
短いけれど、
◇
迷いはなかった。
◇
◇
夜の空気が、
◇
少しだけやわらぐ。
◇
◇
終わらせないための約束は、
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言葉になりきらないまま、
◇
確かにそこに残る。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「この感じ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「名前なくてよかったかもね」
◇
◇
レン「だな」
◇
ユイ「まだ」
◇
ユイ「変わっていけるから」
◇
◇
レン「変わる前提なんだな」
◇
ユイ「だって」
◇
ユイ「もう変わってるし」
◇
◇
レン、少しだけ笑う。
◇
◇
レン「否定できないな」
◇
◇
ふたりの歩幅は、
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もう迷わず揃っている。
◇
◇
夜は続く。
◇
終わりを決めないまま、
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形だけが、
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少しずつ輪郭を持っていく。
◇
◇
名前のないままでも、
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確かに深まっていく距離。
◇
◇
離さないと決めた手と、
◇
いつか離すかもしれない未来を、
◇
同時に抱えながら、
◇
それでも今を選び続けるふたり。




