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まだ名前のない距離 63 触れたまま、確かめないままでも変わっていく夜

夜の道は、



さっきよりも、



さらに静かになっていた。




足音と、



呼吸だけが、



ゆっくりと重なっていく。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきさ」



レン「うん」



ユイ「“ただの途中じゃいられない”って顔してた」




レン、少しだけ眉を動かす。




レン「顔に出てた?」



ユイ「出てた」



ユイ「めちゃくちゃ」




レン、苦笑する。




レン「隠してたつもりだったんだけどな」



ユイ「無理でしょ」



ユイ「今のレン、分かりやすいもん」




レン「それ、いい意味?」



ユイ「どうだろ」



ユイ「でも」



ユイ「嫌じゃない」




少しだけ間が空く。




レン「……そっか」




ユイの肩が、



ほんの少しだけ寄る。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「もしさ」



レン「うん」



ユイ「このまま戻れなくなったら」




レンは、



今度はすぐに答える。




レン「もうなってるだろ」




ユイ、足を止めかけて、



でも止まらない。




ユイ「……やっぱり」



レン「気づいてなかった?」



ユイ「気づいてたけど」



ユイ「言われると違う」




レン「何が」



ユイ「逃げ道なくなる感じ」




レン、少しだけ笑う。




レン「さっきも言ってたな」



ユイ「うん」



ユイ「でもさ」



ユイ「ちょっとだけ安心もする」




レン「どっちだよ」



ユイ「両方」




指が、



さらに絡む。




ユイ「怖いのに」



ユイ「離したくないって思ってるの」



ユイ「ちゃんと同じなんだなって」




レン、少しだけ目を伏せる。




レン「……同じだよ」




短い言葉。



でも、



重さは隠れていない。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「もしどっかでさ」



レン「うん」



ユイ「ちゃんと名前つけなきゃいけなくなったら」




レン「うん」



ユイ「どうする?」




少しだけ、



風が吹く。




レンは、



その風に合わせるみたいに、



息を吐く。




レン「その時考える」



ユイ「出た」




小さく笑う。




ユイ「ほんとそういうとこ」



レン「今じゃダメか?」



ユイ「ダメじゃない」



ユイ「むしろ」



ユイ「今決められたら困る」




レン「なんで」



ユイ「終わりそうだから」




レン、少しだけ驚く。




レン「終わる?」



ユイ「だって」



ユイ「名前ついたら」



ユイ「それで完成じゃん」




一瞬、



言葉が途切れる。




ユイ「……今はまだ」



ユイ「途中のままでいい」




レン「……そっか」




歩幅が、



また少しだけ揃う。




レン「じゃあ」



ユイ「うん」



レン「終わらせないようにするか」




ユイ、少しだけ目を細める。




ユイ「それって」



ユイ「続けるってこと?」



レン「たぶんな」




ユイ「曖昧だなあ」



レン「今さらだろ」



ユイ「まあね」




ふたり、



同時に少し笑う。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「手、さ」



レン「うん」



ユイ「さっきよりあったかい」




レン「そりゃ」



レン「ずっと握ってるからな」



ユイ「それだけじゃないよ」




少しだけ、



間。




ユイ「ちゃんと、繋いでるから」




レンの指が、



ほんの少しだけ動く。




レン「……そうだな」




夜は、



まだ終わらない。




でも、



さっきよりも少しだけ、



進んでいる。




名前はまだないまま、



それでも、



確かに形を持ち始めている距離。




戻れないことを知ったまま、



それでも進ぶことを、



ふたりはもう、



選び始めていた。

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