まだ名前のない距離 63 触れたまま、確かめないままでも変わっていく夜
夜の道は、
◇
さっきよりも、
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さらに静かになっていた。
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◇
足音と、
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呼吸だけが、
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ゆっくりと重なっていく。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「さっきさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「“ただの途中じゃいられない”って顔してた」
◇
◇
レン、少しだけ眉を動かす。
◇
◇
レン「顔に出てた?」
◇
ユイ「出てた」
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ユイ「めちゃくちゃ」
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◇
レン、苦笑する。
◇
◇
レン「隠してたつもりだったんだけどな」
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ユイ「無理でしょ」
◇
ユイ「今のレン、分かりやすいもん」
◇
◇
レン「それ、いい意味?」
◇
ユイ「どうだろ」
◇
ユイ「でも」
◇
ユイ「嫌じゃない」
◇
◇
少しだけ間が空く。
◇
◇
レン「……そっか」
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◇
ユイの肩が、
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ほんの少しだけ寄る。
◇
◇
ユイ「ねえレン」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「もしさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「このまま戻れなくなったら」
◇
◇
レンは、
◇
今度はすぐに答える。
◇
◇
レン「もうなってるだろ」
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◇
ユイ、足を止めかけて、
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でも止まらない。
◇
◇
ユイ「……やっぱり」
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レン「気づいてなかった?」
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ユイ「気づいてたけど」
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ユイ「言われると違う」
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◇
レン「何が」
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ユイ「逃げ道なくなる感じ」
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レン、少しだけ笑う。
◇
◇
レン「さっきも言ってたな」
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ユイ「うん」
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ユイ「でもさ」
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ユイ「ちょっとだけ安心もする」
◇
◇
レン「どっちだよ」
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ユイ「両方」
◇
◇
指が、
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さらに絡む。
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◇
ユイ「怖いのに」
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ユイ「離したくないって思ってるの」
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ユイ「ちゃんと同じなんだなって」
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◇
レン、少しだけ目を伏せる。
◇
◇
レン「……同じだよ」
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◇
短い言葉。
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でも、
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重さは隠れていない。
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◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
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ユイ「もしどっかでさ」
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レン「うん」
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ユイ「ちゃんと名前つけなきゃいけなくなったら」
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◇
レン「うん」
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ユイ「どうする?」
◇
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少しだけ、
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風が吹く。
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◇
レンは、
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その風に合わせるみたいに、
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息を吐く。
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◇
レン「その時考える」
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ユイ「出た」
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小さく笑う。
◇
◇
ユイ「ほんとそういうとこ」
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レン「今じゃダメか?」
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ユイ「ダメじゃない」
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ユイ「むしろ」
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ユイ「今決められたら困る」
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◇
レン「なんで」
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ユイ「終わりそうだから」
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◇
レン、少しだけ驚く。
◇
◇
レン「終わる?」
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ユイ「だって」
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ユイ「名前ついたら」
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ユイ「それで完成じゃん」
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◇
一瞬、
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言葉が途切れる。
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◇
ユイ「……今はまだ」
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ユイ「途中のままでいい」
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◇
レン「……そっか」
◇
◇
歩幅が、
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また少しだけ揃う。
◇
◇
レン「じゃあ」
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ユイ「うん」
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レン「終わらせないようにするか」
◇
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ユイ、少しだけ目を細める。
◇
◇
ユイ「それって」
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ユイ「続けるってこと?」
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レン「たぶんな」
◇
◇
ユイ「曖昧だなあ」
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レン「今さらだろ」
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ユイ「まあね」
◇
◇
ふたり、
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同時に少し笑う。
◇
◇
ユイ「ねえレン」
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レン「ん」
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ユイ「手、さ」
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レン「うん」
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ユイ「さっきよりあったかい」
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◇
レン「そりゃ」
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レン「ずっと握ってるからな」
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ユイ「それだけじゃないよ」
◇
◇
少しだけ、
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間。
◇
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ユイ「ちゃんと、繋いでるから」
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レンの指が、
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ほんの少しだけ動く。
◇
◇
レン「……そうだな」
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◇
夜は、
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まだ終わらない。
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◇
でも、
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さっきよりも少しだけ、
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進んでいる。
◇
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名前はまだないまま、
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それでも、
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確かに形を持ち始めている距離。
◇
◇
戻れないことを知ったまま、
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それでも進ぶことを、
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ふたりはもう、
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選び始めていた。




