表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/85

まだ名前のない距離 62 触れたまま、戻れないことを知ってしまう夜の途中

夜の空気は、



さっきよりも、



少しだけ深くなっていた。




歩くたびに、



靴音だけが静かに重なる。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「このままさ」



レン「うん」



ユイ「どっちかが帰るって言うまで、終わらないのかな」




レン、少しだけ空を見上げる。




レン「たぶん」



レン「言わなきゃ終わらない」



ユイ「……そっか」




ユイの指が、



少しだけ緩む。




でも、



すぐにまた、



同じ強さで握り直される。




レン「どうした」



ユイ「ううん」



ユイ「試しただけ」



レン「何を」



ユイ「離したら、どうなるか」




レン、少しだけ間を置く。




レン「で?」



ユイ「やめた」




小さく笑う気配。




ユイ「離したくなかった」




レンの歩幅が、



ほんの少しだけ乱れる。




レン「正直だな」



ユイ「今さらでしょ」



レン「まあな」




少しだけ、



距離が近づく。




肩が、



かすかに触れる。




ユイ「ねえレン」



レン「ん」



ユイ「怖くない?」



レン「何が」



ユイ「このままさ」



ユイ「ちゃんと決めないまま進んでいくの」




レン、すぐには答えない。




代わりに、



繋いだ手に、



少しだけ力を込める。




レン「怖いよ」




ユイ、少しだけ目を細める。




ユイ「……やっぱり」



レン「でも」



ユイ「うん」



レン「離す方が、もっと怖い」




一瞬、



時間が止まったみたいに静かになる。




ユイ「……それ」



レン「ん」



ユイ「ずるい」




声が、



少しだけ震えている。




レン「本音だろ」



ユイ「うん」



ユイ「だからずるい」




ユイの指が、



絡む。




さっきよりも、



はっきりと。




ユイ「逃げ場なくなる」



レン「最初からないだろ」



ユイ「……確かに」




小さく息を吐く。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「もしさ」



レン「うん」



ユイ「途中のまま、ずっと続いたら」




レン「うん」



ユイ「それって、ちゃんとした“何か”になるのかな」




レンは、



ほんの少しだけ考えて、



首をかしげる。




レン「なるんじゃないか」



ユイ「ほんとに?」



レン「名前なくても」



レン「続いてるなら、それでいいだろ」




ユイ、少しだけ笑う。




ユイ「それ」



ユイ「レンっぽい」



レン「そうか?」



ユイ「うん」



ユイ「ちゃんとしないくせに」



ユイ「ちゃんと続けようとする感じ」




レン、少しだけ苦笑する。




レン「褒めてるのかそれ」



ユイ「半分くらい」




また、



静かな時間が流れる。




街灯が切れて、



少し暗い道に入る。




その瞬間、



ユイの手が、



ほんの少しだけ強くなる。




レン「暗いの苦手か」



ユイ「別に」



レン「じゃあなんで強くした」



ユイ「……見えにくいから」



レン「何が」



ユイ「レンが」




レン、少しだけ息を止める。




ユイ「ちゃんといるって」



ユイ「分かるように」




レン、ゆっくりと頷く。




レン「じゃあ」



ユイ「うん」



レン「こっちも強くしとく」




指と指が、



さらに深く重なる。




ユイ「……うん」




その声は、



さっきよりも、



ずっと小さくて、



でも、



確かだった。




夜の道は、



まだ終わらない。




決めなくてもいいまま、



進んでいく距離。




でも、



もう、



“ただの途中”ではいられないことだけが、



静かに、



確かに、



増えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ