まだ名前のない距離 62 触れたまま、戻れないことを知ってしまう夜の途中
夜の空気は、
◇
さっきよりも、
◇
少しだけ深くなっていた。
◇
◇
歩くたびに、
◇
靴音だけが静かに重なる。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「このままさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「どっちかが帰るって言うまで、終わらないのかな」
◇
◇
レン、少しだけ空を見上げる。
◇
◇
レン「たぶん」
◇
レン「言わなきゃ終わらない」
◇
ユイ「……そっか」
◇
◇
ユイの指が、
◇
少しだけ緩む。
◇
◇
でも、
◇
すぐにまた、
◇
同じ強さで握り直される。
◇
◇
レン「どうした」
◇
ユイ「ううん」
◇
ユイ「試しただけ」
◇
レン「何を」
◇
ユイ「離したら、どうなるか」
◇
◇
レン、少しだけ間を置く。
◇
◇
レン「で?」
◇
ユイ「やめた」
◇
◇
小さく笑う気配。
◇
◇
ユイ「離したくなかった」
◇
◇
レンの歩幅が、
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ほんの少しだけ乱れる。
◇
◇
レン「正直だな」
◇
ユイ「今さらでしょ」
◇
レン「まあな」
◇
◇
少しだけ、
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距離が近づく。
◇
◇
肩が、
◇
かすかに触れる。
◇
◇
ユイ「ねえレン」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「怖くない?」
◇
レン「何が」
◇
ユイ「このままさ」
◇
ユイ「ちゃんと決めないまま進んでいくの」
◇
◇
レン、すぐには答えない。
◇
◇
代わりに、
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繋いだ手に、
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少しだけ力を込める。
◇
◇
レン「怖いよ」
◇
◇
ユイ、少しだけ目を細める。
◇
◇
ユイ「……やっぱり」
◇
レン「でも」
◇
ユイ「うん」
◇
レン「離す方が、もっと怖い」
◇
◇
一瞬、
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時間が止まったみたいに静かになる。
◇
◇
ユイ「……それ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「ずるい」
◇
◇
声が、
◇
少しだけ震えている。
◇
◇
レン「本音だろ」
◇
ユイ「うん」
◇
ユイ「だからずるい」
◇
◇
ユイの指が、
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絡む。
◇
◇
さっきよりも、
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はっきりと。
◇
◇
ユイ「逃げ場なくなる」
◇
レン「最初からないだろ」
◇
ユイ「……確かに」
◇
◇
小さく息を吐く。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「もしさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「途中のまま、ずっと続いたら」
◇
◇
レン「うん」
◇
ユイ「それって、ちゃんとした“何か”になるのかな」
◇
◇
レンは、
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ほんの少しだけ考えて、
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首をかしげる。
◇
◇
レン「なるんじゃないか」
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ユイ「ほんとに?」
◇
レン「名前なくても」
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レン「続いてるなら、それでいいだろ」
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◇
ユイ、少しだけ笑う。
◇
◇
ユイ「それ」
◇
ユイ「レンっぽい」
◇
レン「そうか?」
◇
ユイ「うん」
◇
ユイ「ちゃんとしないくせに」
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ユイ「ちゃんと続けようとする感じ」
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◇
レン、少しだけ苦笑する。
◇
◇
レン「褒めてるのかそれ」
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ユイ「半分くらい」
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◇
また、
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静かな時間が流れる。
◇
◇
街灯が切れて、
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少し暗い道に入る。
◇
◇
その瞬間、
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ユイの手が、
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ほんの少しだけ強くなる。
◇
◇
レン「暗いの苦手か」
◇
ユイ「別に」
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レン「じゃあなんで強くした」
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ユイ「……見えにくいから」
◇
レン「何が」
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ユイ「レンが」
◇
◇
レン、少しだけ息を止める。
◇
◇
ユイ「ちゃんといるって」
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ユイ「分かるように」
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◇
レン、ゆっくりと頷く。
◇
◇
レン「じゃあ」
◇
ユイ「うん」
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レン「こっちも強くしとく」
◇
◇
指と指が、
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さらに深く重なる。
◇
◇
ユイ「……うん」
◇
◇
その声は、
◇
さっきよりも、
◇
ずっと小さくて、
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でも、
◇
確かだった。
◇
◇
夜の道は、
◇
まだ終わらない。
◇
◇
決めなくてもいいまま、
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進んでいく距離。
◇
◇
でも、
◇
もう、
◇
“ただの途中”ではいられないことだけが、
◇
静かに、
◇
確かに、
◇
増えていく。




