まだ名前のない距離 61 触れたまま、確かめない優しさが増えていく帰り道
夜の空気は、
◇
さっきよりも、
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ほんの少しだけ静かになっていた。
◇
◇
指と指は、
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重なったまま、
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ほどけない。
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◇
ユイ「ねえ」
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レン「ん」
◇
ユイ「さっきの“途中”ってさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「どこまで行ったら終わるの?」
◇
◇
レン、少しだけ考える。
◇
◇
レン「終わりとかあるのか?」
◇
ユイ「またそういうこと言う」
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レン「事実だろ」
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ユイ「ずるい」
◇
◇
ユイの指が、
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ほんの少しだけ強くなる。
◇
◇
レン「痛いって」
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ユイ「嘘」
◇
レン「……嘘だけど」
◇
ユイ「ほら」
◇
◇
小さく笑い合う。
◇
◇
でも、
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その笑いの奥に、
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さっきよりも深いものが混ざっている。
◇
◇
ユイ「終わりがないならさ」
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レン「うん」
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ユイ「どこまで行っても途中ってこと?」
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◇
レン、少しだけ歩く速さを落とす。
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◇
レン「たぶんな」
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レン「だから」
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レン「今のままでもいいんじゃないか」
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◇
ユイ「……それって」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「変わらなくてもいいってこと?」
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◇
レン、首を横に振る。
◇
◇
レン「変わってるだろ」
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ユイ「どこが」
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レン「手」
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◇
ユイ、少しだけ息を止める。
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◇
レン「前は、こんなふうに歩いてなかった」
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ユイ「……そうだね」
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少しだけ、
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指先が絡む。
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◇
ユイ「ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「このままさ」
◇
レン「うん」
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ユイ「何も言わないで続いていったら」
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ユイ「どこまで行けると思う?」
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◇
レンはすぐには答えない。
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街灯の光が、
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ふたりの影を長く伸ばす。
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◇
レン「……たぶん」
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ユイ「うん」
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レン「思ってるより遠く」
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ユイ「……そっか」
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◇
その声は、
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少しだけ安心していた。
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ユイ「じゃあさ」
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レン「ん」
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ユイ「途中でもいいから」
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ユイ「離さないで」
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◇
レン、ほんの一瞬だけ足を止める。
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◇
レン「命令か?」
◇
ユイ「お願い」
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レン、少しだけ笑う。
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レン「……どっちでもいいけど」
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レン「たぶん離さない」
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◇
ユイ「たぶんってつけた」
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レン「つけるだろ普通」
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ユイ「つけなくていいのに」
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ユイの声は、
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少しだけ甘い。
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レン「全部決めるのは、まだ早い」
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ユイ「……うん」
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ユイ「でも」
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ユイ「今は、それでいい」
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ふたりの歩幅が、
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ぴったりと揃う。
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◇
ユイ「ねえ」
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レン「ん」
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ユイ「今日さ」
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レン「うん」
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ユイ「帰りたくないって思ってる」
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◇
レンの指が、
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ほんの少しだけ強くなる。
◇
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レン「奇遇だな」
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ユイ「……ほんとに?」
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レン「たぶん」
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ユイ「またたぶん」
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◇
でも、
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その“たぶん”は、
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もうほとんど答えに近い。
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◇
夜の道は、
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まだ続いている。
◇
◇
名前をつけるには、
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少しだけ早すぎて、
◇
でも、
◇
戻るには、
◇
もう遅すぎる。




