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まだ名前のない距離 61 触れたまま、確かめない優しさが増えていく帰り道

夜の空気は、



さっきよりも、



ほんの少しだけ静かになっていた。




指と指は、



重なったまま、



ほどけない。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきの“途中”ってさ」



レン「うん」



ユイ「どこまで行ったら終わるの?」




レン、少しだけ考える。




レン「終わりとかあるのか?」



ユイ「またそういうこと言う」



レン「事実だろ」



ユイ「ずるい」




ユイの指が、



ほんの少しだけ強くなる。




レン「痛いって」



ユイ「嘘」



レン「……嘘だけど」



ユイ「ほら」




小さく笑い合う。




でも、



その笑いの奥に、



さっきよりも深いものが混ざっている。




ユイ「終わりがないならさ」



レン「うん」



ユイ「どこまで行っても途中ってこと?」




レン、少しだけ歩く速さを落とす。




レン「たぶんな」



レン「だから」



レン「今のままでもいいんじゃないか」




ユイ「……それって」



レン「ん」



ユイ「変わらなくてもいいってこと?」




レン、首を横に振る。




レン「変わってるだろ」



ユイ「どこが」



レン「手」




ユイ、少しだけ息を止める。




レン「前は、こんなふうに歩いてなかった」




ユイ「……そうだね」




少しだけ、



指先が絡む。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「このままさ」



レン「うん」



ユイ「何も言わないで続いていったら」



ユイ「どこまで行けると思う?」




レンはすぐには答えない。




街灯の光が、



ふたりの影を長く伸ばす。




レン「……たぶん」



ユイ「うん」



レン「思ってるより遠く」




ユイ「……そっか」




その声は、



少しだけ安心していた。




ユイ「じゃあさ」



レン「ん」



ユイ「途中でもいいから」



ユイ「離さないで」




レン、ほんの一瞬だけ足を止める。




レン「命令か?」



ユイ「お願い」




レン、少しだけ笑う。




レン「……どっちでもいいけど」



レン「たぶん離さない」




ユイ「たぶんってつけた」



レン「つけるだろ普通」



ユイ「つけなくていいのに」




ユイの声は、



少しだけ甘い。




レン「全部決めるのは、まだ早い」



ユイ「……うん」



ユイ「でも」



ユイ「今は、それでいい」




ふたりの歩幅が、



ぴったりと揃う。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「今日さ」



レン「うん」



ユイ「帰りたくないって思ってる」




レンの指が、



ほんの少しだけ強くなる。




レン「奇遇だな」



ユイ「……ほんとに?」



レン「たぶん」



ユイ「またたぶん」




でも、



その“たぶん”は、



もうほとんど答えに近い。




夜の道は、



まだ続いている。




名前をつけるには、



少しだけ早すぎて、



でも、



戻るには、



もう遅すぎる。

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