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まだ名前のない距離 60 触れたまま、言わなくていい本音が増えていく夜の続き

夜の道は、



さっきよりも、



ほんの少しだけ近く感じられた。




街灯の光が、



ゆっくりと背中に落ちる。




レンの影と、



ユイの影が、



ときどき重なる。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「今さ」



レン「うん」



ユイ「たぶん、前より近いよね」



レン「……どうだろうな」



ユイ「はぐらかした」



レン「事実だろ」



ユイ「そういうのじゃなくて」



ユイ「ちゃんと“うん”って言ってほしい」




レン、少しだけ間を置く。




レン「……うん」




ユイ、満足そうに小さく息を吐く。




ユイ「ほら」



レン「何が“ほら”だよ」



ユイ「今のが欲しかった」



レン「めんどくさいな」



ユイ「また言った」



レン「事実だろ」




少しだけ笑いが混ざる。




夜の空気が、



ほんの少しだけ柔らかくなる。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「もしさ」



レン「うん」



ユイ「このまま普通に歩いて帰ったら」



レン「うん」



ユイ「明日、また同じ感じになるのかな」




レン、少しだけ視線を落とす。




レン「同じっていうか」



レン「少しずつ変わるんじゃないか」



ユイ「少しずつ?」



レン「いきなりは変わらない」



レン「こういうのは」




ユイ「……怖いね」



レン「何が」



ユイ「気づいたら戻れなくなってるの」




レンは一瞬だけ足を止める。




ユイも、それに合わせて止まる。




レン「戻る必要あるか?」




ユイ、少しだけ目を見開く。




ユイ「それ、ずるい」



レン「何が」



ユイ「答えになってない」



レン「答えだよ」




沈黙。




でもその沈黙は、



さっきよりも優しい。




ユイ「……じゃあさ」



レン「うん」



ユイ「戻れなくてもいいってこと?」




レン、少しだけ息を吸う。




レン「いいとか悪いとかじゃない」



レン「ただ」



レン「戻るって選択肢を、今はあんまり考えてない」




ユイ、ゆっくりと視線を落とす。




ユイ「……そっか」




そして、小さく笑う。




ユイ「ほんと、ずるい」



レン「まだ言うか」



ユイ「だって」



ユイ「ちゃんと逃げ道残してるように見えて」



ユイ「実はもう、ほとんど残ってない」




レン「勝手に決めるな」



ユイ「でも感じるもん」




また歩き出す。




今度は、



さっきより自然に並んでいる。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「手、さ」



レン「……何」



ユイ「今日、まだちゃんと触れてないよね」




レンの歩幅が、



ほんの少しだけ乱れる。




レン「今さらだろ」



ユイ「今さらとか言わないで」



ユイ「そういうの、今さらじゃなくて今なんだよ」




レン、少しだけ黙る。




ユイは、



その沈黙を急かさない。




ただ横にいるだけ。




やがてレンが、



小さく息を吐く。




レン「……冷たいぞ」



ユイ「うん」




ユイ「でも、たぶんちょうどいい」




そっと、



指先が触れる。




今度は、離れない。




ユイ「……ね」



レン「ん」



ユイ「これも途中?」




レンは少しだけ空を見て、



小さく答える。




レン「ああ」



レン「まだ途中だ」




夜は続く。




名前を持たないまま、



でも確かに、



ふたりの形をしていく。

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