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まだ名前のない距離 59 触れたまま、確かめないことを選ぶ夜の続き

夜の道は、



さっきよりも、



少しだけ静かになっていた。




風は弱く、



街の音だけが遠くに残る。




ふたりの歩幅は、



いつの間にか揃っている。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきの“もう少しだけ”ってさ」



レン「うん」



ユイ「ずるいよね」



レン「どこがだよ」



ユイ「逃げ道ない感じ」



レン「お前が言ったんだろ」



ユイ「そうだけど」



ユイ「……否定してほしかった」



レン「否定したら」



レン「帰ってたか?」



ユイ「……たぶん帰ってない」



レン「じゃあ同じだ」




ユイ、少しだけ笑って、



視線を前に戻す。




ユイ「ほんと、そういうとこ」



レン「なんだよ」



ユイ「ちゃんとわかってるのに、わざと言わない」



レン「言ったら崩れるだろ」



ユイ「なにが」



レン「今の距離」




一瞬、



言葉が止まる。




ユイ「……崩れたら、だめなの?」



レン「だめっていうか」



レン「急ぐと、違う形になる」



ユイ「違う形」



レン「たぶん、今のままじゃなくなる」




ユイ、少しだけ黙る。




ユイ「それってさ」



ユイ「悪いこと?」



レン「わからない」



レン「でも」



レン「今はまだ、これでいいと思ってる」




ユイ、ゆっくり息を吐く。




ユイ「……そっか」




少しだけ間。




ユイ「じゃあさ」



レン「うん」



ユイ「もし崩れるときが来たら」



レン「……うん」



ユイ「ちゃんと、一緒に崩れてね」




レンの足が、



ほんの少しだけ止まりかける。




レン「……物騒な言い方するな」



ユイ「だって」



ユイ「どっちかだけ置いていかれるのは嫌」




レン、短く息を吐く。




レン「わかった」



レン「それは約束する」




ユイ、少しだけ目を細める。




ユイ「……うん」




また歩き出す。




今度は、少しだけ近い距離で。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきからさ」



レン「うん」



ユイ「私ばっかり怖いみたいじゃない?」



レン「別に」



レン「そんなことない」



ユイ「ほんとに?」



レン「お前よりは言わないだけ」



ユイ「それが怪しいんだけど」



レン「言ったらお前、また面倒だろ」



ユイ「……面倒って言うな」



レン「事実だろ」




少しだけ沈黙。




でもその沈黙は、



もう重くない。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「今日さ」



レン「うん」



ユイ「ここまで歩いてきて」



ユイ「よかったのかな」




レン、少しだけ空を見上げる。




レン「よかったかどうかは」



レン「まだ決めなくていいだろ」



ユイ「またそれ」



レン「結果はあとでいい」



レン「今は途中だ」




ユイ、ふっと笑う。




ユイ「途中、か」



レン「そう」




ユイの指先が、



そっとレンの袖に触れる。




すぐ離れない。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「このまま、もうちょっとだけ」



レン「……ああ」




夜はまだ終わらない。




名前のないまま、



ふたりの距離だけが、



静かに形を変えていく。

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