まだ名前のない距離 59 触れたまま、確かめないことを選ぶ夜の続き
夜の道は、
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さっきよりも、
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少しだけ静かになっていた。
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風は弱く、
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街の音だけが遠くに残る。
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ふたりの歩幅は、
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いつの間にか揃っている。
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ユイ「ねえ」
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レン「ん」
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ユイ「さっきの“もう少しだけ”ってさ」
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レン「うん」
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ユイ「ずるいよね」
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レン「どこがだよ」
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ユイ「逃げ道ない感じ」
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レン「お前が言ったんだろ」
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ユイ「そうだけど」
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ユイ「……否定してほしかった」
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レン「否定したら」
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レン「帰ってたか?」
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ユイ「……たぶん帰ってない」
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レン「じゃあ同じだ」
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◇
ユイ、少しだけ笑って、
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視線を前に戻す。
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ユイ「ほんと、そういうとこ」
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レン「なんだよ」
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ユイ「ちゃんとわかってるのに、わざと言わない」
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レン「言ったら崩れるだろ」
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ユイ「なにが」
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レン「今の距離」
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◇
一瞬、
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言葉が止まる。
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◇
ユイ「……崩れたら、だめなの?」
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レン「だめっていうか」
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レン「急ぐと、違う形になる」
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ユイ「違う形」
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レン「たぶん、今のままじゃなくなる」
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ユイ、少しだけ黙る。
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◇
ユイ「それってさ」
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ユイ「悪いこと?」
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レン「わからない」
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レン「でも」
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レン「今はまだ、これでいいと思ってる」
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ユイ、ゆっくり息を吐く。
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ユイ「……そっか」
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少しだけ間。
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ユイ「じゃあさ」
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レン「うん」
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ユイ「もし崩れるときが来たら」
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レン「……うん」
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ユイ「ちゃんと、一緒に崩れてね」
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レンの足が、
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ほんの少しだけ止まりかける。
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レン「……物騒な言い方するな」
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ユイ「だって」
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ユイ「どっちかだけ置いていかれるのは嫌」
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レン、短く息を吐く。
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レン「わかった」
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レン「それは約束する」
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ユイ、少しだけ目を細める。
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ユイ「……うん」
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また歩き出す。
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今度は、少しだけ近い距離で。
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ユイ「ねえ」
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レン「ん」
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ユイ「さっきからさ」
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レン「うん」
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ユイ「私ばっかり怖いみたいじゃない?」
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レン「別に」
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レン「そんなことない」
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ユイ「ほんとに?」
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レン「お前よりは言わないだけ」
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ユイ「それが怪しいんだけど」
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レン「言ったらお前、また面倒だろ」
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ユイ「……面倒って言うな」
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レン「事実だろ」
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少しだけ沈黙。
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でもその沈黙は、
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もう重くない。
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ユイ「……ねえ」
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レン「ん」
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ユイ「今日さ」
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レン「うん」
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ユイ「ここまで歩いてきて」
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ユイ「よかったのかな」
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レン、少しだけ空を見上げる。
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レン「よかったかどうかは」
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レン「まだ決めなくていいだろ」
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ユイ「またそれ」
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レン「結果はあとでいい」
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レン「今は途中だ」
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ユイ、ふっと笑う。
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ユイ「途中、か」
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レン「そう」
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ユイの指先が、
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そっとレンの袖に触れる。
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すぐ離れない。
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ユイ「……ねえ」
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レン「ん」
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ユイ「このまま、もうちょっとだけ」
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レン「……ああ」
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◇
夜はまだ終わらない。
◇
◇
名前のないまま、
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ふたりの距離だけが、
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静かに形を変えていく。




