表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
70/85

まだ名前のない距離 58 こぼれそうな言葉を、あえて拾わないままの夜

夜の空気は、



さっきよりも、



少しだけ深くなっていた。




街灯が、



ふたりをやわらかく照らす。




ユイの肩は、



もう完全にレンに預けられている。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「静かだね」



レン「そうだな」



ユイ「さっきまで、あんなに話してたのに」



レン「話しすぎたんだろ」



ユイ「それもあるけど」



ユイ「……今は別に、話さなくてもいい感じ」



レン「……わかる」




言葉がなくても、



離れない距離。




ユイの指が、



また少しだけ動く。




絡めたまま、



確かめるみたいに。




ユイ「……ねえ」



レン「うん」



ユイ「これさ」



レン「うん」



ユイ「いつもみたいに戻ると思う?」




レン、少しだけ考える。




レン「戻らないだろ」



ユイ「……即答」



レン「戻れるなら」



レン「たぶん、もう戻ってる」



ユイ「……そっか」




ユイ、少しだけ笑う。




ユイ「じゃあさ」



レン「うん」



ユイ「変わったってことだよね」



レン「……ああ」



ユイ「私たち」



レン「そうだな」




ほんの少しだけ、



言葉が重くなる。




ユイ「……怖くない?」



レン「何が」



ユイ「こういうの」



レン「……」



ユイ「戻れないのって」




レン、少しだけ視線を落とす。




レン「怖くないって言ったら嘘になる」



ユイ「……やっぱり」



レン「でも」



ユイ「うん」



レン「嫌じゃない」




ユイ、少しだけ息を止める。




ユイ「……それ」



レン「うん」



ユイ「ずるい答え」



レン「なんでだよ」



ユイ「だって」



ユイ「同じこと思ってたから」




少しだけ、



ふたりで笑う。




でも、



そのあとすぐに、



また静かになる。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「一個だけ、いい?」



レン「いいよ」



ユイ「その」



ユイ「“名前ないまま”のやつ」



レン「うん」



ユイ「ルール、決めない?」



レン「……ルール?」



ユイ「うん」



ユイ「曖昧なままでもいいけど」



ユイ「ひとつくらい、あってもいいかなって」




レン、少しだけ考える。




レン「例えば?」



ユイ「……例えば」




ユイ、少しだけ迷って、



でもそのまま続ける。




ユイ「どっちかが、嫌になったら」



ユイ「ちゃんと言う」




空気が、



ほんの少しだけ張る。




レン「……」



ユイ「ごまかさないで」



ユイ「ちゃんと」




レン、ゆっくりうなずく。




レン「ああ」



レン「それは、必要だな」



ユイ「……うん」




少しだけ安心したみたいに、



ユイの力が抜ける。




レン「じゃあ、もう一個いいか」



ユイ「なに」



レン「今みたいに」



ユイ「うん」



レン「触れてるときは」



レン「無理しない」



ユイ「……無理?」



レン「嫌なら、ちゃんと離す」



レン「我慢しない」




ユイ、少しだけ目を瞬かせる。




ユイ「……それも」



ユイ「いいね」



レン「だろ」




ユイの指が、



少しだけ緩んで、



でもすぐにまた戻る。




ユイ「……今は、大丈夫」



レン「……そっか」




その言葉は、



確認であり、



許可でもある。




ユイ「ねえ」



レン「ん」



ユイ「なんかさ」



レン「うん」



ユイ「名前つけない方が」



ユイ「大事にできる気がする」



レン「……」



ユイ「決めちゃうと」



ユイ「安心しすぎるかも」



レン「ありえるな」




レン、少しだけ笑う。




レン「じゃあしばらくは」



レン「このままでいくか」



ユイ「うん」



ユイ「“このまま”」




言葉にすると、



少しだけくすぐったい。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「今日さ」



レン「うん」



ユイ「帰りたくないって言ったら」




ほんの少し、



間。




レン「……どうする」



ユイ「また質問で返した」



レン「さっきも言っただろ」



レン「答えは一緒だ」




ユイ、少しだけ笑って、



目を閉じる。




ユイ「……じゃあ」



レン「うん」



ユイ「もう少しだけ」



レン「……ああ」




時間が、



ゆっくり伸びていく。




名前はまだない。




けれど、



離れる理由も、



もうどこにもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ