まだ名前のない距離 56 言葉にしないまま、確かめてしまう温度の理由
夕方の光は、
◇
さっきよりも、
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少しだけ色を濃くしていた。
◇
◇
歩く速度は、
◇
自然と同じになる。
◇
◇
手は、
◇
もう迷わず繋がっている。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「これさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「いつからこうなったんだろ」
◇
レン「……どれ」
◇
ユイ「この感じ」
◇
レン「ざっくりしてるな」
◇
ユイ「伝わるでしょ」
◇
レン「……まあ、なんとなく」
◇
◇
少し考える。
◇
◇
レン「屋上じゃないか」
◇
ユイ「やっぱり?」
◇
レン「たぶんあそこだな」
◇
ユイ「……そっか」
◇
◇
ユイの指が、
◇
ほんの少しだけ強くなる。
◇
◇
ユイ「じゃあさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「戻ったら戻る?」
◇
レン「……戻らないだろ」
◇
ユイ「だよね」
◇
◇
少し笑う。
◇
◇
ユイ「なんかさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「怖くはないんだけど」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「ちょっとだけ、変な感じ」
◇
レン「変って?」
◇
ユイ「前と同じじゃないのに」
◇
ユイ「ちゃんと嫌じゃないっていうか」
◇
レン「……ああ」
◇
◇
レン、少しだけ視線を落とす。
◇
◇
レン「それ、たぶん」
◇
ユイ「うん」
◇
レン「変わったってことだろ」
◇
ユイ「……やっぱり?」
◇
レン「いい意味でな」
◇
ユイ「いい意味限定なんだ」
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レン「悪い意味でこうはならない」
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ユイ「……そっか」
◇
◇
少しだけ、沈黙。
◇
◇
でも、
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さっきまでの沈黙とは違う。
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◇
ユイ「……ねえ、レン」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「もしさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「これ、名前つけるとしたら」
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レン「……急だな」
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ユイ「気になるじゃん」
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レン「……」
◇
◇
レン、少しだけ困る。
◇
◇
レン「まだいいんじゃないか」
◇
ユイ「なんで」
◇
レン「今つけたら」
◇
レン「たぶん、それに引っ張られる」
◇
ユイ「……ああ」
◇
レン「今のままのほうが」
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レン「自由に変われるだろ」
◇
◇
ユイ、少しだけ目を細める。
◇
◇
ユイ「……それ、ずるい」
◇
レン「なんでだよ」
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ユイ「ちゃんとしたこと言ってるのに」
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ユイ「逃げてる感じもする」
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レン「……否定はしない」
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ユイ「するんだ」
◇
レン「でも」
◇
ユイ「うん」
◇
レン「今、離す気はない」
◇
◇
ほんの一瞬、
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空気が止まる。
◇
◇
ユイ「……うん」
◇
◇
ユイの手が、
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少しだけ握り返す。
◇
◇
ユイ「じゃあそれでいいや」
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レン「いいのか」
◇
ユイ「うん」
◇
ユイ「名前ないほうがさ」
◇
ユイ「特別っぽいし」
◇
レン「発想が逆だな」
◇
ユイ「いいの」
◇
◇
笑う。
◇
◇
道は、
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少しだけ開ける。
◇
◇
小さな公園が見える。
◇
◇
ユイ「……あ」
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レン「ん?」
◇
ユイ「寄る?」
◇
レン「さっき言ってたやつか」
◇
ユイ「そう」
◇
レン「いいな」
◇
◇
足を止める。
◇
◇
でも、
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手は離れない。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「ここでさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「少しだけ、座ろ」
◇
レン「了解」
◇
◇
ベンチに座る。
◇
◇
距離は、
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歩いていたときより、
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少しだけ近い。
◇
◇
ユイ「……なんかさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「さっきまでより」
◇
ユイ「落ち着くね」
◇
レン「……それはある」
◇
ユイ「なんでだろ」
◇
レン「動いてないからじゃないか」
◇
ユイ「そんな単純?」
◇
レン「単純なこと多いだろ」
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ユイ「……まあね」
◇
◇
少しだけ、
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肩が触れる。
◇
◇
どちらも、
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離さない。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「さっきの続き」
◇
レン「どれ」
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ユイ「名前の話」
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レン「まだやるのか」
◇
ユイ「やる」
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レン「……はい」
◇
ユイ「もしさ」
◇
レン「うん」
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ユイ「誰かに聞かれたらどうする?」
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レン「……何を」
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ユイ「“ふたりどういう関係?”って」
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◇
レン、少しだけ黙る。
◇
◇
レン「……そのとき考える」
◇
ユイ「またそれ」
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レン「今決める必要ないだろ」
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ユイ「……まあね」
◇
◇
ユイ、少しだけ笑う。
◇
◇
ユイ「でもさ」
◇
レン「うん」
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ユイ「そのとき、ちゃんと答えてね」
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レン「……逃げると思ってる?」
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ユイ「ちょっとだけ」
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レン「ひどいな」
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ユイ「だってさっき認めてたじゃん」
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レン「……それはそう」
◇
◇
ふたり、笑う。
◇
◇
その笑いは、
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もう朝とは全然違う。
◇
◇
ユイ「……ね」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「まだ時間あるよね」
◇
レン「あるな」
◇
ユイ「じゃあさ」
◇
レン「うん」
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ユイ「もう少しだけ、このままいよ」
◇
レン「……いいな」
◇
◇
沈みかけた光が、
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ふたりを包む。
◇
◇
名前はまだない。
◇
◇
でも、
◇
たしかにここにあるものは、
◇
もう、
◇
ただの“距離”じゃない。




