表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/85

まだ名前のない距離 55 ほどけたあとで、もう一度触れたくなる放課後

放課後の光は、



昼よりも、



少しだけやわらかかった。




チャイムの余韻が、



教室の奥に残っている。




ユイ「……終わった」



レン「終わったな」



ユイ「今日の授業、何やったっけ」



レン「覚えてないのかよ」



ユイ「半分くらい」



レン「半分は覚えてんだな」



ユイ「もう半分はさ」



レン「うん」



ユイ「別のことで埋まってた」



レン「……だろうな」




視線が、



一瞬だけ重なる。




すぐに逸らす。



でも、



完全には逸れきらない。




ユイ「……行こっか」



レン「おう」




立ち上がるタイミングが、



ほぼ同時。




ユイ「合わせた?」



レン「偶然」



ユイ「ほんとに?」



レン「たぶん」



ユイ「曖昧」



レン「そっちもだろ」



ユイ「……否定できない」




笑う。




でも、



朝よりも、



少しだけ近い笑い方。




教室を出る。




人の流れに混ざる。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「遠回りするんだよね」



レン「そのつもり」



ユイ「どっち行く?」



レン「任せる」



ユイ「丸投げきた」



レン「今日言い出したのそっちだし」



ユイ「責任重大だ」



レン「期待してる」



ユイ「プレッシャーかけるな」




昇降口。




靴を履き替える。




ユイ「……」



レン「……」




さっき、



ほどけた指先を、



お互い、



少しだけ意識している。




ユイ「……さ」



レン「うん」



ユイ「外出たらさ」



レン「うん」



ユイ「どうする?」



レン「どうするって」



ユイ「……その」



レン「……ああ」




少しの沈黙。




レン「人多いとこはやめとくか」



ユイ「……だね」



レン「裏の道行く?」



ユイ「それがいい」




扉を押す。




外の空気。



少しだけ、



夕方の匂い。




歩き出す。




最初は、



ほんの少しだけ距離がある。




ユイ「……なんかさ」



レン「うん」



ユイ「逆に変に意識するね」



レン「わかる」



ユイ「さっきまで普通に繋いでたのに」



レン「場所変わるとこうなる」



ユイ「環境って怖い」



レン「屋上強すぎたな」



ユイ「ほんとそれ」




少し歩く。




人通りが減る。




ユイ「……今なら」



レン「……ああ」




タイミングが、



また、



ぴったり重なる。




ユイの指が、



少しだけ動く。




レンの手の甲に、



触れるか触れないか。




ユイ「……いい?」



レン「聞くのかよ」



ユイ「一応」



レン「……いいに決まってる」



ユイ「……そっか」




今度は、



ゆっくり、



確かめるみたいに、



指が重なる。




さっきより、



少しだけ自然で、



少しだけ意識的。




レン「……戻ってきたな」



ユイ「うん」



ユイ「でもさっきと違う」



レン「どこが」



ユイ「今のほうが」



ユイ「ちゃんと選んでる感じする」



レン「……それはある」




握る。




今度は、



最初から、



ほどけない前提みたいに。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「遠く行くってさ」



レン「うん」



ユイ「どこまで行けると思う?」



レン「時間的に?」



ユイ「それもあるけど」



レン「……気分的に?」



ユイ「そう」




少しだけ考える。




レン「帰らなきゃいけないとこまでは」



ユイ「……なにそれ」



レン「限界あるってこと」



ユイ「夢ない」



レン「現実的」



ユイ「でも」



レン「うん」



ユイ「その“限界まで”ってさ」



ユイ「結構遠いよね」



レン「……まあな」




足並みが揃う。




ユイ「じゃあさ」



レン「うん」



ユイ「今日は、そのギリギリまで行こ」



レン「……了解」




少しだけ、



握る力が強くなる。




ユイ「あとさ」



レン「まだあるのか」



ユイ「ある」



レン「どうぞ」



ユイ「途中でさ」



レン「うん」



ユイ「どっか寄ろ」



レン「どこに」



ユイ「決めてない」



レン「また丸投げ」



ユイ「一緒に決めるのがいいの」



レン「……それはわかる」




笑う。




そのまま、



歩き続ける。




夕方の光が、



ふたりの影を、



少しだけ長くする。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきより」



レン「うん」



ユイ「ちゃんと繋いでるね」



レン「最初からそうだろ」



ユイ「違うよ」



レン「どこが」



ユイ「さっきは」



ユイ「ほどけないように、だった」



レン「……今は?」



ユイ「……離したくない、かな」




ほんの一瞬、



沈黙。




レン「……同じだな」



ユイ「……うん」




夕方は、



まだ終わらない。




ふたりの距離も、



まだ、



名前を持たないまま、



少しずつ形を変えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ