まだ名前のない距離 54 触れたまま、ほどけなくなる昼の終わり
屋上の風は、
◇
さっきよりも、
◇
少しだけやわらいでいた。
◇
◇
繋がったままの指先。
◇
離す理由は、
◇
もうどこにもない。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
レン「ん」
◇
ユイ「これさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「いつ離すの?」
◇
レン「……考えてなかった」
◇
ユイ「でしょ」
◇
レン「お前は?」
◇
ユイ「考えてると思う?」
◇
レン「思わない」
◇
ユイ「正解」
◇
◇
小さく、
◇
肩が触れる。
◇
◇
ユイ「……なんかさ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「さっきまでより」
◇
ユイ「普通じゃなくなってきたね」
◇
レン「今さらか」
◇
ユイ「今さら」
◇
◇
でも、
◇
その“今さら”が、
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少しだけ嬉しい。
◇
◇
レン「昼終わるぞ」
◇
ユイ「……うん」
◇
レン「戻るか」
◇
ユイ「……まだいい」
◇
レン「チャイム鳴る」
◇
ユイ「鳴ってからでいい」
◇
レン「雑だな」
◇
ユイ「いいの」
◇
◇
ユイは、
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少しだけ力を込める。
◇
◇
絡めた指が、
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ほどけないように。
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◇
ユイ「……あとちょっと」
◇
レン「……ああ」
◇
◇
沈黙。
◇
◇
でも、
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それは気まずさじゃない。
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◇
ただ、
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このままを伸ばしたいだけ。
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◇
チャイムが鳴る。
◇
◇
現実が、
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静かに戻ってくる。
◇
◇
ユイ「……鳴ったね」
◇
レン「鳴ったな」
◇
ユイ「どうする?」
◇
レン「……どうするもなにも」
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◇
レンは、
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ほんの少しだけ、
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指を動かす。
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◇
それでも、
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離さない。
◇
◇
レン「このまま戻るか」
◇
ユイ「……バレるよ?」
◇
レン「ギリいける」
◇
ユイ「どこが」
◇
レン「ポケット入れとけば」
◇
ユイ「……天才?」
◇
レン「だろ」
◇
◇
ふたりは、
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繋いだ手を、
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少しだけ隠す。
◇
◇
ドアを開ける。
◇
◇
廊下の空気は、
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やけに現実的で、
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少しだけ冷たい。
◇
◇
ユイ「……なんか戻ってきた感じする」
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レン「そりゃ学校だしな」
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ユイ「さっきまで別世界だったのに」
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レン「屋上補正強すぎ」
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ユイ「否定できない」
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教室に近づく。
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◇
足音が、
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少しだけ揃う。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
レン「ん」
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ユイ「放課後さ」
◇
レン「うん」
◇
ユイ「ほんとに歩くだけでいいの?」
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レン「それがいいんだろ」
◇
ユイ「……うん」
◇
ユイ「でも」
◇
レン「でも?」
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ユイ「今日だけは」
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ユイ「ちょっとだけ、遠く行きたい」
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◇
レンは、
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少しだけ考えて、
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小さく頷く。
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◇
レン「じゃあ遠回りするか」
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ユイ「……いいね、それ」
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◇
教室のドアの前。
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◇
繋いだ手が、
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一瞬だけ止まる。
◇
◇
ユイ「……ここで一回、戻る?」
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レン「……そうだな」
◇
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ゆっくり、
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指がほどける。
◇
◇
でも、
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完全には離れない。
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◇
ほんの一瞬、
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名残みたいに触れて、
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それから、
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それぞれの位置に戻る。
◇
◇
ユイ「……じゃあまたあとで」
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レン「……ああ」
◇
◇
ドアが開く。
◇
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ざわめき。
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日常。
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さっきまでの距離は、
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もう見えない。
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◇
でも、
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確かに残っている。
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◇
席に座る。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
レン「ん」
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ユイ「さっきのやつ」
◇
レン「うん」
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ユイ「ちゃんと覚えててね」
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レン「忘れるわけないだろ」
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ユイ「……そっか」
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小さく笑う。
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◇
その笑い方が、
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少しだけ変わっている。
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◇
授業が始まる。
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声が流れる。
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◇
でも、
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もうさっきとは違う。
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◇
次に触れる理由を、
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ふたりとも、
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もう知っている。
◇
◇
放課後は、
◇
すぐそこまで来ていた。




