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まだ名前のない距離 54 触れたまま、ほどけなくなる昼の終わり

屋上の風は、



さっきよりも、



少しだけやわらいでいた。




繋がったままの指先。



離す理由は、



もうどこにもない。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「これさ」



レン「うん」



ユイ「いつ離すの?」



レン「……考えてなかった」



ユイ「でしょ」



レン「お前は?」



ユイ「考えてると思う?」



レン「思わない」



ユイ「正解」




小さく、



肩が触れる。




ユイ「……なんかさ」



レン「うん」



ユイ「さっきまでより」



ユイ「普通じゃなくなってきたね」



レン「今さらか」



ユイ「今さら」




でも、



その“今さら”が、



少しだけ嬉しい。




レン「昼終わるぞ」



ユイ「……うん」



レン「戻るか」



ユイ「……まだいい」



レン「チャイム鳴る」



ユイ「鳴ってからでいい」



レン「雑だな」



ユイ「いいの」




ユイは、



少しだけ力を込める。




絡めた指が、



ほどけないように。




ユイ「……あとちょっと」



レン「……ああ」




沈黙。




でも、



それは気まずさじゃない。




ただ、



このままを伸ばしたいだけ。




チャイムが鳴る。




現実が、



静かに戻ってくる。




ユイ「……鳴ったね」



レン「鳴ったな」



ユイ「どうする?」



レン「……どうするもなにも」




レンは、



ほんの少しだけ、



指を動かす。




それでも、



離さない。




レン「このまま戻るか」



ユイ「……バレるよ?」



レン「ギリいける」



ユイ「どこが」



レン「ポケット入れとけば」



ユイ「……天才?」



レン「だろ」




ふたりは、



繋いだ手を、



少しだけ隠す。




ドアを開ける。




廊下の空気は、



やけに現実的で、



少しだけ冷たい。




ユイ「……なんか戻ってきた感じする」



レン「そりゃ学校だしな」



ユイ「さっきまで別世界だったのに」



レン「屋上補正強すぎ」



ユイ「否定できない」




教室に近づく。




足音が、



少しだけ揃う。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「放課後さ」



レン「うん」



ユイ「ほんとに歩くだけでいいの?」



レン「それがいいんだろ」



ユイ「……うん」



ユイ「でも」



レン「でも?」



ユイ「今日だけは」



ユイ「ちょっとだけ、遠く行きたい」




レンは、



少しだけ考えて、



小さく頷く。




レン「じゃあ遠回りするか」



ユイ「……いいね、それ」




教室のドアの前。




繋いだ手が、



一瞬だけ止まる。




ユイ「……ここで一回、戻る?」



レン「……そうだな」




ゆっくり、



指がほどける。




でも、



完全には離れない。




ほんの一瞬、



名残みたいに触れて、



それから、



それぞれの位置に戻る。




ユイ「……じゃあまたあとで」



レン「……ああ」




ドアが開く。




ざわめき。



日常。




さっきまでの距離は、



もう見えない。




でも、



確かに残っている。




席に座る。




ユイ「……ねえ」



レン「ん」



ユイ「さっきのやつ」



レン「うん」



ユイ「ちゃんと覚えててね」



レン「忘れるわけないだろ」



ユイ「……そっか」




小さく笑う。




その笑い方が、



少しだけ変わっている。




授業が始まる。




声が流れる。




でも、



もうさっきとは違う。




次に触れる理由を、



ふたりとも、



もう知っている。




放課後は、



すぐそこまで来ていた。

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