まだ名前のない距離 49 触れたあとで、戻れなくなる温度
夜の空気は、
◇
さっきよりも、
◇
少しだけ軽くなっていた。
◇
◇
けれど、
◇
ふたりの間には、
◇
確かに“重さ”が残っている。
◇
◇
触れたことの、
◇
意味。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「さっきの」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「なかったことには、しないよね」
◇
◇
レンは、
◇
一瞬だけ驚いた顔をして、
◇
それから小さく笑う。
◇
◇
レン「するわけないだろ」
◇
◇
ユイ「だよね」
◇
◇
ユイは、
◇
少しだけ安心したように、
◇
肩の力を抜く。
◇
◇
ユイ「なんかさ」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「一回触れると、戻れないね」
◇
◇
レン「……ああ」
◇
◇
レン「思ってたより」
◇
◇
レン「ずっと、重い」
◇
◇
ユイ「うん」
◇
◇
ユイ「軽くないよね」
◇
◇
レン「軽くしたくないしな」
◇
◇
ユイは、
◇
その言葉に、
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ほんの少しだけ目を細める。
◇
◇
ユイ「……ちゃんとしてる」
◇
◇
レン「当たり前」
◇
◇
◇
沈黙。
◇
◇
でも、
◇
さっきまでの沈黙とは違う。
◇
◇
“もう知っている沈黙”。
◇
◇
ユイ「ねえ、レン」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「さっきさ」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「頬、だったじゃん」
◇
◇
レン「……そうだな」
◇
◇
ユイ「次ってさ」
◇
◇
レン「……ユイ」
◇
◇
ユイ「なに」
◇
◇
レン「急がないんじゃなかったのか」
◇
◇
ユイは、
◇
くすっと笑う。
◇
◇
ユイ「急いでないよ」
◇
◇
ユイ「確認してるだけ」
◇
◇
レン「……何を」
◇
◇
ユイ「レンが、ちゃんと同じかどうか」
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◇
レンは、
◇
その言葉に、
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少しだけ息を止める。
◇
◇
レン「……同じだよ」
◇
◇
ユイ「ほんと?」
◇
◇
レン「嘘つく理由ないだろ」
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◇
ユイ「そっか」
◇
◇
◇
ユイは、
◇
繋いでいる手に、
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ほんの少しだけ力を込める。
◇
◇
逃がさないように、
◇
でも、
◇
縛らないように。
◇
◇
ユイ「じゃあさ」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「次も、“ちゃんと”でいい?」
◇
◇
レンは、
◇
少しだけ笑って、
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ゆっくり頷く。
◇
◇
レン「もちろん」
◇
◇
レン「そのためにいる」
◇
◇
ユイ「……なにそれ」
◇
◇
ユイ「ずるい」
◇
◇
レン「正直なだけ」
◇
◇
◇
距離は、
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また少し、
◇
近づく。
◇
◇
今度は、
◇
迷いが少ない。
◇
◇
でも、
◇
雑でもない。
◇
◇
ユイ「ねえ」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「さっきより、近いよ」
◇
◇
レン「わかってる」
◇
◇
ユイ「怖くない?」
◇
◇
レン「少しだけ」
◇
◇
ユイ「同じ」
◇
◇
◇
その“同じ”が、
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最後の距離を、
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ゆっくりと溶かしていく。
◇
◇
レンは、
◇
もう一度、
◇
ユイの頬に触れる。
◇
◇
今度は、
◇
さっきよりも、
◇
少しだけ長く。
◇
◇
ユイは、
◇
目を閉じる。
◇
◇
逃げない。
◇
◇
レンも、
◇
目を逸らさない。
◇
◇
触れたまま、
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ほんの少しだけ、
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角度が変わる。
◇
◇
“次”に、
◇
届く角度。
◇
◇
でも、
◇
まだ、
◇
越えない。
◇
◇
レンは、
◇
そこで止める。
◇
◇
ゆっくりと離れる。
◇
◇
ユイ「……今の」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「止めたね」
◇
◇
レン「止めた」
◇
◇
ユイ「どうして?」
◇
◇
レン「ちゃんと、だから」
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◇
ユイは、
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一瞬だけ驚いて、
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それから、
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少しだけ笑う。
◇
◇
ユイ「……そっか」
◇
◇
ユイ「それ、好き」
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◇
レン「そうか」
◇
◇
◇
夜は、
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変わらず静かで、
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すべてを見ている。
◇
◇
でも、
◇
急かさない。
◇
◇
ユイ「ねえ、レン」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「次はさ」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「止めないでいいタイミング、教えて」
◇
◇
レンは、
◇
少しだけ考えて、
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それから答える。
◇
◇
レン「……多分」
◇
◇
レン「お互いが、同時に踏み出した時」
◇
◇
ユイ「……難しい」
◇
◇
レン「でも」
◇
◇
レン「今、近いと思う」
◇
◇
ユイは、
◇
その言葉に、
◇
小さく息を飲む。
◇
◇
ユイ「……うん」
◇
◇
◇
繋いだ手は、
◇
まだ離れない。
◇
◇
触れた頬の温度も、
◇
消えない。
◇
◇
でも、
◇
次に触れる場所は、
◇
まだ守られている。
◇
◇
“越えない優しさ”と、
◇
“越えたい気持ち”が、
◇
同じだけ、
◇
そこにある。




