まだ名前のない距離 48 触れる前に、確かめてしまう温度
夜の沈黙は、
◇
さっきよりも、
◇
少しだけ深くなっていた。
◇
◇
止まったままの距離。
◇
けれど、
◇
止まっていない感覚。
◇
◇
繋いだ手だけが、
◇
確かに、
◇
“進み続けている”。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「順番ってさ」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「どこからが“次”なの?」
◇
◇
レンは、
◇
少しだけ考える。
◇
◇
レン「……人による」
◇
◇
ユイ「ずるい答え」
◇
◇
レン「正直な答え」
◇
◇
ユイ「レンは?」
◇
◇
レン「俺は……」
◇
◇
レンは、
◇
一度だけ視線を外して、
◇
それから、
◇
またユイを見る。
◇
◇
レン「ちゃんと理由が欲しい」
◇
◇
ユイ「理由?」
◇
◇
レン「なんとなく、じゃなくて」
◇
◇
レン「“したいからする”っていうやつ」
◇
◇
ユイは、
◇
少しだけ目を細める。
◇
◇
ユイ「……それってさ」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「もうほぼ答え出てない?」
◇
◇
レンは、
◇
一瞬だけ言葉に詰まる。
◇
◇
レン「……そうかもな」
◇
◇
ユイ「でしょ」
◇
◇
ユイ「だって今、」
◇
◇
ユイ「手、離したくないでしょ」
◇
◇
レン「……うん」
◇
◇
ユイ「それと同じだよ」
◇
◇
レンは、
◇
その言葉を、
◇
静かに受け止める。
◇
◇
レン「……簡単に言うな」
◇
◇
ユイ「簡単じゃないよ」
◇
◇
ユイ「めちゃくちゃ考えた上で言ってる」
◇
◇
レン「……そっか」
◇
◇
◇
また少し、
◇
沈黙。
◇
◇
けれど今度は、
◇
“迷い”じゃない。
◇
◇
“確認している沈黙”。
◇
◇
ユイ「ねえ、レン」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「顔、見て」
◇
◇
レンは、
◇
少しだけ息を整えてから、
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ゆっくりと視線を上げる。
◇
◇
距離は、
◇
さっきと同じはずなのに、
◇
まるで違って感じる。
◇
◇
レン「……近いな」
◇
◇
ユイ「うん」
◇
◇
ユイ「さっきより、ね」
◇
◇
レン「手しか変わってないのに」
◇
◇
ユイ「そういうもんでしょ」
◇
◇
◇
ユイは、
◇
ほんの少しだけ、
◇
一歩、近づく。
◇
◇
繋いだ手が、
◇
わずかに揺れる。
◇
◇
レンの呼吸が、
◇
少しだけ浅くなる。
◇
◇
レン「……ユイ」
◇
◇
ユイ「なに」
◇
◇
レン「今の、理由になる?」
◇
◇
ユイは、
◇
少しだけ考えて、
◇
それから、
◇
小さく頷く。
◇
◇
ユイ「なるよ」
◇
◇
レン「……そっか」
◇
◇
ユイ「レンは?」
◇
◇
レンは、
◇
ほんの一瞬、
◇
目を閉じる。
◇
◇
そして、
◇
ゆっくり開く。
◇
◇
レン「もう十分」
◇
◇
ユイ「……うん」
◇
◇
◇
距離は、
◇
あとほんの少し。
◇
◇
でも、
◇
その“少し”が、
◇
一番大きい。
◇
◇
レンは、
◇
繋いでいない方の手を、
◇
ゆっくりと持ち上げる。
◇
◇
触れるか、
◇
触れないか、
◇
その直前で止まる。
◇
◇
ユイは、
◇
逃げない。
◇
◇
目も、
◇
逸らさない。
◇
◇
ユイ「……ちゃんと、だよね」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
レン「雑にはしない」
◇
◇
ユイ「なら」
◇
◇
ユイ「大丈夫」
◇
◇
◇
その一言で、
◇
最後の迷いが消える。
◇
◇
触れる。
◇
◇
頬に、
◇
ほんの少しだけ。
◇
◇
キスではない。
◇
でも、
◇
“その前”ではもうない。
◇
◇
レンは、
◇
すぐには離れない。
◇
◇
ユイも、
◇
動かない。
◇
◇
時間が、
◇
少しだけ伸びる。
◇
◇
そして、
◇
ゆっくりと離れる。
◇
◇
ユイ「……ねえ」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「これ、順番合ってる?」
◇
◇
レンは、
◇
少しだけ笑う。
◇
◇
レン「多分」
◇
◇
ユイ「曖昧」
◇
◇
レン「でも」
◇
◇
レン「間違ってない」
◇
◇
ユイは、
◇
その言葉に、
◇
少しだけ安心したように、
◇
息を吐く。
◇
◇
ユイ「……そっか」
◇
◇
◇
繋いだ手は、
◇
まだそのまま。
◇
◇
でも、
◇
さっきとは違う。
◇
◇
“その先を知った手”。
◇
◇
ユイ「ねえ、レン」
◇
◇
レン「ん」
◇
◇
ユイ「次、どうする?」
◇
◇
レンは、
◇
少しだけ間を置いて、
◇
静かに答える。
◇
◇
レン「急がない」
◇
◇
ユイ「うん」
◇
◇
レン「でも、止まらない」
◇
◇
ユイは、
◇
ゆっくりと頷く。
◇
◇
ユイ「……いいね、それ」
◇
◇
◇
夜は、
◇
変わらず静かで、
◇
何も急かさない。
◇
◇
けれど、
◇
ふたりの中では、
◇
確実に、
◇
戻れない場所まで来ていた。
◇
◇
触れた頬の温度が、
◇
まだ、
◇
消えないまま。
◇
◇
次に触れる場所を、
◇
お互いに、
◇
もう知ってしまっている。




