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まだ名前のない距離 48 触れる前に、確かめてしまう温度

夜の沈黙は、



さっきよりも、



少しだけ深くなっていた。




止まったままの距離。



けれど、



止まっていない感覚。




繋いだ手だけが、



確かに、



“進み続けている”。




ユイ「……ねえ」




レン「ん」




ユイ「順番ってさ」




レン「うん」




ユイ「どこからが“次”なの?」




レンは、



少しだけ考える。




レン「……人による」




ユイ「ずるい答え」




レン「正直な答え」




ユイ「レンは?」




レン「俺は……」




レンは、



一度だけ視線を外して、



それから、



またユイを見る。




レン「ちゃんと理由が欲しい」




ユイ「理由?」




レン「なんとなく、じゃなくて」




レン「“したいからする”っていうやつ」




ユイは、



少しだけ目を細める。




ユイ「……それってさ」




レン「うん」




ユイ「もうほぼ答え出てない?」




レンは、



一瞬だけ言葉に詰まる。




レン「……そうかもな」




ユイ「でしょ」




ユイ「だって今、」




ユイ「手、離したくないでしょ」




レン「……うん」




ユイ「それと同じだよ」




レンは、



その言葉を、



静かに受け止める。




レン「……簡単に言うな」




ユイ「簡単じゃないよ」




ユイ「めちゃくちゃ考えた上で言ってる」




レン「……そっか」





また少し、



沈黙。




けれど今度は、



“迷い”じゃない。




“確認している沈黙”。




ユイ「ねえ、レン」




レン「ん」




ユイ「顔、見て」




レンは、



少しだけ息を整えてから、



ゆっくりと視線を上げる。




距離は、



さっきと同じはずなのに、



まるで違って感じる。




レン「……近いな」




ユイ「うん」




ユイ「さっきより、ね」




レン「手しか変わってないのに」




ユイ「そういうもんでしょ」





ユイは、



ほんの少しだけ、



一歩、近づく。




繋いだ手が、



わずかに揺れる。




レンの呼吸が、



少しだけ浅くなる。




レン「……ユイ」




ユイ「なに」




レン「今の、理由になる?」




ユイは、



少しだけ考えて、



それから、



小さく頷く。




ユイ「なるよ」




レン「……そっか」




ユイ「レンは?」




レンは、



ほんの一瞬、



目を閉じる。




そして、



ゆっくり開く。




レン「もう十分」




ユイ「……うん」





距離は、



あとほんの少し。




でも、



その“少し”が、



一番大きい。




レンは、



繋いでいない方の手を、



ゆっくりと持ち上げる。




触れるか、



触れないか、



その直前で止まる。




ユイは、



逃げない。




目も、



逸らさない。




ユイ「……ちゃんと、だよね」




レン「うん」




レン「雑にはしない」




ユイ「なら」




ユイ「大丈夫」





その一言で、



最後の迷いが消える。




触れる。




頬に、



ほんの少しだけ。




キスではない。



でも、



“その前”ではもうない。




レンは、



すぐには離れない。




ユイも、



動かない。




時間が、



少しだけ伸びる。




そして、



ゆっくりと離れる。




ユイ「……ねえ」




レン「ん」




ユイ「これ、順番合ってる?」




レンは、



少しだけ笑う。




レン「多分」




ユイ「曖昧」




レン「でも」




レン「間違ってない」




ユイは、



その言葉に、



少しだけ安心したように、



息を吐く。




ユイ「……そっか」





繋いだ手は、



まだそのまま。




でも、



さっきとは違う。




“その先を知った手”。




ユイ「ねえ、レン」




レン「ん」




ユイ「次、どうする?」




レンは、



少しだけ間を置いて、



静かに答える。




レン「急がない」




ユイ「うん」




レン「でも、止まらない」




ユイは、



ゆっくりと頷く。




ユイ「……いいね、それ」





夜は、



変わらず静かで、



何も急かさない。




けれど、



ふたりの中では、



確実に、



戻れない場所まで来ていた。




触れた頬の温度が、



まだ、



消えないまま。




次に触れる場所を、



お互いに、



もう知ってしまっている。

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