まだ名前のない距離 45 触れないまま、踏み越えていくもの
夜の道は、
◇
変わらないはずなのに、
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ふたりの歩く位置だけが、
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少しずつずれていく。
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◇
レンの言った“決まってる”が、
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頭のどこかに残っている。
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◇
ユイは、
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少しだけ横目でレンを見る。
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◇
ユイ「ねえ」
◇
◇
レン「ん?」
◇
◇
ユイ「さっきの“決まってる”ってやつ」
◇
◇
レン「ああ」
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◇
ユイ「ほんとに?」
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◇
レンは、
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少しだけ間を置く。
◇
◇
レン「たぶん」
◇
◇
ユイ「たぶんなんだ」
◇
◇
レン「確定させるとつまんないだろ」
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◇
ユイ「それはそう」
◇
◇
ユイは、
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少しだけ前を見る。
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◇
ユイ「でもさ」
◇
◇
レン「うん」
◇
◇
ユイ「決まってるなら、避けられないってこと?」
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◇
レンは、
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わずかに肩をすくめる。
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◇
レン「避けようとしてる時点で、もう怪しくない?」
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◇
ユイ「……確かに」
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◇
レン「だからたぶん」
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◇
レン「どっちかが、気づかないふりやめた瞬間」
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◇
ユイは、
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少しだけ息を止める。
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◇
ユイ「それが“アウト”?」
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◇
レン「そういうこと」
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◇
ユイは、
◇
小さく笑う。
◇
◇
ユイ「それ、ルールじゃなくない?」
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◇
レン「だから言ったじゃん」
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◇
レン「駆け引きだって」
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◇
ユイ「ずるいなあ」
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◇
レン「どっちが?」
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◇
ユイ「両方」
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◇
少し風が吹く。
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ユイの髪が、
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ほんの一瞬、レンの腕に触れかけて、
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触れないまま流れる。
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その距離。
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レンは、
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無意識に歩幅をゆるめる。
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ユイ「……今のさ」
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◇
レン「うん」
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◇
ユイ「触れてないよね」
◇
◇
レン「触れてない」
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◇
ユイ「でも」
◇
◇
レン「でも?」
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◇
ユイ「ちょっとアウト寄りだった」
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◇
レンは、
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思わず笑う。
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◇
レン「それは判定ゆるすぎる」
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ユイ「感覚の問題だから」
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◇
レン「審判が主観すぎる」
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ユイ「いいでしょ、当事者なんだから」
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レン「それ言われると反論できない」
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◇
◇
また少し沈黙。
◇
◇
でも、
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その沈黙は、
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さっきよりも近い。
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◇
ユイは、
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ほんの少しだけ手を揺らす。
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歩くリズムの中で、
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自然に。
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レンの手との距離が、
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ほんのわずかに縮まる。
◇
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触れそうで、
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触れない。
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◇
レン「……それ」
◇
◇
ユイ「なに」
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◇
レン「わざと?」
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◇
ユイは、
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一瞬だけ黙って、
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それから答える。
◇
◇
ユイ「どう思う?」
◇
◇
レン「ずるい返し方だな」
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◇
ユイ「お互い様」
◇
◇
レンは、
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少しだけ息を吐く。
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◇
レン「じゃあさ」
◇
◇
ユイ「うん」
◇
◇
レン「もしこれで触れたら」
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◇
ユイ「うん」
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◇
レン「アウトでいい?」
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◇
ユイは、
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少しだけ考えて、
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小さく頷く。
◇
◇
ユイ「いいよ」
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◇
レン「即終了?」
◇
◇
ユイ「どうする?」
◇
◇
レン「……それも決まってる?」
◇
◇
ユイは、
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少しだけ笑う。
◇
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ユイ「まだ決めてない」
◇
◇
レン「じゃあ」
◇
◇
レン「決める前に、来るかもな」
◇
◇
ユイ「それ、一番困るやつ」
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◇
レン「だろうな」
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◇
◇
ふたりの手が、
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また少しだけ近づく。
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ほんの数ミリ。
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呼吸が合うたびに、
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距離が揺れる。
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ユイ「ねえ」
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レン「ん?」
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◇
ユイ「これさ」
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◇
レン「うん」
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ユイ「どっちが先に我慢できなくなると思う?」
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◇
レンは、
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少しだけ笑って、
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横目でユイを見る。
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レン「それも」
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レン「もう決まってるかもな」
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◇
ユイ「またそれ」
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◇
レン「ヒントは」
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◇
ユイ「うん」
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レン「今、ちょっとだけ動いたほう」
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◇
ユイは、
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一瞬だけ固まる。
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◇
そして、
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すぐに歩き方を戻す。
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ユイ「……知らない」
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レン「わかりやす」
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◇
ユイ「うるさい」
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◇
レンは、
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小さく笑う。
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◇
でもその直後、
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レンの指先も、
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ほんのわずかに動く。
◇
◇
今度は、
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ユイが気づく。
◇
◇
ユイ「今のは?」
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◇
レン「風」
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◇
ユイ「無理ある」
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◇
レン「バレた?」
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◇
ユイ「完全に」
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◇
◇
そして――
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また一歩。
◇
◇
ほんの少しだけ、
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距離が縮まる。
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◇
触れるか、
◇
触れないか。
◇
◇
その境界線の上で、
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ふたりは、
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まだ歩いている。




