まだ名前のない距離 38 言葉にしたことで、少しだけ近づく夜
夜道を、
◇
ふたりは並んで歩いている。
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◇
ユイが、
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ふと口を開く。
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◇
「ねえ、レン」
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「ん?」
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◇
「今日さ」
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「なんか……変じゃなかった?」
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◇
レンは、
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少しだけ笑う。
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「変っていうか」
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「いつもと違った、って感じ?」
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「それ」
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◇
ユイは、
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少しだけ頷く。
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「なんかさ、時間の流れおかしかった」
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「早かった?」
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「うん、早かった」
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「でもさ」
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「長くも感じたんだよね」
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レンは、
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少し驚いたように笑う。
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「どっちだよ」
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「分かんないの」
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ユイも、
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小さく笑う。
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「でもさ」
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◇
「楽しかったでしょ?」
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レンは、
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少しだけ間を置いてから、
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素直に言う。
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◇
「……楽しかった」
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ユイは、
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少しだけ視線を逸らす。
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「……私も」
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「思ってたより、ずっと」
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レンは、
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その言葉に少しだけ安心する。
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「よかった」
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少しだけ、
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沈黙。
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でも、
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すぐにユイが続ける。
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「ねえ」
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◇
「ん?」
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◇
「さっきのさ」
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レンは、
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わざととぼける。
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「どれ?」
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ユイは、
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少しだけ呆れたように言う。
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「分かってるでしょ」
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「……まあ、うん」
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レンは、
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軽く息を吐く。
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「ちょっとは意識した」
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ユイは、
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ほんの少しだけ間を置く。
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「……そっか」
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「ユイは?」
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少しだけ、
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踏み込む声。
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ユイは、
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前を見たまま答える。
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「……したよ」
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レンの歩幅が、
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ほんの少しだけ揺れる。
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「でも」
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◇
ユイが続ける。
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◇
「嫌じゃなかった」
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◇
その言葉に、
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レンは少しだけ黙る。
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それから、
◇
静かに言う。
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◇
「……俺も」
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◇
「嫌じゃなかった」
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空気が、
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少しだけ変わる。
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さっきまでより、
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確実に近い。
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「なんかさ」
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レンが、
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少し照れたように言う。
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「こういうの、初めてかも」
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ユイは、
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くすっと笑う。
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「なにそれ」
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「自分でもよく分かってない」
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「じゃあ言わないでよ」
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「いや、なんとなく言いたくなった」
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ふたりで、
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少しだけ笑う。
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そのあと、
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ユイがぽつりと。
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「ねえレン」
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◇
「ん?」
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「またさ」
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「こういうの、しようよ」
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◇
レンは、
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少しだけ間を置く。
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でも、
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すぐに答える。
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「いいよ」
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「むしろ、したい」
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ユイは、
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少しだけ驚いて、
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笑う。
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「素直すぎ」
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「今さらだろ」
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◇
「確かに」
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◇
また、
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小さく笑い合う。
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◇
気づけば、
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ふたりの距離は、
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さっきより近い。
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◇
触れてはいない。
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◇
でも、
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触れそうな距離。
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◇
言葉にしたことで、
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少しだけ進んだ距離。
◇
◇
夜の中で、
◇
その変化だけが、
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確かに残っていく。




