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まだ名前のない距離 38 言葉にしたことで、少しだけ近づく夜

夜道を、



ふたりは並んで歩いている。




ユイが、



ふと口を開く。




「ねえ、レン」




「ん?」




「今日さ」




「なんか……変じゃなかった?」




レンは、



少しだけ笑う。




「変っていうか」




「いつもと違った、って感じ?」




「それ」




ユイは、



少しだけ頷く。




「なんかさ、時間の流れおかしかった」




「早かった?」




「うん、早かった」




「でもさ」




「長くも感じたんだよね」




レンは、



少し驚いたように笑う。




「どっちだよ」




「分かんないの」




ユイも、



小さく笑う。




「でもさ」




「楽しかったでしょ?」




レンは、



少しだけ間を置いてから、



素直に言う。




「……楽しかった」




ユイは、



少しだけ視線を逸らす。




「……私も」




「思ってたより、ずっと」




レンは、



その言葉に少しだけ安心する。




「よかった」




少しだけ、



沈黙。




でも、



すぐにユイが続ける。




「ねえ」




「ん?」




「さっきのさ」




レンは、



わざととぼける。




「どれ?」




ユイは、



少しだけ呆れたように言う。




「分かってるでしょ」




「……まあ、うん」




レンは、



軽く息を吐く。




「ちょっとは意識した」




ユイは、



ほんの少しだけ間を置く。




「……そっか」




「ユイは?」




少しだけ、



踏み込む声。




ユイは、



前を見たまま答える。




「……したよ」




レンの歩幅が、



ほんの少しだけ揺れる。




「でも」




ユイが続ける。




「嫌じゃなかった」




その言葉に、



レンは少しだけ黙る。




それから、



静かに言う。




「……俺も」




「嫌じゃなかった」




空気が、



少しだけ変わる。




さっきまでより、



確実に近い。




「なんかさ」




レンが、



少し照れたように言う。




「こういうの、初めてかも」




ユイは、



くすっと笑う。




「なにそれ」




「自分でもよく分かってない」




「じゃあ言わないでよ」




「いや、なんとなく言いたくなった」




ふたりで、



少しだけ笑う。




そのあと、



ユイがぽつりと。




「ねえレン」




「ん?」




「またさ」




「こういうの、しようよ」




レンは、



少しだけ間を置く。




でも、



すぐに答える。




「いいよ」




「むしろ、したい」




ユイは、



少しだけ驚いて、



笑う。




「素直すぎ」




「今さらだろ」




「確かに」




また、



小さく笑い合う。




気づけば、



ふたりの距離は、



さっきより近い。




触れてはいない。




でも、



触れそうな距離。




言葉にしたことで、



少しだけ進んだ距離。




夜の中で、



その変化だけが、



確かに残っていく。

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