「逃げ場なし」――距離ゼロの帰り道
翌日、放課後。
「レン、帰ろ」
当たり前みたいに声をかけてくるユイ。
「……なんで一緒に帰る前提なんだよ」
「昨日、“続きはまた明日”って言ったでしょ?」
にこっと笑う。
……有言実行すぎるだろこいつ。
「勝手に決めんな」
「でも来るでしょ?」
「……行くけど」
「ほらね」
即答した自分にちょっと腹が立つ。
◇
校門を出て、並んで歩く。
いつも通りのはずなのに、
なぜか今日は妙に距離が近い気がする。
……いや、“気がする”じゃない。
「おい」
「なに?」
「近い」
「普通だよ?」
普通なわけあるか。
肩、普通に当たってんだよ。
「レンが避ければ?」
「避けたら負けみたいな空気出すな」
「え、もう負けてるけど?」
くすっと笑うユイ。
「昨日のやつ引きずってんのかよ」
「だって面白いし」
……性格悪いなほんと。
そう思った瞬間――
「ねえ」
不意に、ユイが立ち止まる。
「……なんだよ」
振り向いた瞬間。
ぐいっと、腕を引かれた。
「っ!?」
バランスを崩して、
そのままユイの方に引き寄せられる。
――近い。
昨日どころじゃない距離。
目の前に、ユイの顔。
「レンさ」
小さく、囁く。
「今日もドキドキしてる?」
「してねえ」
即答。
……したけど。
「ふーん」
じっと見てくる。
逃げ場がない。
視線も、距離も。
「じゃあ――」
ユイが、さらに少しだけ顔を近づける。
「証明してよ」
「は?」
「ドキドキしてないって」
そんなの――
できるわけがない。
「……無理に決まってんだろ」
「じゃあしてるじゃん」
即詰み。
「っ……」
言い返せない俺を見て、
ユイは満足そうに笑う。
でも、そのまま離れない。
それどころか――
「ねえレン」
今度は、少しだけ真剣な声。
「逃げないでよ?」
「……逃げてねえよ」
「ほんと?」
「……たぶん」
自分でもよく分からない。
距離を取りたいのか、
このままでいたいのか。
ただ一つ分かるのは――
「顔、また赤い」
「うるせえ」
「かわいい」
「言うな!」
思わず声が大きくなる。
するとユイは、くすっと笑ってから――
すっと手を離した。
「今日はここまで」
「……は?」
昨日と同じセリフ。
でも今日は、ちょっと違う。
「え、終わり?」
「なに、続き期待してた?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
「してねえよ!」
「ほんとに?」
「……」
否定しきれない。
「素直じゃないなー」
そう言って、ユイは少しだけ前を歩き出す。
でも――
「ほら」
振り返って、手を軽く振る。
「ちゃんと来てよ?」
その仕草が妙に自然で。
……結局、追いかけてしまう。
「レン」
「なんだよ」
「明日はもっとすごいよ?」
「やめろ」
「楽しみにしてて」
「するか!」
即答したけど――
◇
「……はぁ」
帰り道の途中。
小さくため息をつく。
でもそれは、
嫌なため息じゃなかった。
むしろ――
「……またやられるな、これ」
分かってるのに。
分かってるのに――
明日が、ちょっと楽しみになってる自分がいる。




