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「逃げ場なし」――距離ゼロの帰り道

翌日、放課後。


「レン、帰ろ」


当たり前みたいに声をかけてくるユイ。


「……なんで一緒に帰る前提なんだよ」


「昨日、“続きはまた明日”って言ったでしょ?」


にこっと笑う。


……有言実行すぎるだろこいつ。


「勝手に決めんな」


「でも来るでしょ?」


「……行くけど」


「ほらね」


即答した自分にちょっと腹が立つ。



校門を出て、並んで歩く。


いつも通りのはずなのに、

なぜか今日は妙に距離が近い気がする。


……いや、“気がする”じゃない。


「おい」


「なに?」


「近い」


「普通だよ?」


普通なわけあるか。

肩、普通に当たってんだよ。


「レンが避ければ?」


「避けたら負けみたいな空気出すな」


「え、もう負けてるけど?」


くすっと笑うユイ。


「昨日のやつ引きずってんのかよ」


「だって面白いし」


……性格悪いなほんと。


そう思った瞬間――


「ねえ」


不意に、ユイが立ち止まる。


「……なんだよ」


振り向いた瞬間。


ぐいっと、腕を引かれた。


「っ!?」


バランスを崩して、

そのままユイの方に引き寄せられる。


――近い。


昨日どころじゃない距離。


目の前に、ユイの顔。


「レンさ」


小さく、囁く。


「今日もドキドキしてる?」


「してねえ」


即答。


……したけど。


「ふーん」


じっと見てくる。


逃げ場がない。


視線も、距離も。


「じゃあ――」


ユイが、さらに少しだけ顔を近づける。


「証明してよ」


「は?」


「ドキドキしてないって」


そんなの――


できるわけがない。


「……無理に決まってんだろ」


「じゃあしてるじゃん」


即詰み。


「っ……」


言い返せない俺を見て、

ユイは満足そうに笑う。


でも、そのまま離れない。


それどころか――


「ねえレン」


今度は、少しだけ真剣な声。


「逃げないでよ?」


「……逃げてねえよ」


「ほんと?」


「……たぶん」


自分でもよく分からない。


距離を取りたいのか、

このままでいたいのか。


ただ一つ分かるのは――


「顔、また赤い」


「うるせえ」


「かわいい」


「言うな!」


思わず声が大きくなる。


するとユイは、くすっと笑ってから――


すっと手を離した。


「今日はここまで」


「……は?」


昨日と同じセリフ。


でも今日は、ちょっと違う。


「え、終わり?」


「なに、続き期待してた?」


ニヤニヤしながら聞いてくる。


「してねえよ!」


「ほんとに?」


「……」


否定しきれない。


「素直じゃないなー」


そう言って、ユイは少しだけ前を歩き出す。


でも――


「ほら」


振り返って、手を軽く振る。


「ちゃんと来てよ?」


その仕草が妙に自然で。


……結局、追いかけてしまう。


「レン」


「なんだよ」


「明日はもっとすごいよ?」


「やめろ」


「楽しみにしてて」


「するか!」


即答したけど――



「……はぁ」


帰り道の途中。


小さくため息をつく。


でもそれは、


嫌なため息じゃなかった。


むしろ――


「……またやられるな、これ」


分かってるのに。


分かってるのに――


明日が、ちょっと楽しみになってる自分がいる。

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― 新着の感想 ―
「来なかったら」と話したユイ。 翌日来なかったので、びっくりしました。 体調が悪くなるのを予見していたのでしょうか。 イタズラで休んだ――ようには見えないし。 ほんのり甘い学生生活の物語の中に、ユイが…
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