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まだ名前のない距離 26 名前をつけないまま、進んでいく

夕方の光は、

ゆっくりと街の色を変えていく。



さっきまで白かったはずの景色が、

少しだけ橙に溶けていく。



ふたりの影も、

さっきより長く伸びていた。




並んで歩く。



変わらないはずのその形が、



少しずつ、

“ただの並び”じゃなくなっていく。




言葉は少ないまま。



でも、



不思議と足りないとは思わなかった。




ユイが、

何かを確かめるみたいに


ほんの少しだけ視線を落とす。



その先にあるのは、



並んでいる足元。



揃いきっていないのに、



どこか似てきている歩幅。




「さっきさ」



また、

ユイが口を開く。



今度は、

少しだけ自然に。




「触れたとき」



言葉が、

途中で少しだけ揺れる。




レンは何も言わず、

続きを待つ。




「……変な感じ、しなかった?」




問いかけなのに、



どこか、

答えを知っているような声。




レンは少しだけ考える。



ほんの一瞬だけ。




「した」



短く答える。




ユイは、

少しだけ笑う。




「だよね」



それだけで、

十分だったみたいに。




「嫌、とかじゃなくて」



続ける声は、

さっきよりも少しだけ正直で。




「なんていうか」



言葉を探す間。




「ちゃんと感じちゃった、みたいな」




その言葉に、



レンは少しだけ目を細める。




「……わかる」




同じ温度の返事。




それ以上、

説明はいらなかった。




また少しだけ沈黙。



でも、



さっきとは違う。




“共有したあとの静けさ”。




ユイは、

ふっと息を吐いて、



ほんの少しだけ肩の力を抜く。




「そっか」




それは確認で、



同時に、

受け入れでもあった。




歩きながら、



ふたりの距離がまた少しだけ揺れる。




近づいて、



離れて、



また近づく。




その繰り返しが、



不思議と自然になっていく。




レンは、

少しだけ手を動かす。




触れようとしたわけじゃない。



でも、



意識していないとも言いきれない。




指先が、



ほんの一瞬だけ


ユイの手の近くをかすめる。




触れてはいない。



けれど、



“さっきより近い”。




ユイは何も言わない。



振り向きもしない。




でも、



歩く速度がほんの少しだけ緩む。




それが、

答えみたいだった。




「……さ」



今度はレンが口を開く。




「このままさ」




言いかけて、



少しだけ笑う。




「どこまで行けるんだろうな」




場所の話じゃない。




ユイは少しだけ考えて、



前を向いたまま答える。




「さあね」




でも、



その声はどこか柔らかくて。




「でも」



ほんの少しだけ間を置く。




「途中でやめる理由も、今はないかも」




レンは、

小さく笑う。




「ああ」




それで十分だった。




夕方の色が、

さらに深くなる。




街の灯りが、

少しずつ点き始める。




その中で、



ふたりの距離は、



まだ名前を持たないまま、



少しずつ、

確かな形に近づいていく。




触れないままでも、



重なっていくものがあると、



ふたりとも、

もう知っていた。

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