↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/85

まだ名前のない距離 25 触れないままで、重なっていくもの

交差点を渡りきって、

人の流れが少しだけほどける。


◇


さっきまでと同じ街のはずなのに、


◇


ふたりの周りだけ、

少し違う場所みたいに感じた。


◇


◇


並んで歩く。


◇


肩が触れるほどじゃない。


◇


でも、

離れているとも言いきれない。


◇


その曖昧さが、

今は心地いい。


◇


◇


レンは、

何か話そうとして、やめる。


◇


言葉にした瞬間、


◇


この空気が

少し変わってしまう気がした。


◇


◇


ユイも、

同じように何かを考えている顔をしている。


◇


でも、

口には出さない。


◇


◇


沈黙は続く。


◇


けれど、


◇


さっきまでの“探るような沈黙”じゃない。


◇


ただ一緒にいるための、

自然な静けさ。


◇


◇


「さ」


◇


不意に、ユイが声を出す。


◇


レンが少しだけ顔を向ける。


◇


◇


「どこまで行く?」


◇


同じ質問。


◇


でも、

さっきとは少しだけ意味が違う。


◇


◇


レンは少しだけ考えて、


◇


「もう少し、このまま」


◇


そう答える。


◇


◇


場所じゃなくて、


◇


時間の話。


◇


◇


ユイは、

ほんの少しだけ目を細めて、


◇


「うん」


◇


短くうなずく。


◇


◇


それだけで、


◇


“続けること”が決まる。


◇


◇


歩幅が、また少し揃う。


◇


合わせようとしたわけじゃないのに、


◇


自然と同じリズムになる。


◇


◇


レンは、

横目でほんの少しだけユイを見る。


◇


風で揺れた髪が、

一瞬だけ頬にかかる。


◇


◇


その何気ない仕草に、


◇


さっき触れた感覚が、

またよみがえる。


◇


◇


「……あのさ」


◇


今度は、

迷いながらじゃない。


◇


◇


ユイが、少しだけこちらを見る。


◇


◇


「さっきの、さ」


◇


また同じ言葉。


◇


でも、

今度は少しだけ違う意味を持つ。


◇


◇


「ちゃんと覚えとくって言ったけど」


◇


◇


一瞬だけ、間を置く。


◇


◇


「たぶん、あれ」


◇


言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。


◇


◇


「忘れないやつだと思う」


◇


◇


ユイは、少しだけ驚いた顔をして、


◇


すぐに、ふっと笑う。


◇


◇


「なにそれ」


◇


軽く返す声。


◇


でも、


◇


どこか嬉しそうで。


◇


◇


「大げさ」


◇


そう言いながらも、


◇


否定はしない。


◇


◇


レンは、少しだけ肩をすくめる。


◇


「そうかも」


◇


◇


でも、


◇


それ以上は引かない。


◇


◇


ユイは前を向き直して、


◇


ほんの少しだけ歩く速度を落とす。


◇


◇


また、距離が近づく。


◇


今度は、

ほんのわずかに。


◇


◇


触れるか、触れないか。


◇


その境目。


◇


◇


「……でもさ」


◇


ユイが、小さくつぶやく。


◇


◇


「忘れないなら」


◇


ほんの少しだけ、声がやわらぐ。


◇


◇


「急がなくていいかもね」


◇


◇


レンは、その言葉を聞いて、


◇


ゆっくりとうなずく。


◇


◇


「ああ」


◇


◇


今すぐじゃなくていい。


◇


でも、


◇


なかったことにもならない。


◇


◇


その距離が、


◇


少しずつ形になっていく。


◇


◇


夕方の光が、

少しだけ色を変え始める。


◇


◇


影が、

並んで伸びる。


◇


◇


触れていないのに、


◇


影だけが、

少しだけ重なっていた。


◇


◇


ふたりはそれに気づかないまま、


◇


同じ速さで、

同じ方向へ歩いていく。


◇


◇


まだ名前のないままの距離が、


◇


確かに、少しずつ近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。