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まだ名前のない距離 25 触れないままで、重なっていくもの

交差点を渡りきって、

人の流れが少しだけほどける。



さっきまでと同じ街のはずなのに、



ふたりの周りだけ、

少し違う場所みたいに感じた。




並んで歩く。



肩が触れるほどじゃない。



でも、

離れているとも言いきれない。



その曖昧さが、

今は心地いい。




レンは、

何か話そうとして、やめる。



言葉にした瞬間、



この空気が

少し変わってしまう気がした。




ユイも、

同じように何かを考えている顔をしている。



でも、

口には出さない。




沈黙は続く。



けれど、



さっきまでの“探るような沈黙”じゃない。



ただ一緒にいるための、

自然な静けさ。




「さ」



不意に、ユイが声を出す。



レンが少しだけ顔を向ける。




「どこまで行く?」



同じ質問。



でも、

さっきとは少しだけ意味が違う。




レンは少しだけ考えて、



「もう少し、このまま」



そう答える。




場所じゃなくて、



時間の話。




ユイは、

ほんの少しだけ目を細めて、



「うん」



短くうなずく。




それだけで、



“続けること”が決まる。




歩幅が、また少し揃う。



合わせようとしたわけじゃないのに、



自然と同じリズムになる。




レンは、

横目でほんの少しだけユイを見る。



風で揺れた髪が、

一瞬だけ頬にかかる。




その何気ない仕草に、



さっき触れた感覚が、

またよみがえる。




「……あのさ」



今度は、

迷いながらじゃない。




ユイが、少しだけこちらを見る。




「さっきの、さ」



また同じ言葉。



でも、

今度は少しだけ違う意味を持つ。




「ちゃんと覚えとくって言ったけど」




一瞬だけ、間を置く。




「たぶん、あれ」



言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。




「忘れないやつだと思う」




ユイは、少しだけ驚いた顔をして、



すぐに、ふっと笑う。




「なにそれ」



軽く返す声。



でも、



どこか嬉しそうで。




「大げさ」



そう言いながらも、



否定はしない。




レンは、少しだけ肩をすくめる。



「そうかも」




でも、



それ以上は引かない。




ユイは前を向き直して、



ほんの少しだけ歩く速度を落とす。




また、距離が近づく。



今度は、

ほんのわずかに。




触れるか、触れないか。



その境目。




「……でもさ」



ユイが、小さくつぶやく。




「忘れないなら」



ほんの少しだけ、声がやわらぐ。




「急がなくていいかもね」




レンは、その言葉を聞いて、



ゆっくりとうなずく。




「ああ」




今すぐじゃなくていい。



でも、



なかったことにもならない。




その距離が、



少しずつ形になっていく。




夕方の光が、

少しだけ色を変え始める。




影が、

並んで伸びる。




触れていないのに、



影だけが、

少しだけ重なっていた。




ふたりはそれに気づかないまま、



同じ速さで、

同じ方向へ歩いていく。




まだ名前のないままの距離が、



確かに、少しずつ近づいていた。

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