まだ名前のない距離 23 指先が知ってしまう前に
校門の外は、
思っていたよりも静かだった。
◇
人の流れはあるのに、
どこかだけ切り取られたみたいに、
◇
ふたりの周りだけ、
音が少ない。
◇
◇
並んで歩く。
◇
さっきよりも少しだけ、
距離が近い。
◇
意識すればするほど、
自然にしようとしてしまう。
◇
◇
「どっち行く?」
◇
ユイが、軽く聞く。
◇
レンは前を見たまま、
◇
「任せる」
◇
少しだけ柔らかく答える。
◇
◇
その一言に、
ユイの歩幅がほんの少しだけ変わる。
◇
「じゃあ、こっち」
◇
理由は言わない。
◇
でも、
◇
選ばれた道は、
少しだけ遠回りだった。
◇
◇
「遠くない?」
◇
レンが聞くと、
◇
ユイは少しだけ笑う。
◇
「いいじゃん、たまには」
◇
◇
“たまに”の中に、
どれだけの意味が含まれているのか、
◇
レンはまだ知らない。
◇
◇
風が、少しだけ強く吹く。
◇
ユイの髪が揺れて、
◇
一瞬だけ、視界に触れる。
◇
◇
その瞬間、
◇
レンの指先が、
ほんのわずかに動いた。
◇
◇
触れる、まではいかない。
◇
でも、
◇
触れようとした“気配”だけが残る。
◇
◇
ユイは、気づいていた。
◇
でも、何も言わない。
◇
◇
代わりに、
◇
ほんの少しだけ歩幅を合わせる。
◇
◇
「ね」
◇
不意に、ユイが口を開く。
◇
「もしさ」
◇
言葉が、少しだけ慎重になる。
◇
◇
「さっき、止まってなかったら」
◇
◇
レンは、すぐに答えない。
◇
考える、というより、
◇
感じている。
◇
◇
「……たぶん」
◇
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
◇
「今みたいには、なってない」
◇
◇
ユイは、少しだけ視線を落とす。
◇
「だよね」
◇
◇
肯定なのに、
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どこか、ほっとした響き。
◇
◇
「だから」
◇
ユイは前を見たまま、
◇
小さく続ける。
◇
「止まってよかった」
◇
◇
その言葉に、
◇
レンの中で何かが、静かに重なる。
◇
◇
同じタイミングで、
同じことを思っていたわけじゃない。
◇
でも、
◇
同じ“結果”を選んでいる。
◇
◇
その事実が、
◇
思っていたよりも、
確かなものに感じられた。
◇
◇
次の信号で、
ふたりは足を止める。
◇
赤い光。
◇
並んだまま、
◇
少しだけ、距離が縮まる。
◇
◇
今度は、
◇
偶然じゃない。
◇
◇
レンの指先が、
ほんの少しだけ動く。
◇
ユイの手も、
逃げない。
◇
◇
触れる。
◇
ほんの、一瞬だけ。
◇
◇
でも――
◇
その一瞬は、
◇
これまでの全部より、
はっきりしていた。
◇
◇
青に変わる。
◇
◇
ふたりは何も言わずに、
また歩き出す。
◇
でも、
◇
さっきまでとは少しだけ違う。
◇
◇
触れた温度が、
◇
まだ、消えずに残っているから。




