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まだ名前のない距離 23 指先が知ってしまう前に

校門の外は、

思っていたよりも静かだった。



人の流れはあるのに、

どこかだけ切り取られたみたいに、



ふたりの周りだけ、

音が少ない。




並んで歩く。



さっきよりも少しだけ、

距離が近い。



意識すればするほど、

自然にしようとしてしまう。




「どっち行く?」



ユイが、軽く聞く。



レンは前を見たまま、



「任せる」



少しだけ柔らかく答える。




その一言に、

ユイの歩幅がほんの少しだけ変わる。



「じゃあ、こっち」



理由は言わない。



でも、



選ばれた道は、

少しだけ遠回りだった。




「遠くない?」



レンが聞くと、



ユイは少しだけ笑う。



「いいじゃん、たまには」




“たまに”の中に、

どれだけの意味が含まれているのか、



レンはまだ知らない。




風が、少しだけ強く吹く。



ユイの髪が揺れて、



一瞬だけ、視界に触れる。




その瞬間、



レンの指先が、

ほんのわずかに動いた。




触れる、まではいかない。



でも、



触れようとした“気配”だけが残る。




ユイは、気づいていた。



でも、何も言わない。




代わりに、



ほんの少しだけ歩幅を合わせる。




「ね」



不意に、ユイが口を開く。



「もしさ」



言葉が、少しだけ慎重になる。




「さっき、止まってなかったら」




レンは、すぐに答えない。



考える、というより、



感じている。




「……たぶん」



ゆっくりと、言葉を選ぶ。



「今みたいには、なってない」




ユイは、少しだけ視線を落とす。



「だよね」




肯定なのに、



どこか、ほっとした響き。




「だから」



ユイは前を見たまま、



小さく続ける。



「止まってよかった」




その言葉に、



レンの中で何かが、静かに重なる。




同じタイミングで、

同じことを思っていたわけじゃない。



でも、



同じ“結果”を選んでいる。




その事実が、



思っていたよりも、

確かなものに感じられた。




次の信号で、

ふたりは足を止める。



赤い光。



並んだまま、



少しだけ、距離が縮まる。




今度は、



偶然じゃない。




レンの指先が、

ほんの少しだけ動く。



ユイの手も、

逃げない。




触れる。



ほんの、一瞬だけ。




でも――



その一瞬は、



これまでの全部より、

はっきりしていた。




青に変わる。




ふたりは何も言わずに、

また歩き出す。



でも、



さっきまでとは少しだけ違う。




触れた温度が、



まだ、消えずに残っているから。

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