まだ名前のない距離 22 触れた温度の、その先へ
「どこ、行く?」
◇
ユイがそう聞く声は、
さっきよりも少しだけ柔らかかった。
◇
レンは一瞬だけ考えて、
すぐに答えは出なかった。
◇
行き先なんて、
本当はどうでもよかった。
◇
ただ――
◇
「……外、出る?」
◇
それでも、
ちゃんと選んだ言葉。
◇
ユイは、
ほんの少しだけ目を細めて、
◇
「いいよ」
◇
迷いなく頷く。
◇
◇
並んで歩き出す。
◇
教室を出て、
廊下に出た瞬間、
◇
さっきまでの空気が、
すっと遠ざかる。
◇
代わりに、
◇
少しだけ静かな、
放課後の匂い。
◇
◇
足音が、ふたつ。
◇
同じ速さで、
同じ方向へ。
◇
◇
言葉は、まだ少ない。
◇
でも、
不思議と気まずくない。
◇
さっきの「続き」が、
ちゃんとここにあるから。
◇
◇
階段を降りる途中、
◇
ユイが、
ふと小さく笑う。
◇
「なんかさ」
◇
レンが、そっと視線を向ける。
◇
「こういうのって」
◇
言いかけて、
少しだけ言葉を探す。
◇
「タイミング、あるよね」
◇
◇
レンは、
一瞬だけ考えてから、
◇
「ああ」
◇
短く頷く。
◇
◇
「逃すと、戻らないやつ」
◇
その言葉に、
ユイが小さく息を止める。
◇
◇
「……でも」
◇
ユイは、
少しだけ前を見たまま続ける。
◇
「さっきは、戻った」
◇
◇
レンは、
ほんの少しだけ笑った。
◇
「戻した、んじゃない?」
◇
◇
その言い方に、
◇
ユイの足が、
一瞬だけゆっくりになる。
◇
◇
「……そっか」
◇
小さく呟く。
◇
◇
ただの偶然じゃない。
◇
止まらなかった一歩は、
◇
ちゃんと、
選ばれていた。
◇
◇
校門を出る。
◇
夕方の光が、
少しだけ眩しい。
◇
◇
その中で、
◇
ふと、
指先が近づく。
◇
触れそうで、
◇
まだ、触れない。
◇
◇
でも――
◇
今は、焦らなくていい。
◇
◇
距離は、もう、
消えかけているから。




