表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/85

まだ名前のない距離 22 触れた温度の、その先へ

「どこ、行く?」



ユイがそう聞く声は、

さっきよりも少しだけ柔らかかった。



レンは一瞬だけ考えて、

すぐに答えは出なかった。



行き先なんて、

本当はどうでもよかった。



ただ――



「……外、出る?」



それでも、

ちゃんと選んだ言葉。



ユイは、

ほんの少しだけ目を細めて、



「いいよ」



迷いなく頷く。




並んで歩き出す。



教室を出て、

廊下に出た瞬間、



さっきまでの空気が、

すっと遠ざかる。



代わりに、



少しだけ静かな、

放課後の匂い。




足音が、ふたつ。



同じ速さで、

同じ方向へ。




言葉は、まだ少ない。



でも、

不思議と気まずくない。



さっきの「続き」が、

ちゃんとここにあるから。




階段を降りる途中、



ユイが、

ふと小さく笑う。



「なんかさ」



レンが、そっと視線を向ける。



「こういうのって」



言いかけて、

少しだけ言葉を探す。



「タイミング、あるよね」




レンは、

一瞬だけ考えてから、



「ああ」



短く頷く。




「逃すと、戻らないやつ」



その言葉に、

ユイが小さく息を止める。




「……でも」



ユイは、

少しだけ前を見たまま続ける。



「さっきは、戻った」




レンは、

ほんの少しだけ笑った。



「戻した、んじゃない?」




その言い方に、



ユイの足が、

一瞬だけゆっくりになる。




「……そっか」



小さく呟く。




ただの偶然じゃない。



止まらなかった一歩は、



ちゃんと、

選ばれていた。




校門を出る。



夕方の光が、

少しだけ眩しい。




その中で、



ふと、

指先が近づく。



触れそうで、



まだ、触れない。




でも――



今は、焦らなくていい。




距離は、もう、

消えかけているから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ