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33/85

まだ名前のない距離 18 言葉にする前の、確かな予感

教室の空気は、

いつもと同じはずなのに、


◇


どこかだけ、

少し違って感じた。


◇


レンは席に座りながら、

何気なく窓の外を見る。


◇


視界の端に、

見慣れた後ろ姿。


◇


ユイが、

友達と話している。


◇


笑っている声は聞こえない。


でも、

楽しそうだということだけは、

不思議とはっきり分かった。


◇


「……普通だな」


◇


ぽつりと、呟く。


◇


昨日のことがあっても、

何かが急に変わるわけじゃない。


◇


距離も、

空気も、


◇


見た目には、何も。


◇


それでも、


◇


“違う”と感じてしまうのは、


◇


たぶん、

自分の中の問題だった。


◇


◇


一方で、


ユイもまた、

ふとした瞬間に視線を動かしていた。


◇


教室の奥。


◇


レンの姿が、見える位置。


◇


目が合うわけでもなく、


ただ、そこにいることを

確認するだけ。


◇


それだけで、


少しだけ、

落ち着く。


◇


「……何それ」


◇


自分でも理由が分からなくて、

小さく笑った。


◇


◇


チャイムが鳴る。


◇


いつも通りの授業。


◇


いつも通り、

ノートを取って、


◇


いつも通り、

時間が過ぎていく。


◇


なのに、


◇


ふとした拍子に、


◇


思い出すのは、


◇


昨日の、

あのやり取り。


◇


「またね」


◇


それだけの言葉が、


◇


こんなにも、

残るなんて。


◇


◇


昼休み。


◇


教室のざわめきの中で、


◇


レンは、

机に肘をつきながら、


少しだけ考える。


◇


今、話しかけるべきか。


◇


それとも、

まだやめておくか。


◇


急がなくていい。


◇


そう思っていたはずなのに、


◇


“話したい”という気持ちは、

確実にそこにあった。


◇


◇


同じ頃、


ユイもまた、

同じようなことを考えていた。


◇


行けば、

きっと普通に話せる。


◇


でも、


◇


“普通”が少しだけ変わってしまった今、


その一歩が、

少しだけ遠い。


◇


◇


視線が、

ほんの一瞬だけ重なる。


◇


すぐに逸れる。


◇


それでも、


◇


お互いに、

気づいていた。


◇


◇


“今なら、話せる”


◇


その感覚だけが、


言葉にする前から、

確かに存在している。


◇


◇


まだ踏み出していない。


◇


でも、


◇


止まっているわけでもない。


◇


◇


ほんの少しの勇気と、


ほんの少しのきっかけ。


◇


それさえあれば、


◇


この距離は、


またひとつ、

形を変える。


◇


◇


言葉になる前の気持ちが、


◇


静かに、

二人の間に満ちていく。


◇


◇


次に動くのは、


どちらか。


◇


それとも――


同時に。

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