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まだ名前のない距離 18 言葉にする前の、確かな予感

教室の空気は、

いつもと同じはずなのに、



どこかだけ、

少し違って感じた。



レンは席に座りながら、

何気なく窓の外を見る。



視界の端に、

見慣れた後ろ姿。



ユイが、

友達と話している。



笑っている声は聞こえない。


でも、

楽しそうだということだけは、

不思議とはっきり分かった。



「……普通だな」



ぽつりと、呟く。



昨日のことがあっても、

何かが急に変わるわけじゃない。



距離も、

空気も、



見た目には、何も。



それでも、



“違う”と感じてしまうのは、



たぶん、

自分の中の問題だった。




一方で、


ユイもまた、

ふとした瞬間に視線を動かしていた。



教室の奥。



レンの姿が、見える位置。



目が合うわけでもなく、


ただ、そこにいることを

確認するだけ。



それだけで、


少しだけ、

落ち着く。



「……何それ」



自分でも理由が分からなくて、

小さく笑った。




チャイムが鳴る。



いつも通りの授業。



いつも通り、

ノートを取って、



いつも通り、

時間が過ぎていく。



なのに、



ふとした拍子に、



思い出すのは、



昨日の、

あのやり取り。



「またね」



それだけの言葉が、



こんなにも、

残るなんて。




昼休み。



教室のざわめきの中で、



レンは、

机に肘をつきながら、


少しだけ考える。



今、話しかけるべきか。



それとも、

まだやめておくか。



急がなくていい。



そう思っていたはずなのに、



“話したい”という気持ちは、

確実にそこにあった。




同じ頃、


ユイもまた、

同じようなことを考えていた。



行けば、

きっと普通に話せる。



でも、



“普通”が少しだけ変わってしまった今、


その一歩が、

少しだけ遠い。




視線が、

ほんの一瞬だけ重なる。



すぐに逸れる。



それでも、



お互いに、

気づいていた。




“今なら、話せる”



その感覚だけが、


言葉にする前から、

確かに存在している。




まだ踏み出していない。



でも、



止まっているわけでもない。




ほんの少しの勇気と、


ほんの少しのきっかけ。



それさえあれば、



この距離は、


またひとつ、

形を変える。




言葉になる前の気持ちが、



静かに、

二人の間に満ちていく。




次に動くのは、


どちらか。



それとも――


同時に。

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