表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/35

まだ名前のない距離 19 重なりかけた、その一歩

昼休みのざわめきは、

さっきよりも少しだけ遠く感じた。



レンは、

机に置いたままの手を見つめる。



動かそうと思えば、

いつでも動かせる。



それなのに、



“今じゃない気がする”と、

どこかで思っている自分がいた。



タイミングを測っているわけじゃない。


でも、



何かが揃うのを、

無意識に待っているような感覚。




ユイもまた、

立ち上がりかけて、やめた。



椅子が、わずかに音を立てる。



隣の友達が、

「どうしたの?」と首を傾げる。



「……なんでもない」



そう答えて、

小さく笑う。



でも、



胸の奥では、

はっきりと分かっていた。



“なんでもなくは、ない”




もう一度、

視線が動く。



今度は、

さっきよりも少しだけ長く。



レンも、

同じタイミングで顔を上げていた。




目が合う。



ほんの一瞬。


でも、



確かに、

逸らさなかった時間があった。




そのわずかな間に、


言葉にしなくても、

いくつかのことが伝わる。



“今、行こうとしてた”



“同じこと、考えてた”



そんな、

曖昧で、でも確かな共有。




レンが、

先に視線を外した。



逃げたわけじゃない。



ただ、



少しだけ笑いそうになって、

誤魔化しただけ。




ユイも、

同じように小さく息を吐く。



肩の力が、

ほんの少し抜けた。




「……なんだ、それ」



誰に聞かせるでもなく、

小さく呟く。



でも、



その言葉の温度は、

どこか柔らかかった。




結局、


その昼休みは、

まだ何も起きないまま過ぎていく。



話しかけることも、

近づくことも、



“あと一歩”のまま。




それでも――



さっきまでとは、

明らかに違っていた。




距離は、変わっていない。



でも、



“次に動く準備”だけは、

確実に整っていた。




チャイムが鳴る。



午後の授業が始まる合図。



みんなが席に戻る中、



レンは、

ほんの一瞬だけ振り返る。



ユイの姿を、

探すでもなく確認するように。




ユイもまた、

同じように視線を上げていた。



今度は、



ほんの少しだけ、

先に。




“次は、いける”



どちらともなく、

そう思った。




まだ、言葉はない。



でも、



その沈黙は、

もう迷いじゃなかった。




重なりかけた一歩は、



確かに、

次へと続いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ