まだ名前のない距離 16 夜にほどける境界線 消えない余韻
部屋の明かりを落とすと、
◇
さっきまでのやり取りが、
やけに鮮明になる。
◇
レンはベッドに仰向けになり、
◇
天井をぼんやりと見つめた。
◇
◇
「またね、か」
◇
小さく繰り返す。
◇
◇
たった三文字。
◇
でも、
◇
そこに含まれている意味は、
思っているよりずっと大きい。
◇
◇
終わりじゃない。
◇
続きがある。
◇
◇
それだけで、
◇
こんなにも心が軽くなるなんて。
◇
◇
「単純だな、俺」
◇
苦笑する。
◇
◇
でも、
◇
嫌じゃない。
◇
むしろ、
◇
この感じを、
もう少しだけ味わっていたいと思う。
◇
◇
スマホを胸の上に置いて、
◇
目を閉じる。
◇
◇
眠れるはずなのに、
◇
なぜか、
◇
意識が静かに冴えていた。
◇
◇
◇
一方で、
◇
ユイもまた、
◇
同じように部屋の中で
スマホを握っていた。
◇
◇
画面はもう消えているのに、
◇
何度も電源ボタンを押してしまう。
◇
◇
「……終わったのに」
◇
◇
それでも、
◇
最後のやり取りを
確かめるように見返す。
◇
◇
「また話そ」
◇
「またね」
◇
◇
その並びが、
◇
少しだけくすぐったい。
◇
◇
「ほんとに、またなんだ」
◇
◇
誰に言うでもなく呟く。
◇
◇
今までなら、
◇
ここで終わり。
◇
それっきりでも、
おかしくなかった。
◇
◇
でも今回は違う。
◇
◇
次がある前提で、
終わっている。
◇
◇
それが、
◇
こんなにも安心するなんて。
◇
◇
ベッドに腰を下ろし、
◇
スマホをそっと横に置く。
◇
◇
胸の奥に残っているのは、
◇
さっきの言葉と、
◇
ほんの少しの期待。
◇
◇
「……変なの」
◇
◇
自分でそう思いながら、
◇
小さく笑う。
◇
◇
◇
夜は、
◇
ゆっくりと深くなっていく。
◇
◇
同じ時間、
◇
違う場所で、
◇
同じ余韻を抱えたまま。
◇
◇
まだ名前はない。
◇
でも、
◇
確かに何かが変わり始めている。
◇
◇
触れていないのに、
◇
近づいている距離。
◇
◇
その境界線は、
◇
気づかないうちに、
◇
少しずつ――
◇
ほどけていた。




