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まだ名前のない距離 16 夜にほどける境界線 消えない余韻

部屋の明かりを落とすと、



さっきまでのやり取りが、

やけに鮮明になる。



レンはベッドに仰向けになり、



天井をぼんやりと見つめた。




「またね、か」



小さく繰り返す。




たった三文字。



でも、



そこに含まれている意味は、

思っているよりずっと大きい。




終わりじゃない。



続きがある。




それだけで、



こんなにも心が軽くなるなんて。




「単純だな、俺」



苦笑する。




でも、



嫌じゃない。



むしろ、



この感じを、

もう少しだけ味わっていたいと思う。




スマホを胸の上に置いて、



目を閉じる。




眠れるはずなのに、



なぜか、



意識が静かに冴えていた。





一方で、



ユイもまた、



同じように部屋の中で

スマホを握っていた。




画面はもう消えているのに、



何度も電源ボタンを押してしまう。




「……終わったのに」




それでも、



最後のやり取りを

確かめるように見返す。




「また話そ」



「またね」




その並びが、



少しだけくすぐったい。




「ほんとに、またなんだ」




誰に言うでもなく呟く。




今までなら、



ここで終わり。



それっきりでも、

おかしくなかった。




でも今回は違う。




次がある前提で、

終わっている。




それが、



こんなにも安心するなんて。




ベッドに腰を下ろし、



スマホをそっと横に置く。




胸の奥に残っているのは、



さっきの言葉と、



ほんの少しの期待。




「……変なの」




自分でそう思いながら、



小さく笑う。





夜は、



ゆっくりと深くなっていく。




同じ時間、



違う場所で、



同じ余韻を抱えたまま。




まだ名前はない。



でも、



確かに何かが変わり始めている。




触れていないのに、



近づいている距離。




その境界線は、



気づかないうちに、



少しずつ――



ほどけていた。

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