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まだ名前のない距離 15 指先に残る熱 消せない一言

「嬉しかった」



その文字は、



思っていたよりも、

長く残った。



ユイは、

しばらく画面を見つめたまま、



指を動かせずにいた。




冗談じゃない。



ごまかしもない。



ただの、



まっすぐな言葉。




「……ずるいな」



小さく呟く。




自分が聞いたくせに、



こんな答えをされるなんて、

思っていなかった。




でも。




嫌じゃない。



むしろ、



少しだけ――



嬉しい。




胸の奥に、

じんわりと広がるものを感じながら、



ユイは、

ゆっくりと打ち込む。




「そっか」




短い返事。




それだけなのに、



何度も見直してしまう。




もっと何か、



言ったほうがいい気もする。




でも、



今はこれ以上、



踏み込んだら壊れそうで。




送信。





レンのスマホが、

また震える。




「……そっか、か」




少しだけ笑う。




期待していたわけじゃない。



でも、



もう少し何か来るかもって、



どこかで思っていた。




「欲張りすぎだろ」




自分に言い聞かせる。




それでも。




さっきの「嬉しかった」は、



間違ってなかったと、

思えていた。




スマホを閉じかけて、



手が止まる。




このまま終わるのか。




それとも――




「……いや」




また開く。




指が、



今度は迷わず動いた。




「また話そ」




送信。





ユイの画面に、

すぐに届く。




その一文を見た瞬間、



少しだけ、

呼吸が軽くなる。




終わらなかった。




それだけで、



こんなにも安心するなんて。




「……うん」



小さく頷く。




そして、



今度は迷わず打つ。




「またね」




送信。





会話は、

そこで途切れる。




でも、



さっきまでとは違う。




終わりじゃない、



続きがある前提の「またね」。




スマホの画面が消えても、



指先には、



まだ少しだけ、



熱が残っていた。




名前はまだない。



でも、



その距離は、



もう簡単には、



離れない気がしていた。

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