まだ名前のない距離 14 言葉の温度
既読がついたのは、
ほとんど同時だった。
◇
ユイは画面を見つめたまま、
少しだけ息を止める。
◇
「そっちもな」
◇
たったそれだけの返信。
◇
なのに。
◇
胸の奥が、
少しだけ軽くなる。
◇
◇
「……なんだ、それ」
◇
思わず笑う。
◇
◇
期待してたわけじゃない。
◇
でも、
◇
返ってきたことが、
こんなに嬉しいなんて。
◇
◇
指が、
またキーボードの上に乗る。
◇
今度は、
◇
さっきよりも、
少しだけ自然に。
◇
◇
「今日さ」
◇
打って、
◇
一瞬だけ止まる。
◇
◇
でも、
◇
消さなかった。
◇
◇
「ちょっとびっくりした」
◇
◇
送る。
◇
◇
◇
一方で。
◇
レンは、
返信を送ったあとも
◇
スマホを手放せずにいた。
◇
◇
「……これで終わりか?」
◇
◇
自分で送っておいて、
◇
少しだけ、
物足りなさを感じる。
◇
◇
でも、
◇
続ける理由も、
言葉も浮かばない。
◇
◇
そのとき。
◇
また震える。
◇
◇
「……早」
◇
思わず呟く。
◇
◇
画面を開く。
◇
ユイからのメッセージ。
◇
◇
「今日さ
ちょっとびっくりした」
◇
◇
レンは、
その一文をしばらく眺める。
◇
◇
「……俺もだよ」
◇
小さく呟く。
◇
◇
指が動く。
◇
今度は、
さっきより少しだけ長く。
◇
◇
「俺もびっくりした
あんなこと言うとは思わなかったし」
◇
◇
送信。
◇
◇
◇
ユイの画面に、
また新しい通知が届く。
◇
◇
開く。
◇
◇
その文章を読んで、
◇
少しだけ目を細める。
◇
◇
「……あんなこと、か」
◇
◇
自分でも、
ちゃんと覚えている。
◇
◇
「まだ、なくならないでほしいね」
◇
◇
あの言葉。
◇
◇
軽い冗談のつもりだったのか、
◇
それとも。
◇
◇
「……どっちだよ」
◇
小さく呟く。
◇
◇
でも。
◇
◇
さっきよりも、
◇
言葉は、
ちゃんと前に進んでいる。
◇
◇
ユイは、
少しだけ考えてから、
◇
ゆっくりと打ち込む。
◇
◇
「変だった?」
◇
◇
送る。
◇
◇
◇
レンは、
そのメッセージを見て、
◇
一瞬だけ固まる。
◇
◇
「変、か……」
◇
◇
正直に言えば、
◇
少しだけ、
ドキッとした。
◇
◇
でもそれを、
そのまま言うのは、
◇
なんとなく違う気がして。
◇
◇
「いや」
◇
打つ。
◇
◇
少しだけ迷って、
◇
でも、
◇
止まらなかった。
◇
◇
「嬉しかった」
◇
◇
送信。
◇
◇
◇
その一言は、
◇
短いのに、
◇
今までで一番、
◇
まっすぐだった。
◇
◇
ユイの目が、
少しだけ見開かれる。
◇
◇
「……え」
◇
◇
心臓の音が、
少しだけ速くなる。
◇
◇
さっきまでの距離が、
◇
また、
◇
ほんの少しだけ、
◇
近づく。
◇
◇
言葉の温度は、
◇
画面越しでも、
◇
ちゃんと伝わる。
◇
◇
まだ名前はないけれど。
◇
◇
その距離は、
◇
確かに、
◇
変わり始めていた。




