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まだ名前のない距離 13

気づかないふりの、その先で



夜は、思っていたより静かだった。



部屋の時計の音だけが、

やけに響く。




ユイはベッドに座ったまま、

スマホを手の中で転がしていた。



開いては閉じて、

また開いて。



同じ画面を、

何度も行き来する。




「……もういいや」



そう呟いて、

天井を見る。




でも。



指は、また画面に触れていた。




トーク画面。



レンの名前。




今度は、

ほんの少しだけ、



キーボードに指を乗せる。




「さっきは——」



そこまで打って、



止まる。




「違うな」



全部消す。





一方で。



レンは自分の部屋の椅子に座りながら、

スマホを机の上に置いていた。




視線は、そこから外れているのに。



気配だけは、

ずっとそこにある。




「……来るわけないか」



小さく呟く。




理由なんて、

いくらでもある。



送る必要も、

送られる理由も。




それでも。




「……いや」



レンはスマホを手に取る。




画面を開く。



トーク一覧。




ユイの名前は、

少し上の方にある。




指が伸びて、



でも、触れる直前で止まる。




「……なんて送るんだよ」




同じ言葉を、

違う場所で呟いている。





そのとき。



ユイの指が、

ほんの少しだけ動いた。




「おつかれ」



短い一言。




送信ボタンの上で、

また止まる。




「……今さらすぎるか」




画面の中の文字が、

やけに他人行儀に見える。




でも。



消そうとして、



やめた。




そのまま、



ゆっくりと、押す。





送信。





同じ瞬間。



レンのスマホが震えた。




一瞬だけ、

呼吸が止まる。




視線が、

自然と画面に落ちる。




通知。



ユイ。




「……マジか」




少しだけ笑う。




開く。




たった一言。



「おつかれ」




それだけなのに。




さっきまでの距離が、

少しだけ近づいた気がした。




レンは、少しだけ考えて、



すぐに打ち込む。




「そっちもな」




短い返信。



でも、



さっきより迷わなかった。





画面越しに繋がる距離。



それはまだ、



名前を持たないまま。




でも。




確かに、



さっきよりも少しだけ、



近くなっていた。

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