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まだ名前のない距離 12

触れそうで、触れないまま



改札を抜けたあとも、

レンの足は少しだけ重かった。



さっきの言葉が、

うまく離れてくれない。



「まだ、なくならないでほしいね」



たったそれだけなのに。




ホームに電車が入ってくる。



風が強く吹いて、

考えを一度だけ散らした。




……別に、深い意味なんてない。



そう思おうとした。



でも。




ドアが開く。



人の流れに押されるように乗り込む。




窓に映る自分の顔は、

いつもと同じはずなのに、



どこかだけ違って見えた。




「はぁ……」



小さく息を吐く。



誰にも聞こえないくらいの音。





その頃。



ユイは、まだ改札の前にいた。




レンの背中が見えなくなっても、

しばらくその場を動かなかった。




「……言いすぎたかな」



小さく呟く。




でも、すぐに首を振る。




「ううん」




むしろ、足りないくらいかもしれない。




そう思って、少しだけ笑った。





帰り道。



一人で歩くには、

少しだけ広い気がする道。




さっきまで並んでいた距離を、

無意識に思い出してしまう。




歩幅。



声の高さ。



沈黙の長さ。




全部、ちゃんと覚えている。




「……変なの」




昨日までは、こんなこと考えなかったのに。





家に着いて、

靴を脱いだ瞬間。




ふと、スマホに目がいく。




連絡を取る理由なんて、

特にない。




でも。




少しだけ迷って、



画面を開いた。




トーク画面。



レンの名前。




指が、止まる。




「……なんて送るの」




苦笑い。




結局、何も打たないまま、

画面を閉じた。





その頃、電車の中。



レンはポケットの中で、

スマホの振動に気づいた。




……気のせいだった。



通知は何も来ていない。




なのに、なぜか取り出して確認してしまう。




「……何やってんだ」



小さく呟く。




画面を閉じる。




でも、すぐにまた開く。




何も変わっていない。





電車は次の駅に止まる。



人が乗ってきて、少しだけ距離が縮まる。




でも。




さっきまでの距離には、

どうしても戻らない。





同じ時間に、

違う場所で。



同じことを考えているなんて、



二人ともまだ、気づいていない。





名前のない距離は、



少しずつだけど、



確かに形を持ち始めていた。

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