まだ名前のない距離 12
触れそうで、触れないまま
◇
改札を抜けたあとも、
レンの足は少しだけ重かった。
◇
さっきの言葉が、
うまく離れてくれない。
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「まだ、なくならないでほしいね」
◇
たったそれだけなのに。
◇
◇
ホームに電車が入ってくる。
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風が強く吹いて、
考えを一度だけ散らした。
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◇
……別に、深い意味なんてない。
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そう思おうとした。
◇
でも。
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◇
ドアが開く。
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人の流れに押されるように乗り込む。
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◇
窓に映る自分の顔は、
いつもと同じはずなのに、
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どこかだけ違って見えた。
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◇
「はぁ……」
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小さく息を吐く。
◇
誰にも聞こえないくらいの音。
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◇
◇
その頃。
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ユイは、まだ改札の前にいた。
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◇
レンの背中が見えなくなっても、
しばらくその場を動かなかった。
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◇
「……言いすぎたかな」
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小さく呟く。
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◇
でも、すぐに首を振る。
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◇
「ううん」
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むしろ、足りないくらいかもしれない。
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◇
そう思って、少しだけ笑った。
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◇
◇
帰り道。
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一人で歩くには、
少しだけ広い気がする道。
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◇
さっきまで並んでいた距離を、
無意識に思い出してしまう。
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◇
歩幅。
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声の高さ。
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沈黙の長さ。
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◇
全部、ちゃんと覚えている。
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◇
「……変なの」
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昨日までは、こんなこと考えなかったのに。
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◇
家に着いて、
靴を脱いだ瞬間。
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◇
ふと、スマホに目がいく。
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◇
連絡を取る理由なんて、
特にない。
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でも。
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少しだけ迷って、
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画面を開いた。
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トーク画面。
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レンの名前。
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指が、止まる。
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「……なんて送るの」
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苦笑い。
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結局、何も打たないまま、
画面を閉じた。
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◇
◇
その頃、電車の中。
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レンはポケットの中で、
スマホの振動に気づいた。
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◇
……気のせいだった。
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通知は何も来ていない。
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なのに、なぜか取り出して確認してしまう。
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◇
「……何やってんだ」
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小さく呟く。
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画面を閉じる。
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でも、すぐにまた開く。
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何も変わっていない。
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◇
◇
電車は次の駅に止まる。
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人が乗ってきて、少しだけ距離が縮まる。
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◇
でも。
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◇
さっきまでの距離には、
どうしても戻らない。
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◇
◇
同じ時間に、
違う場所で。
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同じことを考えているなんて、
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二人ともまだ、気づいていない。
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◇
◇
名前のない距離は、
◇
少しずつだけど、
◇
確かに形を持ち始めていた。




