↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/85

まだ名前のない距離 8(続き)

公園の空気は、

妙に静かだった。


◇


遠くで、

小学生の笑い声がする。


◇


でも、

このベンチの周りだけ——


◇


時間が止まってるみたいだった。


◇


ユイはまだ、

少し俯いたまま。


◇


レンはそんな横顔を、

まともに見れない。


◇


「……なんか言えよ」


◇


先に耐えきれなくなったのは、

レンだった。


◇


するとユイが、

小さく吹き出す。


◇


「何それ」


◇


「いや、空気が重い」


◇


「自分で重くしたくせに」


◇


「お前が聞いたんだろ……」


◇


反論すると、


◇


ユイは肩を揺らして笑った。


◇


その笑い方に、

少しだけ救われる。


◇


◇


さっきまでの緊張が、

ほんの少しだけほどける。


◇


風がまた吹く。


◇


ユイの髪が、

ふわりと揺れた。


◇


レンは無意識に、

その横顔を見てしまう。


◇


◇


——近い。


◇


昨日よりも。


◇


多分、

今日の朝よりも。


◇


もう、

前みたいには戻れないくらい。


◇


◇


「レン」


◇


「ん?」


◇


ユイは前を向いたまま、

静かに言う。


◇


「私さ」


◇


「うん」


◇


「昨日からずっと考えてた」


◇


その声は、

からかう時とは違う。


◇


まっすぐで、

少しだけ不安そうで。


◇


◇


「もしレンに、“なんとも思ってない”って言われたら——」


◇


そこで一回、

言葉が止まる。


◇


◇


「結構へこむな、って」


◇


◇


レンの呼吸が止まりそうになる。


◇


ユイは苦笑する。


◇


「自分で聞いといて変だけど」


◇


「……」


◇


「でも確認したかった」


◇


小さな声。


◇


それなのに、

胸の奥に真っ直ぐ届く。


◇


◇


レンはゆっくりと、

背もたれに体を預けた。


◇


空を見る。


◇


夕方前の空は、

まだ少し明るい。


◇


◇


「へこんでたのかよ」


◇


ぽつりと呟く。


◇


するとユイが、

少しだけ睨んでくる。


◇


「そりゃへこむでしょ」


◇


「……そういうもん?」


◇


「そういうもん」


◇


即答。


◇


レンは思わず笑ってしまう。


◇


◇


その瞬間。


◇


ユイの肩が、

ほんの少しだけ触れた。


◇


◇


お互い、

避けない。


◇


ただそれだけなのに、


◇


心臓がうるさい。


◇


◇


ユイは前を向いたまま、

小さく呟く。


◇


「……私はさ」


◇


レンの喉が、

無意識に鳴る。


◇


◇


「多分、結構前から好きだったよ」


◇


◇


世界が、

静かになる。


◇


風の音も、

遠くの声も、


◇


全部、

一瞬だけ消えた気がした。


◇


レンは言葉を失う。


◇


ユイは恥ずかしくなったのか、

少しだけ顔を逸らす。


◇


「なんか反応してよ……」


◇


その声が、

珍しく弱い。


◇


◇


レンは数秒遅れて、

やっと息を吐いた。


◇


「……マジか」


◇


「マジ」


◇


「いや、なんか……」


◇


うまく言葉が出ない。


◇


でも、


◇


胸の奥だけは、

はっきりしていた。


◇


◇


嬉しい。


◇


多分、

想像してたよりずっと。


◇


◇


レンは頭を掻きながら、

苦笑する。


◇


「それ聞いたあとで、“分かんねえ”は無理だろ……」


◇


ユイが、

少しだけ目を見開く。


◇


◇


「俺も、多分——」


◇


そこで一回、

言葉を探す。


◇


でも、

探したところで答えは一つだった。


◇


◇


「お前のこと、かなり好きだと思う」


◇


◇


言った瞬間、

顔が熱くなる。


◇


こんなに恥ずかしいのかと、

今さら知る。


◇


◇


ユイは数秒固まって——


◇


それから、

ふにゃっと笑った。


◇


◇


「……なにその告白」


◇


「うるせえ」


◇


「でも嬉しい」


◇


そう言って、

少しだけ肩を寄せてくる。


◇


今度は、

はっきり触れた。


◇


◇


レンはもう、

避けなかった。


◇


◇


まだ名前のない距離。


◇


でもその距離はもう、


◇


“ただの友達”では、

いられない場所まで来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。