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まだ名前のない距離 8(続き)

公園の空気は、

妙に静かだった。



遠くで、

小学生の笑い声がする。



でも、

このベンチの周りだけ——



時間が止まってるみたいだった。



ユイはまだ、

少し俯いたまま。



レンはそんな横顔を、

まともに見れない。



「……なんか言えよ」



先に耐えきれなくなったのは、

レンだった。



するとユイが、

小さく吹き出す。



「何それ」



「いや、空気が重い」



「自分で重くしたくせに」



「お前が聞いたんだろ……」



反論すると、



ユイは肩を揺らして笑った。



その笑い方に、

少しだけ救われる。




さっきまでの緊張が、

ほんの少しだけほどける。



風がまた吹く。



ユイの髪が、

ふわりと揺れた。



レンは無意識に、

その横顔を見てしまう。




——近い。



昨日よりも。



多分、

今日の朝よりも。



もう、

前みたいには戻れないくらい。




「レン」



「ん?」



ユイは前を向いたまま、

静かに言う。



「私さ」



「うん」



「昨日からずっと考えてた」



その声は、

からかう時とは違う。



まっすぐで、

少しだけ不安そうで。




「もしレンに、“なんとも思ってない”って言われたら——」



そこで一回、

言葉が止まる。




「結構へこむな、って」




レンの呼吸が止まりそうになる。



ユイは苦笑する。



「自分で聞いといて変だけど」



「……」



「でも確認したかった」



小さな声。



それなのに、

胸の奥に真っ直ぐ届く。




レンはゆっくりと、

背もたれに体を預けた。



空を見る。



夕方前の空は、

まだ少し明るい。




「へこんでたのかよ」



ぽつりと呟く。



するとユイが、

少しだけ睨んでくる。



「そりゃへこむでしょ」



「……そういうもん?」



「そういうもん」



即答。



レンは思わず笑ってしまう。




その瞬間。



ユイの肩が、

ほんの少しだけ触れた。




お互い、

避けない。



ただそれだけなのに、



心臓がうるさい。




ユイは前を向いたまま、

小さく呟く。



「……私はさ」



レンの喉が、

無意識に鳴る。




「多分、結構前から好きだったよ」




世界が、

静かになる。



風の音も、

遠くの声も、



全部、

一瞬だけ消えた気がした。



レンは言葉を失う。



ユイは恥ずかしくなったのか、

少しだけ顔を逸らす。



「なんか反応してよ……」



その声が、

珍しく弱い。




レンは数秒遅れて、

やっと息を吐いた。



「……マジか」



「マジ」



「いや、なんか……」



うまく言葉が出ない。



でも、



胸の奥だけは、

はっきりしていた。




嬉しい。



多分、

想像してたよりずっと。




レンは頭を掻きながら、

苦笑する。



「それ聞いたあとで、“分かんねえ”は無理だろ……」



ユイが、

少しだけ目を見開く。




「俺も、多分——」



そこで一回、

言葉を探す。



でも、

探したところで答えは一つだった。




「お前のこと、かなり好きだと思う」




言った瞬間、

顔が熱くなる。



こんなに恥ずかしいのかと、

今さら知る。




ユイは数秒固まって——



それから、

ふにゃっと笑った。




「……なにその告白」



「うるせえ」



「でも嬉しい」



そう言って、

少しだけ肩を寄せてくる。



今度は、

はっきり触れた。




レンはもう、

避けなかった。




まだ名前のない距離。



でもその距離はもう、



“ただの友達”では、

いられない場所まで来ていた。

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