表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/82

まだ名前のない距離 8(続き)

翌朝。


目覚ましより少し早く、

レンは目を開けた。



「……早すぎだろ」



呟きながらも、

二度寝する気にはなれない。



頭のどこかが、

もう“今日”を待っている。



スマホを見る。


まだ、何も来ていない。



(当たり前か)



苦笑して、

ベッドから降りる。



顔を洗いながら、

ふと思い出す。



『楽しみにしといて』



水の冷たさよりも、

その言葉のほうがやけに残る。



「……何なんだよ、ほんと」



でも——



嫌じゃない。




登校。



いつもと同じ道。


いつもと同じ景色。



なのに今日は、

少しだけ色が違って見える。



(意識しすぎだろ……)



自分で自分にツッコミを入れる。



校門が見えてくる。



その瞬間——



いた。



ユイが、

門の少し手前に立っている。



「……は?」


思わず足が止まる。



まだ朝だ。


約束は“放課後”のはず。



なのに——



ユイはこっちに気づくと、

軽く手を振った。



「おはよ」



まるで、

いつもみたいな声。



でも——



その“いつも”が、

どこか違う。



「……おはよ」


レンも返す。



少しだけ、

間ができる。



「早くない?」



レンが言うと、

ユイは少しだけ笑う。



「たまたま」



絶対嘘だろ、と思う。



でも、

それを指摘するほどの勇気はない。



二人で並んで歩き出す。



距離は、

昨日と同じくらい。



でも——



その間にある空気は、

確実に変わっている。



「今日さ」


ユイがぽつりと口を開く。



「うん?」



「ちゃんと時間、空けといてよ?」



軽い調子。



だけど、

逃げ場のない言い方。



レンは少しだけ視線を逸らす。



「……空けてるって」



それだけ言うのが、

やっとだった。



ユイは満足そうに、

小さく頷く。



「よし」



それ以上は、

何も言わない。



でも——



その一言で、

十分だった。



(“ちょっと”じゃねえだろ、これ)



心の中でツッコむ。




教室。



席に座る。



いつも通りの時間が始まる。



先生の声。


ノートを取る音。



全部、同じはずなのに——



集中できない。



(長い……)



時計を見る回数が、

明らかに増えている。



ふと、

横を見る。



ユイは普通に授業を受けている。



いつも通り。



……いや。



ほんの少しだけ、

楽しそうに見える。



目が合う。



一瞬だけ。



ユイが、

わずかに口角を上げる。



レンはすぐに目を逸らす。



(やめろって……)



心臓が、

またうるさくなる。




そして——



放課後。



チャイムが鳴る。



その音が、

やけに大きく聞こえた。



「じゃあ」



ユイが立ち上がる。



レンを見る。



「行こ」



短くて、

逃げ道のない一言。



レンも立ち上がる。



「……どこだよ」



聞くと、


ユイは少しだけ振り返って——



「秘密」



昨日と同じ答え。



でも今日は——



その先がある。



「ついてきて」



そう言って、

歩き出す。



レンは一瞬だけ立ち止まる。



でも——



すぐに、

その背中を追いかけた。



まだ名前のない距離。



その“ちょっと”の先に、


何があるのか——



二人は、

もうすぐ知ることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ