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19/85

まだ名前のない距離 8(続き)

ベッドの上で、

レンはスマホを胸の上に乗せたまま、しばらく動かなかった。


『明日』


たったそれだけの言葉が、

やけに重く、そして軽くも感じる。


◇


(明日って……)


頭の中で何度も繰り返す。


◇


「……いや、普通に学校だろ」


当たり前のことを口にする。


でも、その“当たり前”が、

今日は少し違って見える。


◇


明日も同じ教室で、

同じ席で、

同じ時間を過ごすはずなのに。


◇


(“次に会う”って、そういう意味じゃないだろ)


なんとなく、わかってしまう。


◇


レンはゆっくりと起き上がる。


スマホをもう一度手に取る。


◇


(どうすんだよ、これ)


返すべきか、

それともこのまま終わらせるか。


◇


数秒、迷って——


◇


『どこで?』


◇


送信。


◇


今度は、少しだけ心臓の音がうるさい。


◇


すぐには既読がつかない。


◇


(風呂か……)


さっきのメッセージを思い出して、

少しだけ落ち着く。


◇


スマホをベッドに放り投げて、

レンは立ち上がる。


◇


部屋の中を、意味もなく一周する。


◇


机。


椅子。


カーテン。


全部、いつもと同じ。


◇


なのに——


◇


(なんでこんな落ち着かねえんだよ)


◇


再びベッドに座る。


その瞬間。


◇


震えた。


◇


「っ……」


反射的に手を伸ばす。


◇


既読。


◇


『学校終わり』


『ちょっとだけ』


◇


短いけど、

ちゃんと続きがある。


◇


レンは画面を見つめる。


◇


“ちょっとだけ”


その言葉に、

なぜか妙に引っかかる。


◇


(ちょっとってなんだよ)


◇


でも——


◇


その“ちょっと”が、

特別に感じてしまうのも事実で。


◇


『了解』


打ちかけて、

止まる。


◇


(それだけか?)


◇


さっき感じた“物足りなさ”が、

また顔を出す。


◇


ほんの少しだけ、考えて——


◇


『どこ行く?』


◇


送信。


◇


今度は、

少しだけ笑ってしまう。


◇


「……俺、こんなだったか?」


◇


前より、

少しだけ踏み込んでいる気がする。


◇


でも、不思議と嫌じゃない。


◇


むしろ——


◇


どこか楽しい。


◇


少しして、返信。


◇


『秘密』


◇


一言。


◇


「は?」


思わず声が出る。


◇


続けて——


◇


『楽しみにしといて』


◇


レンは、

しばらく画面を見たまま固まる。


◇


(なんだそれ……)


◇


文句を言いたいのに。


◇


口元が、

勝手に緩む。


◇


『はいはい』


◇


そう返して、

スマホを置く。


◇


天井を見上げる。


◇


さっきよりも、

ずっと静かだ。


◇


だけど——


◇


その静けさの中に、

確かに何かがある。


◇


「……明日、か」


◇


ぽつりと呟く。


◇


それはただの予定じゃなくて、


少しだけ、

特別な約束みたいに聞こえた。


◇


まだ名前のない距離。


◇


でも——


◇


その距離は、

確実に“縮まる方向”に動いている。


◇


明日。


その“ちょっと”の中で、


何が起きるのかは、まだわからない。


◇


ただ一つだけ、言えること。


◇


レンはもう——


◇


その続きを、

楽しみにしている。

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