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いなくなる前提の冗談が、ちょっとだけ重すぎる

放課後の教室は、夕日でオレンジ色に染まっていた。

黒板にはまだ今日の授業の跡が残っていて、消し忘れた数式がやけに寂しそうに見える。


俺はカバンを肩にかけながら、帰るタイミングを失っていた。


というか、原因は一つしかない。


「ねえミナ、まだ帰らないの?」


振り向くと、当然のように水瀬ユイが机に頬杖をついてこっちを見ていた。


「お前がいるからだろ」


「え、なにそれ。私待ちってこと?」


「違う」


即答したのに、ユイはニヤッと笑う。


「ふーん。じゃあ私がいなくなったら、ちゃんと帰るんだ」


「……は?」


何気ない言い方だった。

いつもの冗談の延長みたいな声だった。


なのに、一瞬だけ空気が変わる。


「またそれかよ」


「またって何よ。私、結構大事なこと言ってるんだけど?」


ユイは立ち上がって、机の上を軽く指で叩いた。


コツ、コツ、と小さな音だけが教室に響く。


「ミナってさ」


「なんだよ」


「私がいなくなる前提の話、やけに慣れてるよね」


その言葉に、思わず視線をそらす。


「別に慣れてない」


「うそ」


即答。


ユイは一歩だけ近づいてきた。


「じゃあさ」


「もし明日、私が本当に来なかったら」


「……」


「ミナ、どうする?」


風が入ってきて、カーテンが少し揺れた。


その音だけが、やけに大きい。


「……遅刻かどうか気にするだけだろ」


「つまんない答え」


ユイは少し笑って、それから急に真顔になった。


「でもさ、それってさ」


「私がいなくてもいいってこと?」


その一言だけ、やけに軽くて、やけに重かった。


返事が詰まる。


沈黙が落ちる。


その間を埋めるみたいに、ユイが小さく笑った。


「はい、今の間」


「意識したでしょ」


「してない」


「してた」


いつものやり取りに戻るはずなのに、なぜか今日は少しだけ違う。


ユイはカバンを持ち上げて、教室の出口に向かう。


「じゃ、また明日」


扉の前で一度だけ振り返って、


「来なかったら、迎えに来てよね」


そう言って、今度は本当に出ていった。


教室に残されたのは、俺と夕日の光だけだった。


そしてなぜか、その言葉だけがやけに残っていた。

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