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まだ、名前のない距離 7(続き)

電車の揺れは、思ったより静かだった。


窓の外の景色だけが、少しずつ形を崩して流れていく。


街灯。ビル。知らない駅の看板。


全部、同じ速さで過ぎていくのに、

なぜかレンの中だけが少し遅れていた。



隣。


ユイは座席にもたれず、まっすぐ前を見ている。


スマホも出さない。

話しかけてもこない。


ただ、そこにいる。


それだけなのに、妙に気になる。



(さっきの続き、って何なんだよ)


レンは思う。


ユイが言った「途中」という言葉が、頭の中で反響する。


途中。


終わってもいないし、始まりきってもいない。


それは安心なのか、不安なのかもわからない。



「ねえ」


不意にユイが言う。


レンは少しだけ反応が遅れる。


「……なんだよ」


「今さ」


ユイは窓の外を見たまま続ける。


「何考えてた?」



レンは一瞬詰まる。


正直に言うには、言葉が足りない。

適当にごまかすには、少しだけ重い。


「別に」


結局、それしか出てこない。



ユイは笑わない。


でも責めもしない。


ただ、小さく息を吐く。


「そっか」



その一言が、なぜか少しだけ優しく聞こえた。



電車がカーブに入る。


車内がわずかに傾く。


その瞬間だけ、ユイの肩がほんの少しレンに近づく。


意図的じゃない距離。


でも、確かにそこにある距離。



レンは動けなかった。


避けることもできたし、離れることもできたのに、

なぜかそれをしなかった。



(こういうの、なんなんだよ)


心の中でだけ、そう思う。


でも答えは出ない。


出そうともしない。



駅に着くアナウンスが流れる。


「次は——」


ユイが立ち上がる。


レンも遅れて立つ。



ホームに降りると、空気が少し冷たかった。


さっきまでの密度が、少しだけ薄くなる。



「じゃあね」


ユイが言う。


いつものように軽く。


でも、いつもと同じではない何かが混ざっている。



レンは一瞬だけ迷って、


「おう」


とだけ返す。


それ以上は出てこない。



ユイは背を向けて歩き出す。


数歩進んでから、ふと止まる。


そして振り返らずに言った。


「レン」


「……なんだよ」


「たぶんさ」


少しだけ間。


「わかんないままでも、いい時ってあるよね」



それだけ言って、今度こそ歩いていく。



レンはその背中を見送る。


見送っているだけなのに、

なぜか置いていかれた感じはしなかった。


むしろ逆だった。



(わかんないまま、か)


それを口の中で反芻する。


嫌じゃない。


でも、はっきりもしていない。



電車の音が遠ざかる。


駅のホームに残る人はもう少ない。


レンはしばらく動かずに立っていた。



“途中”


その言葉だけが、静かに残っている。


そしてそれは、

不思議と終わりの言葉には聞こえなかった。



まだ、名前のない距離。


それは今日も、少しだけ形を変えている。


終わりに近づいているのか、

始まりに近づいているのかもわからないまま。

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