表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/85

まだ、名前のない距離 5

その日の夜。


レンはベッドに寝転がっていた。


天井を見ているだけなのに、さっきまでの感覚がまだ残っている。


(なんなんだよ……)


手を握られただけ。


それだけのはずだ。


それだけのはずなのに――


落ち着かない。



「ちゃんとここにいる」


ユイの声が、妙に頭の中で繰り返される。


(意味わかんねえっての)


そう思うのに、否定が弱い。


むしろ、少しだけ納得している自分がいるのが気に入らない。



翌朝。


教室に入ると、ユイはもう来ていた。


いつも通り机に座っている。


ただ――


昨日より少しだけ、レンの方を見ていない。


「おはよ」


「……おう」


返事は普通。


距離も普通。


なのに。


昨日より遠い気がした。



「ねえ、レン」


昼休み前。


ユイが急に声をかける。


「なんだよ」


「今日さ」


「うん」


「何もない?」


「何もってなんだよ」


「特に」


少しだけ間が空く。


「うん、ない」


そう言ってユイは前を向いた。



その反応が、逆に引っかかる。


(なんだよ、それ)


昨日はあんなに踏み込んできたのに。


今日は、引くのか。



昼休み。


レンは結局、気になって廊下に出ていた。


「おい」


後ろから声。


振り返るとユイ。


「……何」


「別に」


「別にってなんだよ」


「ついてきただけ」


「意味わかんねえ」


でも、また並んで歩くことになる。



人気のない階段。


昨日と同じ場所。


ユイは一段上に座る。


今度は、距離がある。


「昨日さ」


「……ああ」


「ちょっとだけね」


「うん」


「安心したって言ったじゃん」


「言ってたな」


「でもね」


そこで言葉が切れる。



ユイは膝に頬杖をつく。


「安心ってさ」


「うん」


「続くと怖いんだよね」


「は?」


レンは思わず声を出す。


「なんでだよ」


「だってさ」


ユイは少しだけ笑う。


「慣れたら終わるじゃん」



その言葉に、レンは返せなかった。


終わる。


その発想が、なぜか妙にリアルだった。



「だからさ」


ユイは立ち上がる。


「今日はこれくらいでいい」


「何がだよ」


「距離」


そう言って階段を降りる。



すれ違う瞬間。


ほんの一瞬だけ、


肩が触れた。


昨日より短い接触。


なのに――


なぜか昨日より重い。



「レン」


背中越しに声。


「何だよ」


「また明日ね」


「……ああ」


それだけ。


それだけなのに。



その日の帰り道。


レンは気づく。


(あいつ、わざとやってる)


近づく。


離れる。


試すみたいに。



そしてもう一つ。


(俺も、それに振り回されてる)


その事実だけは、


妙にハッキリしていた。



まだ名前のない関係。


まだ形にならない距離。


でも確実にひとつだけ言える。


昨日より今日。


今日より明日。


もう――


何もなかったことには戻れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ