第31話
病棟へと運ばれた三人は、「同じ病室にして! お願いお願いお願い!」と駄々をこねたミオの頑張りにより、それぞれ治療を受けた後、同室で再会することとなった。
左腕を回し感覚を確かめる九十九の横で、ミオが目目のリハビリを手伝っている。
白を通り越して青くなっていた目目の顔にも、だいぶ血色が戻っている。
「す、凄いです! 痛くないです!」
肩を借りながらその場でジャンプする目目が、驚きに目を丸くする。
「ここの医療技術は、表の世界の数世紀上だからね。死んでなきゃだいたい治るよ」
九十九も殆ど痕すら残っていない左肩に感謝し、傍のジュースで喉を潤す。
いつもなら、ではさようならまたどこかで。と直帰するところだが、今日はまだ二人といたい。
当然、理由はある。
「ミオさん、目目さん、二つ聞きたいことがあるのですが、良いでしょうか?」
ベッドの上で姿勢を正した九十九に、ミオは嫌そ〜うな顔をする。
「あのさぁ九十九君、いつまで他人行儀でいるつもりなん? 私ら命かけた仲っしょ?」
「うんうん。九十九さんのためなら、私何でもするよ!」
「あ、何でもって言った〜! 年頃の男の子に何でもって言っちゃった〜!」
「え? え⁉︎」
勝手に騒ぎ出す二人に、九十九も笑ってしまう。
「はいはい。バカ言ってないで、落ち着いてね」
「バカって言われた!」
「一つ目の質問。ミオさんも目目さんも、あと篝って人もそうだったんだけど、これって偽名付けてる感じ?」
そう、ずっと気になっていた違和感。こっちは自己紹介しているのに、相手はキャラネームを言っているような、そんな違和感。梟さんとかその最たる例だった。
「あーね。偽名って言うか、プレイヤーネーム? 付けてる人は多いよ。まぁ私は本名だけどね。普通のゲームと違って顔見えるし、ちょい恥ずかったから」
「私は自分の異能が目に由来していたので、目目にしました」
「え、それめっちゃ良い。センスやば」
「えへへ」
道理で珍しい名前が多いわけだ。九十九は顎に手を当て、考える。
……本名にする弊害として、実生活に影響が出る可能性がある。ソースは僕。またストーカーに目をつけられたりしたら、今度こそ引っ越さなければならなくなる。
「……僕も変えようかな。名前」
「え? 九十九君二回目でしょ? もう無理だよ?」
「え?」
「二回目までに決めないといけないから。もう本登録されちゃってるね」
……言われてみれば、注意事項の端っこにちっちゃく書いてあった気がしなくもない。まさかストーキングされるなんて思ってもみなかったからな。完全に忘れていた。
「別に困ってもいないし、それならいいや。二つ目の質問ね」
僕としては、こっちが本題だ。
「異能が願望に由来しているっていう話を、もう少し詳しく聞きたい」
「え、そうなんですか?」
「そうらしいよ〜。ん〜ちょっと待ってね、思い出すから」
ポクポクとエセ一休さんのようなポーズを取るミオを、二人して正座で待つ。
「まぁ確証があるわけじゃないよ? 技術とか原理とか絶対に漏れないし。てか知ったらたぶん消されるし。ただ、私のボスがそういうの調べるの好きでさ」
「興味深い」
「ボス曰く、異能にはその人の深層意識が影響しているどうのこうのって。何か脳にそういうのを司っている場所があって、そこをスーパー科学技術で手術して、その人すら意識していない、根源的な願望を具現化している〜的なことだった気がする」
……根源的な願望。考え込む九十九を見て、ミオは口をモニョモニョさせ、腕を組み天井を見上げ、覚悟を決めたように溜息を吐いた。
「抽象的すぎて分かり辛いよね。具体例聞く?」
「具体例?」
「まぁ私の話なんだけどね。さっきも言ったけど、私の異能は人から声を奪っちゃう系の異能なわけ」
「……逆説的に、ミオさんは人から声を奪いたかった。ってことか」
「そうなっちゃうんだよね〜。……はぁ、私のお母さんね、かなりの毒親でさ〜。小さい頃から、お前なんて産まなきゃ良かっただの、さっさと死んでくれだの言われまくって育ったのよ、私。そのくせ私が高校生になって家を出たら、今度は寂しいとか吐かしやがって、挙げ句の果て親を捨てるのか? とかふざけたこと言い出してさ、もう殺してやろうかとも思ったんだけど、……やっぱり親は親だからさ、殺すなんてできないのよ」
涙を流す目目を見て、ミオは「何泣いてんのさ」と笑う。しかしその笑顔は、彼女らしくない自嘲を含んでいた。
「辛いこと思い出させてすみません。軽率でした」
「いいって。ここまで聞いたんだから最後まで聞きな」
ミオの強い瞳に気圧され、九十九は頷く。
「就職した病院ではお局のクソババァがうるせぇし、相変わらず親はうるせぇしっ、給料は少ねぇしッ、世の中クソだしさ! で、そんな時にTERRARIUMに誘われたんだよね。そこでボスに出会って、この話を聞かされたの。周りの奴ら全員黙らせたいって思ってたのは事実だから、嘘とは思えなくてさ。妙に納得しちゃったっていうか、吹っ切れられたっていうか、……その時、ようやく自分の本質が見えた気がした」
ミオはニパっと笑い、自身の胸を叩く。
「結論、私はこのアホみたいに命が軽い世界が好き。以上! ご清聴ありがとうございました!」
人一人の人生とその葛藤を垣間見て、九十九と目目は彼女に忌憚のない拍手を送った。




