第28話
数分後。
九十九が後ろを振り向くと、涙をポロポロと流す目目を、ミオが「頑張ったね〜」と抱きしめていた。
ミオさん、基本的には無慈悲だけど、仲間には優しいタイプなのか。デスゲームをやる上で、理想的な性格だな。参考にしよう。
綺麗に縫合された傷口を見て、九十九は感心する。
「手慣れていますね」
「私看護師だからね〜、こんくらいならお茶の子さいさいよ。ほいできた」
包帯を巻かれた足に感涙する目目が、深く深く頭を下げる。
「本当にっ、ありがとうございます。この恩はいつか、いつか必ず返しますっ」
「お礼を言うのはまだ早いですよ。目目さんは今何ptですか?」
「……0です。すみません」
「大丈夫ですよ。その傷であの高さまで登れた自分を誇ってください。となると、異能は身体強化系ですか?」
「あ、いえ。見た人の異能が分かる異能です。私は【鑑定眼】って呼んでます」
「見た人の異能が?」
本当に色んな種類があるんだな。てかそうなると、素の力だけでこの木の頂上まで? ……死に物狂いで逃げていたみたいだし、鍛冶場の馬鹿力というやつか。
木を見上げる九十九の横で、ミオが露骨に驚く。
「マジ⁉︎ 珍しっ。私数年ぶりに見たわ〜」
「そうなんですか?」
「うん。あんまいないし、見ただけで相手の切り札が分かるようなもんだから、チーム戦では結構重宝されるんだよ。本人では気付けない異能の特性とかも分かるから、そっち方面で稼いでいる人もいるしね」
「詳しいですね」
「この世界に来て二年目ともなると、嫌でも詳しくなるもんだよ。君らは?」
「僕は先週デビューです」
「わ、私は一ヶ月くらい前に。これで二回目です」
「新人すぎて草ぁ! え、逸材集まっちゃってんじゃん。ヤバ」
ヤバヤバ言ってくるミオに礼を言いながら、九十九は傷口に触れないよう目目を背負う。
「す、すみません。ありがとうございます」
「九十九君が背負うの? ブヨブヨ君に任せれば?」
「僕の両腕が塞がるより、アイギスの可動域が減る方が問題ですから。……それに、そろそろ仕掛けてきそうですし」
「お、流石九十九君。気づいてるね」
「え? な、何がでしょ――」
――ダンダンッバシュッ‼︎
「ぅひ⁉」という目目の悲鳴が、二発の銃声と一本の矢によって掻き消された。
隠れて奇襲を仕掛けた男達だったが、変な半透明の物体に当たった銃弾と矢が、ポテポテと地面に落ちる様を見て驚く。
「優しい九十九君は、あの人達も逃すのかな?」
「ハハ。まさか」
チラリと見えた人影。敵は二人。一人は二時方向の木の裏で銃を構えている。もう一人が不明。彷徨う触腕を見るに、アイギスも特定できていない様子。
「目目さん、捕まっていてください。ミオさんも僕から離れないで」
「喜んで!」とミオが九十九に抱きつくと同時に、彼の両腕と連動して触腕が伸び、前方の二本の木に吸着。触腕をギチギチと引き絞った九十九は、直後、まるでスリングショットの如く自身の体を打ち出した。
響く銃声。しかし空中で形を変えたアイギスが全て防いでくれる。
その際理解した。なぜ矢を放った者の位置を特定できなかったのか。
アイギスが銃弾を受け止めた瞬間、二本の矢が蛇のようにうねり飛来し、アイギスに突き刺さる。
矢を操る異能か、それとも飛び道具に干渉できる異能か。どちらにせよ、これに似た異能を僕は知っている。
九十九は初めての友人を懐かしみながら、両手両足で何とか着地。横を見れば、既に臨戦体勢に入っている敵と、笑いながら突っ込むミオの姿が。
「っ矢は任せてください!」
「アハハ! たっのしー‼︎」
「ッ舐めんなよクソ女ァ‼︎」
ハンドガンを投げ捨てた男の腕が、蜥蜴のような鱗に覆われていく。
ミオが発砲するも、鱗に弾かれ火花が散る。振り抜かれたラリアットをスライディングで躱したミオは、通り抜けざまにナイフで脇腹を切り裂き、立ち上がると同時に膝裏に発砲。彼女の読み通り、両腕以外に装甲は無し。堪らず膝を突いた男の背中に、ミオが思いっきりドロップキック。
「っグゥ⁉︎ テメェ――ッ⁉︎ ……ゴポっ……ク、そが」
倒れる男の先には、九十九に支えられて銃を放った目目。
彼女は大きく深呼吸し、九十九に銃を返した。
アイギスに矢から守ってもらいながら、ミオも彼女とハイタッチする。
「ナイスショット! あとはコソついてる弓人間を」
「ッ⁉︎ 伏せて‼︎」
直後、有無を言わさぬ剣幕で九十九が二人に覆い被さる。一瞬九十九の目に映ったのは、普通の矢の中に紛れた、手榴弾の括り付けられた矢であった。
アイギスが九十九を包むのとほぼ同時。矢が突き刺さり――爆発。
「ガっ⁉︎」「ぅぐっ⁉︎」「キャァ⁉︎」
半透明の体がちぎれ飛び、辺り一面の土と木の葉が大量に舞った。
転がった九十九は二人の無事を確認し、すぐさま顔を上げる。追撃はなし、向こうもこちらを見失っている。一か八かだッ。
「っガルム、耳!」
召喚されたガルムが、耳をピンと立てて集音する。一秒後。
「ッガルァ‼︎」
「アイギス!」
ガルムが振り向き吠えたと同時に、アイギスに切り替え。直後爆発。っっあっぶな⁉︎ 後ろ向きに転がった九十九は、無事な目目とミオを見て安堵する。
……気合い入れろよ、僕。今日一番の見せ場だぞ。呼吸を整えた九十九は、両手で強く銃を握った。




