第26話
先と同じくガルムを先行させ、周囲の状況を把握させている間、九十九は一際高い木の天辺からフィールド全域を見渡していた。
「うっわ、たっか、こっわ」
細い幹にしがみついた九十九は、自身の目線と水平に親指を立て、片目を瞑る。
……広さは約0.2㎢。新宿中央公園二個分と言ったところか。大小様々な木が鬱蒼としているから、視界も悪い。うかうかしていると、遭遇できずに終わりもあり得る。
とそこで、少し離れた場所にある大木の天辺で、自分と同じ格好をしている女性を見つける。……向こうも気づいたらしく、お互いにペコリと会釈する。
木登り仲間のよしみで協力したいが、まずは自分のポイントを稼がなければ。
それから数分。ガルムの帰りを待っていると、
「……ん?」
下の方から、荒々しい息遣いと落ち葉を踏む音が聞こえてきた。
ガルムかと思ったが、何やら音が重い。人間の、男か。
少しだけずり下がり、樹冠の隙間から覗いてみる。案の定、重装備を背負った太めの男が右往左往していた。
……九十九が周囲を見回すと、近くの木陰に隠れてこちらを見つめているガルムを発見。良い子だ。ジェスチャーで『その場で、吠えろ』と指示を出す。
「ガルァッ‼︎ ガウガウガゥルルッグルアッ‼︎」
「ヒィイ⁉︎」
見えない獣の威嚇に怯え、四方八方にサブマシンガンを乱射する男に向かって、九十九は木を飛び降りる。空中でナイフを抜き、一言。
「アイギス」
「死ねッどこだッ⁉︎ 出てこいクソ――ッギャぉえ⁉︎」
自身をゲルクッションで受け止めると同時に、太めの男を上から押し倒し拘束した。首側面をナイフで貫こうとした九十九の手が、しかしそこでピタリと止まる。
「……0か」
「助けっ助けてぇっぶふぅっ、ぶふぅっ、ヒィィッ……へ?」
解かれた拘束に放心している男から、九十九は「ちょっと借りますね」とサブマシンガンを拝借する。そして直後、傍らのアイギスに向けてブッ放した。
連続する重い反動に、思わず「おお」と声が漏れる。
「ヒギァアアア⁉︎ ぶひぃっ、ぶふぅ⁉︎」
ゲル状の体に少しめり込み、ポトポトと落ちる銃弾を見て九十九は笑みを浮かべた。
「ほんと優秀だな」
「(プルプル♪)」
検証完了。嬉しそうなアイギスを撫で、九十九は「ありがとうございました。お互い頑張りましょう」とサブマシンガンを男の手元に返す。
……意味が分からないのは、太めの男の方である。殺されそうになったと思ったら、いきなり武器を取られて乱射され、なぜか返されてその上労われたのだ。そりゃこんな顔にもなる。
太めの男はズレたヘルメットを直し、目を白黒させながら彼と彼の異能を見つめる。そして視線が気になり振り返った九十九に、「ヒィ⁉︎」と小さな悲鳴を上げた。
「……行かないんですか?」
「な、ななな何だお前⁉︎ 何だお前⁉︎」
「あの、あまり騒がないでください。声出せないようにしますよ?」
「ぶヒィイッ⁉︎」
ゴキブリの如く機敏に去っていく太めの男から視線を外し、「ガルム」と黒犬を呼ぶ。
ガルムから周囲のおおよその人数分布と戦力を聞き、九十九は早足で駆け出した。




